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日英同盟不滅なり  作者: 竹本田重郎


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第11話 満州にハリケーンが吹き荒れる

満蒙国境線を滑るように飛行した。




「イギリス空軍の主力戦闘機タイフーンだ。台風戦闘機、タイフーン戦闘機…」




「どっちでもいいでしょ。好きなように言えば…」




「いや、そうだな。拘りたいんだ」




「こりゃダメだ」




 独ソ不可侵条約の締結からソ連の南下が確実視されると訓練飛行と称した威圧を強化する。地上のにらみ合いだけでは飽き足らなかった。空でもお互いにけん制し合う。ここで段階を一気に引き上げることにした。もう武力衝突は避けられない。偶発的な空戦が勃発しても、敵機を完膚なきまで叩きのめすべく、最新型を惜しげもなく投じた。




 しかし、新型機の軽戦闘機と重戦闘機は未だ試作の段階である。一号機が飛行したばかりだ。イギリスの航空機メーカーからチームを交換して完成を急ぐが、致命的な欠陥を抱えて死亡事故を起こされては堪らない。確実性を重んじたが、旧型の九七式戦闘機ではI-16相手に互角が精一杯であり、敵機を圧倒できる戦闘機を欲して当然だ。さぁ、日英同盟の出番である。イギリス政府はスピットファイアの義勇軍派遣は認めた。ライセンス生産は交渉中で妥結は難しい。妥協案として古典的だが堅実なハリケーンのライセンス生産を認めてくれた。




「イシャクなんて20mmで粉々にできる。装甲車は穴だらけだ」




「爆弾を積んだら戦車も吹っ飛ばせます」




「なに、なんだ? 雑音が多い」




「何でもありません。この無線機も早く変えてほしい…」




 日英資本が集中する満州の大地で極初期型は複製に止まる。武装面を強化した正規の量産型が登場した。現在は対ソを睨んで満州に重点的に配備されている。仮想敵国はソビエト連邦とナチス・ドイツだった。南進論はそもそも存在しない。海軍は南進論の代替として仮称西進論と言うべき艦隊の欧州派遣を主張した。陸軍がソビエト連邦を相手に戦い、海軍がナチス・ドイツとイタリアを相手に戦い、両軍で役割分担と日英同盟にも則しており、なるほど理に適った配置である。




 和製ハリケーンはMk-1を素体に小幅な変更を行っていた。エンジンなど内部は変更せずにそのままを維持している。すでに強力な戦闘機と完成していた。一層も磨きをかける。7.7mm機銃8門から九九式二十粍機関砲(イスパノ20mm機関砲)4門に変えた。胴体下部と主翼下部に爆弾懸架装置を追加する。7.7mm機銃はバランスに優れたが、ソ連空軍の高速爆撃機に火力不足が呈された。20mmの大口径機関砲に換装するが対空だけでなく対地にも強力である。さらに、航続距離を延ばす工夫の落下式増槽を吊架する装置を爆弾と兼任させた。これにより防空任務から対地攻撃任務まで幅広い活躍が見込める。




「頑丈な機体は良いもんです。九七式は悪くありませんが、エスベーに追いつけない」




「やはりイギリスはすごい。日英同盟は世界で最も偉大なつながりと再認識させられる。独ソ同盟なんぞ」




「もしエスベーかイシャクが来たらどうします?」




「撃って来れば撃ち返す。撃墜してやる。お上から許可が下りた。こちらから撃つことはできない。国境を超えたらだが、正直いって、空じゃわからん」




「嫌ですよ。開戦の一発が20mmなんて。どうせなら、デカい大砲で始めましょう」




「わからないぞ。先の大戦争は1発の弾丸で始まった」




 ハリケーン又は台風と呼ばれる戦闘機は前線の航空隊に好評を以て迎えられた。九七式戦闘機と比べて遥かに高速で頑丈である。機動力は若干や低下するが低空における性能は突き放した。何よりも新人でも扱いやすい。素直な操縦性と頑丈性を「素晴らしい」の一言で表すことができた。未熟な兵士でも扱うことができれば戦力にはなる。空戦は厳しいが低空の高性能を活かした対地攻撃に活路を見出した。機銃の強化と爆弾の追加は戦闘爆撃機を意識している。




