水たまりの中に“知らない町”が見える
梅雨の午後、学校からの帰り道。
アスファルトにできた水たまりを、なんとなく覗き込んだ。
空や自分の姿が映るはずのそこに――
知らない町並みが映っていた。
見慣れない電柱、古い木造の家、赤いポスト。
誰もいない町に、灰色の空がかかっている。
私は目をこすって、もう一度見た。
やはりそこには、現実とは違う景色が広がっていた。
次の日。
また同じ場所に水たまりがあった。
昨日と同じ“知らない町”が、今度は少し近くに見えた。
地面に顔を近づけるほど、町の輪郭が鮮明になっていく。
建物の看板に文字が見える。
それは、自分の名字だった。
三日目の夕方。雨は降っていなかったのに、
その場所だけに、水たまりが残っていた。
私は、膝をついて中を覗き込んだ。
町の中に、人影が見える。
その人影は、こちらを向いて――手を振っていた。
顔が、私にそっくりだった。
翌朝。
私の姿が、水たまりに映らなくなっていた。
代わりに、知らない町の中で、誰かが笑っていた。