表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/129

75

「私は留守番するわ」


 テルマとニコラがベッケルの塔へ行くのを同意した後、そのままの流れでハンナを誘ったところ、あっさりと断られた。


「一緒に行かないのか」

「どうせそのうち帰ってくるんでしょう? ここを駆けだし探索者用の宿にするって計画も進んでるし、その管理者がいつ帰ってくるかわからないんじゃね。テルマは一緒に行くんでしょう?」

「え、うん、そうだけど」

「私のことは気にしないで行ってきたらいいわ」

「一人だけ残って大丈夫か」

「あのねぇ」


 ハンナは呆れた顔で怖い顔をしているジークを見つめ返した。

 怖い顔をしているが怒っているわけではなく、心配しているだけだ。


「私が何年テルマと二人きりで過ごして来たと思ってるの?」

「アイオスは知り合いがいただろう」

「大丈夫よ。ここはギルドの目の前だし、ウームさんが気にかけてくれるみたいだから」

「……そうか」


 しばらく見つめ合っていたが、結局ジークがすんなりと引き下がった。

 一応ウームには出発前に念押しをするつもりだが、ハンナが大丈夫だと言ってるのだからと信じることにしたのだった。


「そんなことより、ニコラさんはいいのかしら? まだ結婚式も上げてないのに、すぐに遠出のお供なんかにされちゃって」

「それは、はい。私はジークさんのサポートをして生きていくと決めているので。むしろおいて行かれては困ります」

「いい奥さんね」


 ジークが素直に頷くと、隣でニコラがはにかんだ。

 亭主関白のようにも見えるが、連れていくという選択もジークの家族を守りたいという思いからくる選択である。ニコラであれば素直にそれを受け取って、場所など関係なく幸せに暮らしていけることだろう。


「そういうことだから、私はまたジークと一緒に留守番をしているわ」


 ハンナの足元でお座りをしていた犬のジークは、一瞬ハンナを見上げてから、その賢そうな双眸を人のジークの方へと向けた。


「そうか。……頼んだ」


 ジークが声をかけると、犬のジークは尻尾をゆさゆさと振って反応して見せた。動物はジークに近寄ってすら来ないことが多いのだが、犬のジークもまた、人のジークを家族みたいなものなのかとなんとなく認識しているようである。

 言葉はなくとも、互いの間にいて当然程度の認識を持っていた。


「いつでるの?」

「ヴァンツァーの準備ができ次第。明日くらいか」

「しばらくいないのなら、街の知り合いに挨拶くらいしておくのよ」


 どうせ帰ってくるのに挨拶なんか、と思っていたが、一人だけ顔が浮かんできた。

 うるさいから行かなくてもいいような気もしているけれど、もし何も言わずに出かけたら、帰ってきたときにぴーちくぱーちくと、いつにもましてやかましくなりそうな予感がする。


「そうだな」


 ジークは素直にハンナの忠告を聞き入れると、いったん一人で宿を出て、やかましい元研究員が暮らしている路地の奥へと向かうことにした。



 路地のどん詰まりは家の壁になっている。

 扉兼外開きのカウンターテーブルとなっている板は、留め具が緩んでいるのか何もしていないのに半開きになっていた。

 気になって板に手をかけて手前へ力を入れると、ミシッと音がして何かがはがれ、そのままバタンと手前に倒れてくる。完全に壊れてしまったらしい。

 まともな業者を入れられないようなら、金を工面してやった方がいいだろうか。

 そんなことを考えていると、奥から足音が聞こえてきて、両手に薬瓶をもったクエットが姿を現した。

 相変わらずフードを目深に被っていて顔はよく見えない。

 怪しくぼこぼこと気泡を発している薬瓶の中身は、緑色と薄紫色で、毒物か劇物だろうなというのが一目でわかるものだった。


「あのねぇ、普通無言で人の家壊しますかねぇ?」

「壊れていた。金をやるから直しとけ」

「辛うじて扉の体裁をなしてませんでしたか!?」


 そう言いながらクエットはずびずびと鼻をすすり、時折咳き込んでいる。


「なしてないから風邪ひいてるんだろう」

「こんなのはね、薬飲めばすぐ治るんでどうでもいいんですよ」

「そうか」

「それで、今日は何しに来たんです? 家壊しに来たんですか?」


 なんだか今日のクエットは妙に突っかかってくる。

 やさぐれているような態度だが、ジークはそんなことにいちいち構ってやるような性格をしていない。


「違う」

「あ、分かりました、あててあげましょうかぁ? あたしになぁんにも知らせずに結婚とかして、それを報告しに来たんでしょう。別にいいんですよ、結婚。大いにしたらいいじゃないですか。でもねぇ、一言くらいあってもいいんじゃないですか? あたしはこの薄暗い家で、いつジークさんが報告に来てくれるのかなと」

「違う」

「何がですか」

「結婚はしたが、その話をしに来たんじゃない」

「あ、そうですか。そしたら何の話です?」


 言いたいことをぶちまけたら一先ず満足したのか、クエットはあっさりとジークからの話を聞くことにした。彼女もまた普通からは逸脱した性格をしており、それ故にジークと友人のような関係を続けていられる稀有な存在である。

 ジークがすぐにポーションの依頼をしてこないのは珍しい。

 結婚の話でもないとなると、いよいよ想像がつかず、好奇心がクエットの身を乗り出させる。カウンターテーブルのようになっている板に両肘をのせたところで、またもミシッと音がして、板がそのまま地面に転がった。

 置いてあった毒々しい色の薬瓶が転がり、クエットが前屈するように顔面を壁にぶつけた。


「いひゃい……」

「使え」


 鼻血をたらして涙目のクエットに、ジークがポーションを差し出した。

 クエットがそれを浴びて傷を治したところで、地面からボッと妙な破裂音が聞こえた。

 緑色の薬品が小さな爆発を繰り返しながら地面に小さな穴をあけ、反対側を見れば薄紫色の薬品が生えている植物を枯らし、石の壁を腐食させていた。


「あ、すいませんね。不審者が来たかと思ったもので、撃退用の薬を持ってきてたんですよ。ちょっと水撒いてもらえます?」


 劇薬を処理するにしては随分と簡易的な処置だが、ここにそれを咎める者はいない。ジークは言われるがままに、クエットに渡された水をこぼれた薬品にかけて希釈した。


「それで、何でしたっけ」

「明日からしばらくベッケルの街へ行く。いつ帰るかわからん」

「あ、そうですか。何でです?」

「喋る魔物が暴れてるらしいから殺しに行く」


 あっさりと極秘に近い任務内容をしゃべるジーク。

 確かに向こうで事情がばれぬように行動しろと言われているが、怪しい街の研究者に説明するなとは言われていない。普通は言わなくても分かるので。


「なるほどなるほど。じゃ、ちょうどいいんであたしも行きましょうかね。どこ行けば一緒に行けます?」


 そしてこちらも普通ではない研究者クエットは、何か事情がある様で、勝手に同行を申し出た。


「知らん」

「あ、じゃあ今から必要そうなものまとめて一緒に宿まで行きますねぇ。荷物運ぶの手伝ってもらえます?」

「早くしろ」

「はいはい」


 がっちゃがっちゃと慌てて準備をしている音を聞きながら、ジークは地面に座って一休みをしようとして顔をしかめる。先ほどクエットがばらまいた謎の薬品があって、いつも座っていた場所がぬかるんでいる。

 ジークは仕方なく先ほどはがれた板を拾うと、乾いてそうな場所に適当に放り投げて、その上で小一時間ほどの休息をとるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あれ 嫁増えた?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