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日英同盟不滅なり  作者: 竹本田重郎


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第9話 独ソ不可侵条約

【1939年8月】




 モロトフ・リッベントロップ協定が締結された。いわゆる、独ソ不可侵条約である。ナチス・ドイツとソビエト連邦は相互に不可侵を約束し合った。ファシストがコミンテルンと手を組むことは一般的にあり得ない。しかし、当事者たちは利害調整を続けた末に不可侵で一致するまでに至った。




「欧州情勢混迷なり。されど日英同盟は揺るがず」




 まさかのことにヨーロッパ諸国は驚きを隠せない。日本は冷静に見ていた。あり得ないことではないはず、ドイツが窺うのは西方のオランダ、ベルギー、フランスであり、ソ連が窺うのは極東の満州、中華民国であり、東西に分かれて進出を目論む。ここで無駄に衝突せずに不可侵で背後の安全を確保し合うことは当然と言えば当然なのだ。彼らの主義と主張がどうのこうの前に現実的な視点である。




 これで特に危うい国がポーランドだ。ポーランドは立地的にドイツとソ連に挟まれている。ドイツとソ連による挟み撃ちから国家消滅の危機に瀕した。戦争体制を敷いて防衛線の構築に邁進している。しかし、兵力でも装備でも覆すことのできない差が否めなかった。




「我が国はやむを得ず戦争体制に移行する」




 幣原首相は終始冷静を保っている。しかし、平和を希求する者からして苦渋が否めかった。どれだけ穏健派の首領と動いても狂人を止めることは叶わない。自国への影響が無いと虚勢は張らずに現実を直視した。平和希求の大義の下で独ソを討つのである。




「彼らが暴挙を働くようであれば必ず裁きが下る。皇国の裁きだ。大日本帝国は欧州に派兵する用意を整えている」




 大英帝国のチェンバレン内閣は大きく動揺したが毅然とした態度で臨んだ。




「奴らがポーランドを蝕むと言うなら、我らに対する宣戦布告と同じであり、即座に兵隊を向けられる」




「マジノ線を超えても良いのだ」




 イギリスとフランスは共同声明を発表する。両国はポーランドに独立保障を与えた。したがって、独ソが手を出すと自動的に交戦状態に陥る旨が文面に記されている。これを武器に抑圧を試みた。二人の独裁者は聞くまでもないと無視している。イギリスのMI6と日本の特高が掴んだ情報を証拠と参照した。独ソはポーランドの国境線に沿うように大軍を展開している。仮にポーランドが防衛計画に基づいて行動できても1週間が限界と言われた。




 アメリカはようやく重い腰を上げる。ルーズベルト大統領は「ドイツとソ連の力に頼った変更は認められない。そして、イギリスとフランスは責務を果たさなければならない」と独ソを牽制しながら英仏の背中を押した。それならば自分たちが来いと言いたいが超大国には逆らえず黙っている。かくしてm世界がポーランドに注目している中で極東情勢も燻った。




 満州とソ連の国境線も日ソのにらみ合いが継続する。ノモンハン一帯の緊張は未だに晴れなかった。それどころか小規模な砲撃戦と航空戦が勃発している。中小国であればれっきとした戦争だが、日ソの大国同士のため、ちょっとした国境紛争ぐらいに抑えられた。しかし、ソ連がドイツと不可侵条約を結んでいる。奴らが「共産党を保護する」と称して南下してくるシナリオが現実味を帯びた。




「つまりですな。ナチス共はポーランドからベルギーとオランダまで、コミンテルンは満州から中国まで、二人で仲良く大陸を分けようというのです。これが認められますか? その前に前任者たちの宥和策が招いたことです。私が日英同盟の一層もの強化と植民地の移譲を訴えたことがわかるでしょう。現に満州では共同出資した事業が花を咲かせていました」




