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日英同盟不滅なり  作者: 竹本田重郎


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第2話 宥和政策の裏で

ナチス・ドイツの拡大は止まらなかった。1935年に再軍備宣言から大々的に近代的な軍隊を整備し始める。ヴェルサイユ体制は崩壊した。普通は警戒するところだがヴェルサイユ体制があまりにも過酷と言う指摘がなされる。さすがに厳しすぎたと反省があるため、英独海軍協定から事実上の追認が行われた。宥和政策は継続を予定している。




「英仏共にドイツ側に譲歩か」




 ボールドウィンとチェンバレンはドイツをソビエト連邦に嗾けようと試みた。社会主義か共産主義か関わらず、ドイツにソ連を攻めさせることで脅威を取り除こうと考え、ナチスとソ連を天秤にかけた結果とされている。しかし、イギリス内部でも反発の声は強かった。ドイツの再軍備はともかくオーストリアやチェコを窺っている。すでにラインラントに進駐して色々と不穏だった。




「チェンバレンではだめだ。日英同盟は動かなければならない」




「チャーチル卿は動き始めています。すでに野党と交渉を」




「よし、我々も動く時だ。日英同盟35周年を記念する式典が好機である」




「海軍の新造艦と新型機、陸軍の新型が揃いますからね」




 このような中で対ドイツを睨んだ計画が持ち上がった。その首班は言うまでもなく強硬論者の筆頭格たるチャーチルである。彼はファシズムに一定の理解を示したがヒトラーは個別に嫌っていた。ドイツ駐英大使の話から領土的な野心を見破って警戒を怠らない。現在は対ドイツ強硬論者の看板から大臣の椅子から遠かった。フリーな立場を活かして勢力拡大に努めている。野党党首と連携を図ったり、日英同盟に基づく軍備増強を得たり、かなり好き勝手に動いた。自慢の舌の数が遺憾なく発揮される。




 日英同盟はちょうど35周年という節目の年だった。日露戦争から生まれた島国同士の絆は歴史上でも稀である。どちらも海軍強国のため海軍に目が行きがちだ。陸軍と空軍(日本では陸海軍航空隊)の連携も日に日に強まる。軍と企業が人材派遣と技術交換を繰り返した。技術力はイギリスが上と言われるが、日本の創意工夫は侮れない。特に航空機の分野では液冷のイギリスと空冷の日本で分かれた。その他の銃火器と戦車、駆逐艦と巡洋艦など各方面で結び付きは強固となる。




「チャーチル卿を招待できないか打診してみます。幣原外相ならば話が通じるはず」




「頼んだ。俺は海軍にかけあってくる」




「私は陸軍さんへ行っていきます」




 世の中は政治家や企業だけで動かないもの。




 世界政治が動けば国内も動くもの。




 歴史はわからない。




=室積工廠=




「これまた大口の計画だな。なにを建造するつもりだい」




 山口県の室積は海軍工廠が設置された。一度は海軍軍縮条約から計画縮小の危機に陥る。山口県の下関から宇部を経て周南など内海の沿岸部に分散する形で存続が決まった。何も巨大な工廠を設けなくても構わない。下関に新たに民間の造船所を設けたが、必要な物は分散して製造するようにしており、室積工廠では艦載砲を中心に製造していた。このために軍用の鉄道路線が伸ばされて下関の工廠へスムーズに納入される。




「上が教えてくれるわけがない。正しく狂いなく作ること」




「わかってるよ。あいあい」




「ドンパチが迫っている。それまでに」




「やるんだな…」




 当初は駆逐艦の5インチ級の艦砲を製造していた。規模を少しずつ拡大して巡洋艦を経て戦艦級も視野に入れる。現在は技術と経験を積むために中口径に止めた。それでも新型20cm砲の開発に成功している。30cm砲や36cm砲を製造できる機器を導入した。日英同盟に基づきイギリスから先端技術を導入することで効率的に高品質の製品を送り出す。