 弱点としては航続距離の短さと古めかしい設計だ。中継ぎという一時的ならば十分と言う。航続距離は先述の落下式増槽を追加することで底上げした。古めかしい設計も信頼性の高さを手繰り寄せる。国産の新型機が揃うまで頑張っていただきたく、性能が限界を迎えようと戦法で補うことができた。




 イギリスから技術を導入して航空無線機を改良している。陸軍航空隊は先駆けて全機に無線機を備えた。雑音が多くて重量物と化している。九七式戦闘機から取り外す者さえ現れた。小隊から中隊の集団戦法には必須の装備品である。重量増加は微々たる範囲で精神的な問題に過ぎなかった。イギリスの技術を導入して可能な限り雑音を減らしている。




「4時方向に機影!」




「なにっ!」




「落ち着け! よく見ろ!」




「あれはエスベー!」




「違う! ブレニムの軽爆撃機だろうが! よく見ているのは結構だが、ちゃんと識別まで行え!」




「す、すいません」




 この緊張感のため地上に聞かれていないことを良いことに雑談に興じた。本当は良くないが多少の緩みが無ければ息が詰まる。そこへ小隊の一人が敵影発見を告げた。その方向は友軍が展開している。敵機が国境を堂々と超えることはなかった。両眼を凝らすとブレニム軽爆撃機とわかる。すでに旧式に入りつつある双発爆撃機だ。エスベーと誤認したらしい。力の入れすぎを指摘した。エスベーとブレニムは似ていない。そもそも高速爆撃機と重戦闘機(軽爆撃機)で異なった。




 ブレニムはイギリス空軍内部でも陳腐化からMk-4が登場して軽爆撃機と運用する。軽爆撃機とするが最大600kgの爆装は中途半端だ。速度の優位性も失われている。現在は日本に一定数が譲渡されてライセンス生産も認められた。ハリケーンとは異なり抜本的な改良が施される。エンジンは国産の『ハ35』こと『栄(二一型)』に換装して機首下部の機銃を20mm連装機関砲に変更した。爆装は最大600kgで変わらず100kg通常爆弾6発を装備する。




 日本陸軍では九九式軽爆撃機と運用するが事実上の重襲撃機だった。機首の機関砲が兵士と装甲車を薙ぎ払う。600kgの爆弾が戦車やトーチカを吹っ飛ばした。双発機の割に軽快な機動性から対地攻撃に絞っている。敵軍の航空基地を低空襲撃することは可能だが本格的な絨毯爆撃は重爆撃機に一本化した。




「もし、露助の戦車隊が超えてきたら、まぁ地獄を見ますね」




「地獄を見せなきゃならん。俺たちの庭に入り込んだ。不届き者に裁きを与える」




「まぁな。軽爆撃機が来てくれたから、そろそろ交代の時間だ。夕暮れに惑わされずに着陸しろよ。貴重な戦闘機を無駄に壊すな」




「こいつは着陸しやすくて助かります」




 和製ブレニムとすれ違いざまに敬礼して哨戒任務を交代する。爆撃機らしい航続距離の長さから国境線の哨戒任務にピッタリだった。時間は夕暮れである。広大な平野に構えられた飛行場が下宿先だった。ハリケーンの地味な利点に着陸の難易度が低いことが挙げられる。戦闘に直結する強みでないが扱いやすさは万人受けした。夜間飛行においても適切な誘導さえあれば簡単に着陸できる。




「よ~し。大丈夫そうだな。燃料が少ない機から行け」




「お先失礼します」




「もうちょっと燃費が良ければ」




「いうてだ。九七式と変わらんだろう」




「なんか見慣れない機体が並んでますね。イギリスの義勇軍とやらですか?」




「わからん」




 落下式増槽を装備して尚も航続距離は不足気味だった。大陸のため前線飛行場が整備されている。最悪は機体を放棄してパイロットだけ無事であればだ。不幸中の幸いと割り切る。今日は何もなく全機が無事に着陸できた。飛行場に見慣れない機体が露天で並んでいるが特に気に留めずに引き上げる。




「いつ台風の被害を教えてやろうか。楽しみだ」




続く

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