仲良くした
無事に探索を終えたジークは、三兄弟にまとわりつかれながら街を歩く。
何か拾得物があるわけでもなし、すでに風呂がある場所は知っているから、まっすぐに街の大路を歩いていく。
「どこ行くんだ?」
「風呂」
「へぇ、意外と綺麗好きなんだな」
「昔帰ったらまず風呂に入れと言われた。習慣だ」
「ジークってもしかしていいとこの子供なのか?」
「俺にそんなことを言ってきた奴はお前が初めてだ」
意外と円滑なコミュニケーションが進んでいるのは、三人がジークに強い興味を持っているからだろう。元々住んでいた街の探索者でも、ジークほど腕の立つものは見たことがなかった。
それが自分たちと同じくよそ者だというのだから、気になるに決まっている。
「ジークはどこの街の出身なんだ?」
「お前らこそどこだ」
「俺たちは別の国だな。ジークは国外へ行ったことあるか?」
「ない」
「じゃ、この国の育ちなんだな。となるとシーダイかアイオスだな」
「詳しいな」
じろりとジークが見やると、長男のシュンイが慌てて顔の前で手を振った。
「いやいや、そりゃあ他の国から来るんだから塔のある街くらい調べるだろ」
「知らん。俺は調べん」
「そりゃあジークが強いからだ。三つの街の中じゃ、ここが一番馴染みやすそうだったんだがなぁ。この調子じゃあ案外ジークが拠点としてる街の方が、性に合ったかもしれねぇなぁ」
「どうだかな」
話をしているうちに風呂屋に着いたジークは、先に金を払ってさっさと服を脱いで中へと入っていく。
全身が傷だらけのジークの裸を見て、三兄弟のみならず周囲にいたもの全員がぎょっとした。小さなころからどうにかこうにか生きてきた体には、傷がないところの方が少ない。
それに加えて見事に引き絞まった筋肉は、ある種芸術品の様な見事な陰影を描いていた。これはトレーニングなどによって作られたものではなく、戦い続けることによって自然と形成された魔物を仕留めるための肉体である。
シーダイの街であれば皆見慣れていたが、ベッケルではまだまだ遭遇したことがない者の方が多い。シーダイでもジークに喧嘩を売る者は大抵、風呂でジークの鋼の肉体を見たことのない者だった。
ジークは周りの目を気にすることなく、さっさと浴室へと入っていったが、三兄弟も含めた周りにいる一般客は唖然としたまましばらく固まってしまっていた。
探索者など肉体自慢が山ほどいるのだが、急に恥ずかしくなってきてしまったのだ。
近所の店の店主など自分の腹の肉をつまんで悲しい顔をしている。
「いやぁ……、ありゃあ強いわけだ」
「とんでもねぇ奴もいたもんだな」
「俺……、もうちょっと鍛えようかな」
三兄弟はぶつぶつ言いながらも浴室へ入り、身を清めるのであった。
それなりにのんびりと風呂に入り、髪を濡らしたまま外へ出たジークは三兄弟を待たずにさっさと歩き出す。探索も終わったのでさようならのはずなのだが、なぜだか三兄弟は慌てて服をひっかけて後についてきた。
「待て待て、飯くらい一緒に食おうぜ」
「帰る」
「あ、そうか、ジークは仲間がいるんだったな」
「俺たちにも紹介してくれよ。よそ者同士仲良くやろうぜ」
何とも人懐っこい男たちだ。
これで街の連中とは仲良くやれなかったのだから、今のベッケルの探索者事情は相当良くない状態なのだろう。
しばらくまとわりつかれたジークは一度足を止めて三人に向き合う。
個人的に連れて帰るのは構わないが、今は何やらヴァンツァーからごちゃごちゃと言われている。あとで文句を言われても鬱陶しいが、ヴァンツァーたちからは『仲良く』しろとも言われている。
急に正面からじろりと睨みつけられて、三兄弟はごくりと唾を飲む。
「ついてきてもいいが、妙なことをしたら殺す」
「お、おう……」
長男だけが僅かに返事をしたが、三兄弟は目を泳がせる。
直接ジークの周りに悪さをするつもりなどなかったが、なにがジークの言う『妙なこと』に引っ掛かるかが分からないのが恐ろしい。
「なぁ……、妙なことって、なんだ?」
「……知らん、自分で考えろ」
例えば妻であるニコラや、家族であるテルマを傷付けるとか、今回の全体指揮を執っているヴァンツァーの邪魔をするとかなのだろうが、具体的にどのあたりまでが許容範囲なのかはジークだって考えてもわからない。
こいつ殺すとなった時が縁と命の切れ目である。
「知らんてなぁ……」
「困るよなぁ……」
少し時間を置けばすぐに立ち直れるのは、この三兄弟の強みだ。
異常に打たれ強いというか、環境適応能力が高い。
「じゃあついてくるな」
「いや、それはまた話が違う!」
「じゃあ気をつけろ」
別にジークだって今すぐ三兄弟を殺そうとか、積極的に殺しにいこうとか考えているわけではない。単純に何かあればの話をしているだけなのだ。
ついてくる分には勝手にしろである。
さて、宿のロビーでは問題を起こしていないかと、ニコラをはじめとした面々が心配しながら待機をしていた。
すると外から話声がしてきて、宿の扉が遠慮なく開けられる。
客でも来たのかと思ってみれば、何とジークが顔のよく似た三人組を連れて帰ってきたではないか。
テルマだけは身覚えがあったが、ヴァンツァーやニコラは驚いて目を丸くしてしまった。
しかしほんの一瞬だけで、即座に立ち直ったのはニコラだ。
「……おかえりなさい、ジーク。ええと、どなたかしら?」
「知らん、勝手についてきた」
「知らんはないだろ!」
「ひでぇなぁ!」
随分と気安く接する三兄弟に、ニコラは改めて何度か瞬きして自分の目を疑うのであった。