「それでは次期首相の座を…」




「それはわかりません。私が適当に決められることではありませんから。紅茶を淹れましょう。今日は長くなります」




「あなたが提唱されていらっしゃる。日英連合機動艦隊に関しては…」




「どうなるでしょう。少なくとも、演習が長引くことは確定しています」




 ジャーナリズムを宿した記者たちはチャーチル卿のオフィスに殺到する。チャーチル卿は対ドイツ強硬論の筆頭格だった。チェンバレン内閣では大臣職から外されている。ナチス・ドイツが大きくなればなる程にチャーチル首相が望まれた。日本との連携を頑なに訴えている。自分も連合艦隊を視察など精力的に働いてきた。次期首相は確実視された故に彼のコメントが求められる。




 とはいえ、イギリス議会の重鎮なため軽はずみな言動はできなかった。長い政治家生活で一言が身を滅ぼすことを理解している。しかし、何も言わないこともキャリア形成に支障をきたした。適度に餌を吊り下げて報道機関を釣りながらライバルを牽制している。




「本気を出せばドーバー海峡と北海は封鎖できます。私も関わりました海軍の艦隊整備は最終段階に到達するところです。ドイツは先日まで軍備を制限されていた弱小です。まったく、取るに足りませんな」




「具体的には?」




「まぁまぁ、セイロンのティーで落ち着きましょう。急いでも変わりません」




「それは?」




「これですか? 何の変哲もない。日本の焼き物ですが、いかがなされたかな」




(さすがチャーチル卿だ。報道陣を煙に巻きつつ日英同盟のアピールも忘れない)




 自分で紅茶を淹れる様子は庶民派アピールだが、ポットもカップも日本の焼き物であり、日英友好を記念した一品であった。特注品で一般に販売されていない。あまりにも露骨なアピールだ。何気なく撮影された写真に自然と入り込む。こんな僅かな小賢しい策でも大きな影響を生み出した。記者の紅茶も用意する余裕ぶりに紳士の余裕が現れる。自他共に認める次期首相候補らしく振舞った。それがチャーチルという政治家なのだろう。いかにもフカフカそうな椅子に座り込むと記者と対談の格好で質疑応答を進めた。




「満州に新型機を派遣したことは?」




「日英資本による開発の一環に過ぎません。特に深い意味はない。企業が持ち込んだ。それだけかと」




「アメリカの反応は?」




「私に聞くことではないでしょう。ただ、資本主義を自称するならば相応の振る舞いは求められる。そうとだけ言っておきます」




「合同軍事演習ですが…日英連合機動艦隊…これはどうなりますか」




「提唱した身ですが大臣でも何でもない。お答えできることはありません」




 一問一答形式が繰り広げられる。答えに対して深堀を試みるがのらりくらりと回避が続いた。舌の枚数は数えきれない。しかし、随所に意図的な餌が撒かれた。これに食いつかないわけがない。どこか負けたような気がしてならなかった。記者はどこか一発でもいいから大きなネタを掘り当てられないか。面白味を感じない質問に潜んでいるかもしれなかった。




「ソビエト連邦が満州を攻めると言うならば、日本が極東の沿海州を回収してもよく、承認するための用意はいつでもできています。世界の海はファシストやコミュニストが掌握すべきでなかった」




「地中海をファシストから守るためにはどうするべきか?」




「ドイツ海軍とイタリア海軍が一緒になっては面倒です。Uボートはもちろん、高速魚雷艇の小粒も厄介であり、空軍がちゃんと連携してくれば、地中海艦隊もタダではすまない」




「艦隊は…」




「そうですね。私の構想に過ぎませんが、キングジョージ5世と金剛がダンスを宮廷仕込みのダンスを踊り、イラストリアスの彼女と白鳳が挙式するかもとだけ、ここでは述べさせていただく」




「おっとっと…」




「日英同盟こそ世界の安寧と秩序を保つものである」




 今日のインタビューは明日の朝刊に大々的と掲載される。日英同盟は独ソ不可侵に真正面から対立した。市民も政治家も緊張が高まっただけと認識している。先の大戦から爆発は辛うじて回避できると信じて疑わなかった。彼らは独裁者を甘く見過ぎている。




「ドイツ軍とソ連軍が国境線を超えてポーランドを挟撃さる!」




続く

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