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序章・幼い日の約束

 少女は廊下を駆けていく。

 母が死んでから、母の兄だと名乗る男が少女を朱雀城に連れてきた。飢えることもなく、温かい寝床も綺麗な服も与えられた。

 だけど、少女の本当に欲しいものだけは貰えなかった。

(何が違うの?)

 新しい家の人たちは嫌なものを見るかのように少女を見る。少女が声をかければ無視をして、近づけばこそこそと聞こえるように悪口を言う。

(家に帰りたい)

 少女が足を向けるのは木々が生い茂る森の中。お気に入りの場所は湖がある人気のないところ。ここで一日の半分を過ごしている。

 大きな木の下で寝転がっていると、森に住んでいる動物たちが寄ってくる。彼らは少女の心を慰めてくれる大切な友達だ。

「一緒に遊ぼう」

 少女が声をかけると動物たちはそれに答える。

 遊びはこうだ。一番速い動物ヨンハクを皆で追いかける。日が沈むまでにヨンハクを捕まえられたら少女たちの勝ち。捕まらなかったらヨンハクの勝ち。負けたほうは勝ったほうにカジュラの実をあげなければならない。

 公平じゃない? そんなことはない。ヨンハクの足は速いので皆が束になっても捕まえられない。今のところヨンハクが全勝している。

「よーい、ドン!」

 少女の声で遊びが始まった。

 ヨンハクは矢のように疾走していった。あっという間に姿が見えなくなる。

 鼻に自信がある動物たちはヨンハクの臭いを辿り、視力に自信がある動物は高いところへ登っていく。少女はヨンハクの性格を考えて行きそうなところへ向かう。

(今日こそは負けないから)

 意気込んでいく少女だが、行くところ行くところでヨンハクに逃げられる。見つけられてもあの足に敵わない。

 いつの間にか陽が沈んでいた。辺りは闇に包まれる。

 ゲームセット。今回もヨンハクの勝ち。

 空を見上げればキラキラ光る星が闇を照らしている。

(帰りたくないな)

 足は湖に向かう。暗くて足元は見えないが、慣れ親しんでいる場所だ。迷わずに目的のところに着けた。

 木の根の下に寝転がると目を閉じた。ひんやりとした土の感触が心地よい。

(もう少しだけ。もう少しだけ……)

 自分に言い聞かせ、目を閉じる。

 一日中走っていた少女は疲れていた。揺れていた意識は沈み、夢の中に入っていく。




「レイシン」

 自分を呼ぶ少年の声が聞こえる。いつも彼は捜しに来てくれる。

 家族の中で唯一少女に優しい兄。

「見つけた。やっぱり、ここにいたんだね」

 目を擦り、ぼんやりしていると兄が体を起こしてくれる。

「さ、家に帰ろう」

 少女よりも少し大きい手が差し出される。迷いながらも少女はおずおずと手を取ろうとする。

 だが、伸ばした手は兄の手を取らずに戻っていく。

「やだ」

 拒絶の言葉がポロリと出た。

 目を丸くする兄を見て心が痛くなるが、否定の言葉は止まらない。

「あそこはあたしの家じゃない。居場所なんてないもん。皆あたしに冷たい。本当の家に帰りたい。母さんのところに戻りたいよ」

 少女の中に溜まっていた不満が爆発する。悲しくないのに涙が溢れ、泣きたくないのに次から次へと流れ出る。止まらない。みっともないくらいに顔を歪め、嗚咽する。

「レイシン、ごめんな。僕がもっと強かったら、お前を泣かせないのに」

 兄は力いっぱい少女を抱きしめる。他人の体温に涙が止まってくる。

「レイシン、大人になるまで辛抱してくれ。僕が王になったら、妻にするよ。僕の次に偉い正妃だ。な、約束だよ?」

「兄様、本当?」

「ああ、約束だ。僕の可愛いレイシン」

 兄は少女の額にそっと口づけをした。

 夜の中を手を繋ぎ歩いていく。あれほど家へ帰るのが嫌だった少女だが、今は嬉しさが上回り苦にならない。

 幼い日の少女と兄の約束。誰も知らない二人だけの秘密が少女を変えるきっかけとなる。



 物語はここから始まる。



実はこの話し、自身のHPに載せています。

掲載しているHPは諸事情で更新できなくなったので、こちらで書くことにしました。

なので、もしも知っている方がいても盗作ではないので安心してください。

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