アイドルになった、森丸くん
あの森丸が? 静かにスーっと過ごしてたあの森丸が? 高身長卓球部のあの森丸が?
思い出した森丸の顔で、ファンに手を振る姿をイメージしようとしたが、全く生成できない。
なぜだ、アイドルになるのか、森丸。
森丸の一大スクープに、私の中学時代の仲良し友達4人グループ“からあげ”もさすがに動いた。グループラインに怒涛の通知。
中学卒業以来、からあげのグループラインは全く動いていなかったので、誰か密かに脱退していないか心配だったが、トーク画面に“からあげ(4)”と表示されていたので安心した。“からあげ(3)”になっていなくて良かった。
『森丸の聞いた?』
『あれってやっぱガチなん?』
『ガチっぽい!』
『あたしオーディションのサイト見たよ。いた、森丸天音って』
『え、見たい。どこにある?』
『“プロフェッショナルゲット”っていうオーディション。検索したら出るよ』
『名前ダサ!』
『(ハムスターが目を見開くスタンプ)』
『オッケー、見てみるわ』
オーディション番組『プロフェッショナルゲット』、通称“プゲ”は配信番組だったため、私たちはちょくちょく気にして見ては、からあげラインにて報告し合っていた。
『森丸って歌うまかったんだね』
『てか、歌のとこでおーってなるだけで、それ以外全然映らなくね?』
『わかる!』
『でもスタイルとかいいし行ける気するけどな』『ね。頑張ってほしい』
『(ハムスターが旗を振るスタンプ)』
『全然喋ったことないけど』
『それな!』
私たちはメッセージだけでは飽き足らず、ファミレスで喋ろうと集まることもあった。冷静に話した内容の内訳を思い出してみると、森丸の話は1割くらいしかなかった。
でも、私と接点は特に無かったのに、こうしてからあげの再会と、楽しい思い出を生み出してくれた森丸には感謝だ。
* * *
番組は3ヶ月にわたって放送され、最終回で森丸はデビューメンバーに選ばれた。投票で決まるデビューメンバー6人の中に、そこまで目立っていない森丸が入り込んだのは驚いたが嬉しかった。
私たちも大学受験を控えていたのに、番組を見た甲斐があった。
正直なところ投票は思い出した時にだけやっていたので、私たちはあまり力にはなれなかったと思うが、森丸の歌の上手さと、『自分しか良さに気づいてないんじゃないか、自分がどうにかしなければいなくなってしまう』という気にさせる、回転寿司のわさびなす感により、想像以上にファンがついて多くの票が集まったのだと思う。
森丸ってそんなタイプな気がする。
こうして生まれたアイドル森丸は、地元でたちまち話題となり、私たちの卒業式はみんなの進路はさておいて森丸の話で持ちきりとなった。




