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日英同盟不滅なり  作者: 竹本田重郎


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第1話 リットン調査団から

「リットン調査団としては本事件は中華の共産主義勢力によるものであると断定した。日本軍の行動は一部過激であるが大枠は自衛的行動に基づくものである。したがって、一連の軍事行動は個別的な自衛権の行使と認められ、中華民国は日本の有する満州の権益を最大限に尊重しなければならない」




 リットン調査団の報告は国際連盟で発表された。それは史実と大きく異なる。1931年に発生した柳条湖事件に端を発する。日本軍による一連の軍事行動に正当性が認められた。満洲国の成立に関しては高度に政治性を要すると濁しながらも大枠は認めている。




 このような結果に対して中華民国(蒋介石政権)やアメリカ合衆国は反発を見せた。フランスとイタリア、ドイツなどは驚くだけである。ソ連は不参加だが共産主義勢力と断定されたことに強く抗議してきた。もはやイギリスは信じられないと言わんばかりだが結果は最初から決まっている。




「なぜなら、イギリスと日本は永久不滅の同盟だからだ」




 先の世界大戦を経て日英同盟は消滅したかに思われた。アメリカの妨害にも負けずに堅持に邁進したことで破棄されることなく数十年も継続されている。海軍強国として連携を強めて持ちつ持たれつの関係で親友の如き付き合いだった。軍縮会議でも例外規定を設けて巧妙に回避するなど常に世界を出し抜いている。このまま平和が続くと思われたが世界各地で小競り合いが勃発した。




 直近の中華の事変も共産主義勢力ひいてはソビエト連邦による工作としている。中華に展開した日本軍は自衛的な軍事行動から満州一帯を切り離した。中華民国は成立して間もないが共産党や軍閥など不安定である。日本による政変がイギリス承認の上で進められていたが表に出ることは無かった。そうである以上はリットン調査団の報告が高度に政治的な判断によって歪むことは至極当然である。




「いやぁ、助かりました。これで中国は親日政権を樹立できる。親日政権が建てば満州は返還して丸く収まる」




「こちらこそタイ王国の抱き込みに協力いただいて助かった。マレーの動乱にご迷惑をおかけして申し訳ない」




「お互い様で行きましょう」




「ただ懸念事項は尽きない」




「はい。お互いに軍備増強は進めていきましょう」




「うむ、とりあえず、紅茶でもどうかな?」




「ぜひ、スコーンを」




 イギリス高官と日本高官は多少の年齢の差あれどガッチリと握手を交わした。中華の一件は鎮静する見込みだが今度はヨーロッパで火花が散っている。先の大戦で敗戦国となったドイツで強烈なナチス党が急速に勢力を拡大した。アドルフ・ヒトラーという政治家は過激な主張から支持を集めている。このまま政権を奪取することが確実視されて将来的な衝突が見込まれた。さらに、ソビエト連邦の世界恐慌を無視した経済成長による共産主義の輸出が行われている。中華は一度防ぐことに成功したが次は武力が伴うかもしれない。




 日英同盟は当事者の考える以上に世界の良心と機能していた。アメリカ合衆国は伝統的なモンロー主義から不干渉と称した無関心を貫徹する。フランスはそもそも期待できない。イタリアもドイツのように不安定でどちらに転ぶかわからなかった。したがって、大国にして島国であるイギリスと日本しか頼れる勢力はないのである。両国も多少の動乱に襲われるも辛うじて安定を得ていた。




「ここから先はどうなるかわかりません。王室と皇室の結び付きを強固に」




「同感だ。象徴と象徴が強く結びつけば勝手な動きはできなくなる」




「軍の人材交流も加速させて今のうちに固めておきたい。我々は紅茶とスコーンでなければ」




「まさか、こんなことになるとはな…」




「世界はわからない。どこへ突き進むのか…」




 リットン調査団の報告は日本有利に作用している。国際連盟の議論でも中華民国側の主張は悉く認められなかった。イギリスが根回しの工作を展開して欧州各国は反対か棄権を選択している。最終的に満州国は日中の緩衝地帯として定められたが事実上の傀儡政権だった。イギリス資本が進出して日英で開発を進めることが決まり、アメリカの資本を締め出すことに成功すると、世界は日英対米国の構図が誕生する。