 工廠は24時間365日のフル稼働だった。軍縮条約の効力が自然消滅したことで次々と新規建造計画が経って既存の計画は加速を始める。駆逐艦は特型が制限されたことで性能をやや落とすが量産型を志向した。新たに対地と対空を兼ねた127mm高角砲と対空に特化した100mm高角砲の増産が命ぜられる。巡洋艦は多連装型の需要が高まって中口径の多連装砲の需要が高まった。15cmと20cmの多連装砲の試作が繰り返されている。




 そこへ新たに注文が入った。当たり前であるが、どの艦艇のどこに使われるか、詳細は全く明かされることはない。作業員も承知しているため、何も言わず、手を動かした。しかし、計画書とイメージの図面を参照する限り。一般的の範囲を逸脱しているように思われた。




「四連装砲ですか」




「実際には連装と連装の組み合わせです。表向きは四連装砲としています」




「またドデカイのを作るようです。良いでしょう。やれると思います」




「例のごとく、最終的な組み立ては下関で進めるようです」




「こんなの呉で作れないんです? うちでやるのがわからない」




「私に聞かれても困ります。私は上からの命令を皆さんに伝達しているだけ」




「へいへい、わかった。作るだけ作ってみる」




「しばらく家には帰れなさそうだ」




 ただでさえ忙しい中で面倒な注文に頭を抱える。海軍のれっきとした装備品なのだ。手を抜くことは絶対にできない。彼らが1mmでも誤れば軍艦が沈んで数百から一千を超える将兵が命を落とした。口ではブツブツと言っているが職人の矜持で逸品を仕上げるつもり。自分達が携わった軍艦が優雅に航行をしている様子を眺めることが一番の幸せだった。それが悪逆非道を正義の御旗のもとに制裁する。なんと愉快で痛快なのだ。




 営業のような士官は打ち合わせを終えると一際大きなため息を吐く。つくを超えて吐く勢いだ。第二次ロンドン海軍軍縮条約は計画された破談と終わる。ワシントン海軍軍縮条約も自然と破棄された。全ては仕組まれたことと雖も一気に貯めていた計画が放出されては大変な騒ぎである。日本全国の官民の造船所で戦闘と非戦闘を問わずありとあらゆる艦艇が建造された。イギリスからの注文もあってゴタゴタは数年続くと見積もられる。それ故に一人で様々な計画を抱えて夢でも考える程に多忙を極めた。




「なんて空母だ。15cm四連装砲を主砲と装備して10cm高角砲もできるだけ多く搭載する。さらに、飛行甲板は装甲化して搭載機は戦闘機を30機前後とするが、油圧式射出機を装備して迅速なる発艦を見込み、戦闘護衛空母として33ノットは発揮できる。こんな空母は化け物だぞ…」




 上層部が作れと言うのだから一旦は従う。実現できるとは思えなかった。おそらく、計画の見直しが入ってどれかを縮小ないし取り止めだ。一般的な空母か巡洋艦と変更されるはず。仮にだが実現してしまえば日英同盟を象徴する希望の軍艦と君臨して世界を圧倒した。イギリス海軍はドレッドノート級を送り出して世界の戦艦を一夜で旧型に追いやったことがある。日本海軍は特型駆逐艦を送り出して世界の駆逐艦と巡洋艦を小型に陥れてしまった。両海軍が握手した時に決まっている。




「これだけじゃない。純粋な装甲空母の数々と少数だが新型戦艦、巡洋艦と駆逐艦は数えきれない。本当に造船所が爆発するぞ」




 自分も色々と言われている立場のため独り言が止まらなかった。ふと海の方を見ると太陽の光を反射して目を突き刺すよう。昔はあれだけ美しさを感じた海が憎たらしく思えるとは社会を恨みかけた。しかし、大日本は先人たちの血反吐を吐くような努力から列強諸国に並んでいる。今度の戦いでは列強諸国から脱して真なる覇者となるべく一層の不断の努力が求めていた。




「大西洋派遣艦隊の中核を担い、Uボートを封じるため、この計画は可能であれば…」




 拳を握り込む。




続く

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