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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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 先日ジークと話をした後、ウームは即座に動いてギルド長であるメリッサに許可を取った。それから街を拠点とする高層階探索者たちに声をかけ、僅か二日で会議の場を開いた。

 当然その場にはジークとヴァンツァーも呼ばれている。

 高層階探索者となれば、ジークがその辺りをうろついていることも知っているので、集められたメンバーには文句は言われない。

 ただ、重要な話だと時間を奪われたことには文句をたらす者もいるようだったが。

 ウームが資料をもって部屋に入ると、誰かが「おせぇよ」と呟いた。

 発言の主を探そうとウームがぎろりと睨んでも、誰もそれに反応したりはしない。

 それぞれが自分の強さを知っているし、ここで互いにこんな場所で大立ち回りする気がないのを知っているから、いちいちビビったりなんてしないのだ。

 ここにいるのは最低一度は七十階層以上に登ったことのある探索者たちである。

 その表情のふてぶてしさと、最高到達階層は大体比例していた。


「知っている者もいるだろうが、先日グリュウのパーティが全滅した」


 場がざわめく。

 知っているものも知らなかったものも、その事実に関しては思うところがあるからだ。高層階探索者は、漠然とした仲間意識、あるいはライバル意識のようなものを持っていることが多いから、意外と互いのことはよく知っている。

 ウームはそれを止めることなく、それでも耳に届くような大きな声で話を続ける。


「噂に位聞いているだろう。実際に見たことある奴もいるかもしれない。原因は、上の階から下の階へ魔物が下りてくる現象のせいだ。ギルドの上層部や研究者たちは、これを侵蝕と呼んでいる」


 これに関しての反応は先ほどよりも大きくなかった。

 頭の柔らかい冒険者たちは情報を集め、念のため侵蝕を前提に探索をしていたし、実際に経験してジークに助けられたパーティだってある。

 実際に起こりうる現象としてとらえて、自分たちを慕う後輩探索者たちにそれとなく注意を促しているベテランだっている。もちろん信じていない頭の固いものや、情報集めが不足している探索者もいるのだが。


「そんなこと伝えるために集めたのか?」


 わざわざ予定を曲げてまでくるような情報ではない。

 男の言葉はその場にいる半分ほどの探索者の意見を代表したものだった。

 

「今のはついでだ。黙って最後まで聞け」


 ウームもひるまずに言い返すと、拳で軽くテーブルを叩き言葉を続けた。


「本題は、喋る魔物についてだ。命が惜しければ、見かけたらすぐに逃げろ」

「……くだらねぇ。そんなもの見たことも聞いたこともねぇよ」


 先ほど文句を言った探索者が、頬杖をついて文句を言った。

 九十階層まで到達している、この街では上から数えたほうが早い探索者の一人である。


「おい、ヴァンツァー。お前かよ、そんな世迷いごと言い出したのは?」

「僕じゃないね」

「じゃ、誰だよ。そのやばい魔物ってのは、わざわざ探索者の一人を見逃して、自分のことを伝えろって言伝残してくれたってのか?」


 怒っているわけではない。

 ただ態度が悪いだけで、いつもこんな調子の皮肉屋な男である。


「違う。ジークが遭遇した」

「ジークだぁ?」


 男が目を向けると、ジークは男同様態度悪く頬杖をついていた。

 こちらも機嫌が悪いわけではなく、常にこんな調子なだけである。


「どこで見たんだよ」

「最後に見たのは九十六階層」

「……おい、どういうことだ。この街じゃヴァンツァーの九十二階層が最高到達階だろうが」


 ジト目の男がウームを睨む。

 ジークに真偽を問わないのは、過去に何度か話しかけたことがある経験から、よくわかんねぇ奴という苦手意識があるから。


「知るか。俺も先日そいつから聞いたばかりだ。最高到達階は九十九階層で、喋る魔物に遭遇するのは六度目だとよ」


 再びざわつく場の六割ほどは疑念の言葉で占められていたが、一部「やっぱり」とか「だろうな」という言葉が混ざるのは、ジークの規格外の戦闘能力を知っているものが幾人か混じっているからだ。


「噓じゃねぇんだな?」

「本当だ」


 男は頬杖を突くのをやめて身を乗り出しながらジークに尋ねる。

 そして拳をぎゅっと握って悔しそうな顔をすると、続いて問いかけた。


「俺じゃあ厳しいんだな?」

「余裕のある階層ならまだ対抗できるかもしれん。命が大事ならば、全員今挑戦してる階層より下の階層を探索した方がいい」

「……どんな動きをしてくる?」


 噓ならばあとで笑い飛ばせばいい。

 本当ならば得られる情報は全部拾っておく。

 男は皮肉屋で負けず嫌いであったが、同時に塔ではほんの些細な出来事が、命運を分けることを知っていた。


「来るやつによって違う。俺とお前の戦い方が違うのと同じだ。だが空を飛び、喋らない妖精よりも強力な魔法を使ってくることは共通だ」

「喋るってことは意思の疎通ができんのか?」

「何をしゃべってるかわからん。だが二人以上で来ると相談をするし、何かを語りかけてくることもある」

「二人以上で来ることもあるんだな?」

「二度あった」

「三分の一か」


 男が顎に手を当て考え込み始めたところで、ウームが紙の束でテーブルを叩いて音を立てた。


「来るのがおせぇ俺が、ジークから時間をかけて聞き出した資料が欲しい奴はいるかよ。仮の資料だから全部を信じるんじゃねぇぞ。ついでに持って行ったやつは、ジークが九十九階層まで登ってるって話をそれとなく広げておけ。適当な時に発表するからな」


 鼻っ柱の強い若者たちと、先日亡くなったグリュウと思想が近いベテランが数グループ部屋から出ていき、残りが一斉に資料へ群がった。


「おい、破くな! 複数枚持ってった奴は後で呼び出してぶん殴るぞ!」


 ウームが大声を上げて探索者たちを牽制し、段々と落ち着いている探索者まで資料が回り始めた。そうしてぎりぎりまで考え事をしていた皮肉屋が資料を取りにやってくると、ウームは額に青筋を立ててにっかりと笑った。


「お前はいらねぇよなぁ? 俺が来るのが遅くなった原因なんて必要ねぇもんな?」

「幻聴が聞こえるようになったのか? 体調が悪いなら副ギルド長も引退しろや」

「生憎地獄耳で有名なんだよ、クソガキが」

「確かに髪の毛がねぇ分耳が目立ってらぁ」

「資料から手を放せ」

「けつの穴のちいせぇこと言ってないで寄こせ」


 くだらない諍いを白けた目で見ていたジークは、立ち上がって部屋から出ていく。

 すぐに後からついてきたヴァンツァーは、横に並んでジークに話しかけた。


「僕も無理しないほうがいいかな?」

「九十階層までにしておけ」

「そっか……。……ところでジークさんって恋とかしたことある?」

「は?」


 塔の内部事情も気になるが、ヴァンツァーにはもっと気になることがある。

 例えば、まだまだ若く見えるハンナとジークの関係とかであった。


 何を言われているかわからなさそうな反応からして、どうやら色めいた話はなさそうなことに安心して、ヴァンツァーはうんうんと勝手に頷いて納得をした。


「じゃ、僕は今日用事があるのでこれで」


 ジークとのお話も大事だけれど、今の情報をパーティの仲間にも共有し、これからの行動指針を立てる必要がある。他の街の塔にも顔を出すヴァンツァーたちにとって、喋る魔物の出現は、かなり深刻な問題でもあった。


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― 新着の感想 ―
高位冒険者はジークの能力を薄々察して認めていたから 「嘘つけ」とか「信じられるか」とかならず 重要な情報として受け取ってるのはさすがですな
ウーム 根に持つタイプだったかw
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