 これにアメリカも対日英戦を想定した計画をカナダを巻き込みながら立案を開始した。日栄海軍の強大さを鑑みて大西洋の海戦と東海岸の水際防御を本格的に考える。それだけ日英同盟の存在感は大きかった。アメリカでさえ真正面から戦えば甚大な被害を出すと覚悟している。しかし、彼らの想定を上回る勢いで広義のファシストが勢力を増し続けた。




 1933年に入りドイツはナチス党が政権を握ってアドルフ・ヒトラーは全権委任法から独裁体制を敷いている。さらに、ヴェルサイユ体制下でありながら着実に軍備増強を進めた。イギリスはドイツの存在が共産主義を抑えてくれるという楽観的な見方が存在して多少は見逃す姿勢が存在する。内側では警鐘を鳴らしていたが聞く耳を持ってくれなかった。




「まずいな…」




「どうしますか」




「どうするも何も日本と連携する以外に手はない。この難局を共に打破する。軍縮会議をカモフラージュに大々的に接触するぞ」




「回線を開きます」




「アメリカに聞かれないようにな。チャーチル氏を活用する。あの人は対ドイツ強硬論者で活用できる」




 欧州情勢は急速に進展する中で日英同盟が置いて行かれてはならない。幸いにも、絶好機が目前に迫っていた。ロンドン軍縮条約を修正するために第二回を同じくロンドンで予定している。予備交渉が上手くいっていない中で調整を図りたい。これを裏から操作する者共は一様に決裂することを見越して動き始めていた。




 第二次ロンドン軍縮会議の本会議を前にして関係者はポーツマスに集まる。ロンドンでは色々と面倒が多く一旦ポーツマスで秘密の会合を開いた。嘗てはポーツマス条約の舞台が置かれた。イギリス海軍の中でも最古級の基地が設けられて何かと都合が良い。日本から親善のために送られてきた新鋭艦が英海軍の古豪と並んでいた。ここで世界の行き先を転換する秘密会談が開かれる。




「お初お目にかかります。山本五十六です」




「お会いすることができて光栄です。ウィンストン・チャーチルと申します」




「よろしくお願いいたします」




「こちらこそ」




 日英同盟のパイプを活かして先行して会談が実現した。日本側は海軍代表者に山本五十六を派遣している。イギリス側は代表者でこそないが有力議員のウィンストン・チャーチルを擁立した。お互いに面識こそなかったが主張は共通している。今度の会議を実りあるものにしたい気持ちは同じだった。




「さっそくですが、私はナチスはもちろん、共産主義者の台頭も許しがたい。これらを懲らしめるためにも今度の軍縮は無しにしたい。私は議員だが空軍に精通して海軍にも詳しいんだ。陸軍はまた次回だな」




「な、なるほど。海軍の者ですので賛同したいところですが、そう上手くいくか」




「な~に、不安がることはない。自然と流れるはずだ」




「と言いますと?」




「どうだね。もう条約を無視して作らないかね」




「聞きましょう」




 チャーチルは日本との更なる連携強化を主張して再起を図っている。一度は政治戦に敗退したが未だに自身の勢力を維持していた。首相交代時に大臣就任を虎視眈々と狙っている。就任してから始めては遅く今のうちに土台を固めておきたかった。日本としてもイギリスと連携を強めて発言力と影響力を堅持できる。それにしても今度の会議を敢えて破綻に追い込みたいとは驚きだった。




「全ての制限を撤廃して新時代の建造計画を立案して進めたい。それに協力いただければシンガポール海軍基地の提供などを約束できる」




「チャーチル卿。あなたは世紀の政治家になります」




続く

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