真夜中パフェ
タイトルがすべて。
慧莉がここ最近凝っているのは、夜中にパフェを自作することだ。連日35℃を超える気温の日々に、茹だりに茹だった脳が弾き出した答えが、夜中に「パフェが食べたい」だったからだ。
まァ、パフェを食べるだけなら、ご近所のファミレスにでも行けば良かった。
地方都市とはいえ、慧莉が住んでいるのは、阪神間のアクセスのいい街だ。探せば、深夜まで甘い物をだす店だって結構ある。
しかし、どういうわけか慧莉は深夜にパフェを猛然と作り出したのである。
「……よし、と」
まだ少し硬い、しかし、充分に甘い白桃を半割にしてから薄い皮を剥く。同様に貰い物の黄金桃にナイフを入れた。
中央に種まで切れ目を入れ、やさしく捻ると綺麗に種が取れる。溌剌とした黄色い果肉のビタミンカラーと瑞々しい淡いピンクがかった白い果肉のコントラストが眩しい。
冷蔵庫から水切りしたプレーンヨーグルトを取り出す。もともと常備してあるものだ。ペーパータオルを敷いたザルに、小一時間放置するだけでクリームっぽい感じになる。
「さて」
戸棚から、これぞパフェグラスというフリルグラスを取り出した。
ぽってりとした質感の、昔ながらの喫茶店で見かけるレトロなアレである。
なぜ家にあるのかといえば、完全にノリで買ったとしか言えない。
ここ数年来のレトロ喫茶ブーム、その亜種であるおうち喫茶とやらの流行のおかげで、小洒落た百均チェーンでも見かけるようになった。しかも、かなり手頃な値段で。
懐かしいなと思わず手にして、一度は元の場所に戻したものの、なんとなく気になってしまい、結局、そのままレジへ持っていった。
使うあても特になく、しばらくは水屋の置物と化していたが、あまりにも暑い夜が続き、思い立って激安スーパーで買ってきたカップアイスを盛り付けてみたのだ。
せめて、見た目だけでも涼しくしたかったので。
以来、アイスが食べたくなると、このパフェグラスに盛りつけてから食べるようになった。
グラスの底に市販のストロベリーソースを入れ、水切りしたヨーグルト、少量の角切りした桃、ベリー系のフルーツグラノーラを順番に乗せてゆく。
スライスした白桃と黄金桃をグラスの縁に交互に並べ、中央にアイスディッシャーで掬ったバニラアイスを押し込む。
「ふ、ふ、ふ……」
これだけでもいいが、もう一度アイスを盛り、そこに桃を貼り付けてゆくのだ。このあたりは時間との勝負である。手際がモノを言う。
円錐形のクレープクッキーを2枚差し込み、天辺には摘んだばりの洗ったミント。ちょこんと乗せるだけで、よそ行き顔になるからミント様々だ。
白い小皿に麗々しく乗せ、角度を調整したら……。
「はい、パチリ」
2、3枚スマホで写真を撮り、グラスとスプーンを持ってリビングに移動する。
今夜はゆっくり映画を観るのだ。配信が開始されたばかりのアクション映画。
血と硝煙と暴力と、愛と呪いと支配と抵抗。
生と死、怒りと絶望。そして、何よりも祈り。
それらが交錯して、凄まじい熱量を持って見る者に迫る。
そういう映画。観賞する方にも気力と体力がいる。というわけで、慧莉はパフェを自作したのである。
ついでに。
「『いまから観るよ〜』」
タイトル画面を背に、パフェを撮る。ちょっとばかり食べた跡があるのはご愛嬌だ。
送信した端から続々と返信があった。同時視聴会に参加している仲間たちからだ。
『ちょっ……!』
『やめてー!この時間に爆弾投げんのヤメテーwww』
『こっちはビールだぜ』
『オレ、ビリヤニ』
『アイスがいる、アイスがいる』
一気にチャット欄が騒がしくなり、慧莉は舌に拡がる絶妙な甘さに目を細めたのだった。
意外と自宅でも簡単にそれっぽく出来ます。もちろんプロが作るものには及びませんが。