またのお越しを、森丸くん
私はまさか2度目の来店があると思わずフリーズしかけたが、カラオケの受付業務をしすぎているせいで、口から自動的に『ワンドリンクかドリンクバー制ですがどちらにしますか』を流すことができた。
森丸はまたドリンクバーを選んだ。今日は前回案内した上のフロアが埋まっているため、受付のあるこのフロアの部屋に通すことになった。
受付を終え部屋へ向かう森丸を見送っていると、キッチンにいたバイトの田無くんがやってきた。
「310の人、ご飯頼みすぎですよね。やっと終わりました」
「お疲れー。でもあの量をこんな早く作れるからすごいよ。20分も経ってないんじゃない?」
「そうですかね、もっといけた気がするなあ」
そう言って空を見つめて笑っている田無くんは、一つ下の大学2年生の男の子。田無くんは大学生のはずなのに、めちゃくちゃシフトに入っているし、めちゃくちゃ平日に働いている。
本人になぜこんなに入れるのか前聞いたことがあったけど『入りたいからですよー』という意思のみ答えてきて怖かった記憶がある。
ただ、たくさんシフトに入っていることもあり、とても仕事ができるのでシフトがかぶる時は安心する存在だ。でも、長いこと一緒に働いているのにいまだに全くどんな人なのか掴めない。穏やかに話してはくれるけど。
田無くんと私が並んで立っていると、奥の方から森丸がドリンクバーを取りにやって来た。
途中から田無くんがドリンクバーにいる森丸のことをガン見し始めた。さすがに見すぎているので私は気まずくなり、仲間だと思われないように目を逸らして作業するふりをした。
森丸が去った後、田無くんが口を開いた。
「あの人……」
「あの人が、何?」
もしかして、田無くんにバレるのか……?
「パインソーダ持って行きましたよ」
「パインソーダ?」
「はい、あれ取る人全然いないのに、さっきの人なみなみ入れて持って行きましたよ」
田無くんにはアイドルの森丸など見えておらず、レアメニューのボタンへ手を伸ばす変わった人として見つかっていた。
「確かにね、パインソーダ持ってく人ってあんまいないね」
「ですよね! あれ好きな大人もいるんだなあ。持ってくとしても子供しかいかないですよね!」
なぜか興奮する田無くんはその後も、ドリンクバーの補充のガロンはパインソーダだけ全然発注しない、他のジュースは毎週頼むのに、梅昆布茶ですら2週に1回は頼むのになど、いかにパインソーダが不人気かを熱弁してくれた。
「思うんですよ。ドリンクバーの炭酸ジュースといえばコーラとメロンソーダの2強じゃないですか。控えにもカルピスソーダがいる。炭酸以外もウーロン茶とかアイスティーは、初手やっぱこれで行きたいなって人も多いんで、それはそれで強い人気で。後は意外ですけど水、炭酸水系。ここは『歌いに来てます!』っていう玄人感のある人とか結構選んで取っていくんですよね。常連さんでよくいます。それで、パインソーダですよ。炭酸飲みたい人でさえ、馴染みが無さすぎてやめるでしょ。パイン珍しいな、飲んでみようかな、あっでもメロンあるわ、じゃあメロン。この流れが……いらっしゃいませー!」
お客さん、入って来てくれてありがとう。
「ご利用は一名様で?」
「えっ……と、あの、205に一人合流したいんですけど……」
205は、どこだっけ。
……森丸の部屋だ。




