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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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『この世界』

 なぜ言葉が分かるのか、それが本当なのか、という疑問をすっ飛ばして、ジークはテルマに指示を出す。


「こいつを逃がす代わりに、俺たちを無事に帰せと伝えろ」

「……やってみますが、私なりに話しますからね」

「なぜだ」

「ジークさんの言ったままに伝えると、争いになるからです」

「……頼む」


 少し考えればわかることで、すぐに人と争いになってしまう自覚のあるジークは、すぐに素直に引き下がった。この場を脱出するためにはテルマに任せる方がいいに決まっている。

 

『なにをごちゃごちゃと……』

「交渉をしましょう」

『交渉だとぉ? 儂は負けた! お前らは死ぬ! それでこれは終わりじゃ。ここでこやつほどの戦士と命を交換できるのならば、儂が死ぬ価値はある!』


 話をする余地はないようにも


「……ジークさん、私がいなければここから生きて帰ることは可能ですか?」

「その話は……」

「やるかどうかではなく、可能かどうかを聞いてます」

「……可能だ」

「どうやって?」

「……向かってきたものを全員殺す、逃げた者は追わない。それで勝てる」


 ジークの回答を聞いたテルマは、改めて自分が酷く足手まといであることを思い知った。もっと強くならなければいけない。そう思いつつ、今は交渉の方に頭を切り替える。


『何と言っている』

「足手まといの私が今すぐここで命を絶てば、ジークさん……、あなたを下した者は、ここにいる者を全員殺して生還することも可能だと言っています」

『馬鹿な……! 国の精鋭たちだぞ……!』


 憤りを露わにテルマを睨みつけた喋る魔物であったが、改めて先ほどの戦いを振り返って、不意に最後の一撃の鋭さを思い出す。


『……本気か?』

「この人は嘘をつきませんし、見栄も張りません。見ての通り、ただ純粋な戦士です」

『…………もしそれが本当ならば、お前を見捨てて勝利するのが正しいのではないか?』


 喋る魔物はじっと考えてから、テルマの言葉に疑義を投げかける。


「私を見捨てない人だから交渉しているのがわかりませんか?」


 テルマの真剣な表情と言葉には、自分の生死をかけた思いが乗せられていた。

 幸か不幸か、この髭面の喋る魔物たちの顔の造形は、人のそれとよく似ている。

 だからこそ若いテルマの悲壮な覚悟のようなものを、読み取ることができてしまった。


『……いや、いかん。こんな凶暴な戦士は、殺せるときに殺しておかなければならん』

「何のためにですか」

『そりゃあ……。……待てよ、そうか。いや、しかしどうなんだ……』


 テルマの質問に対して、勝手に色々と考え始めてしまった喋る魔物は、しばらく一人でぶつぶつと呟いていた。

 やがて考えがまとまったのか、喋る魔物は首筋に剣を突き付けられたまま、テルマに改めて質問をする。


『この世界には、こいつみたいな強い奴が溢れているのか?』

「……ええ、いますよ」

『本当か? いや、嘘だな。流石にそれくらいは分かるぞ。こいつは特別に強いんだな? おい、この世界では、この塔をどのように扱っている』

「交渉の結論も出さず、情報だけ引き出すつもりですか?」

『馬鹿言うな。どうするか決めるために聞いてるんだ。結局断わって儂が死ねば誰も知らんで終わる話じゃ。けちけちせず教えんか』


 この喋る魔物も生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 一周回って腹をくくってしまっている。


「……多くの人が内部の探索に乗り出しています」

『いつから!』

「塔が現れてすぐからと聞いてます」

『なんつー奴らじゃ……』

「あなた、塔に関して何かを知っていますね」


 テルマと喋る魔物がにらみ合っていると、いい加減しびれを切らしたらしいジークが、じれてテルマのことも睨みつける。


「あちらの覚悟が整ってきている。長引けばますます脱出が難しくなるぞ」

「……わかりました、交渉はこれで最後です。私たちは知りたいんです。この塔がなんなのか。なぜ塔からあなた方のような人たちが降りて来るのか。そちらがどんな手段を取ろうと、私かジークさんは生き残って塔から出ます。どちらか片方でも生き残れば、生き残った方は全力でこの塔を滅ぼします。ありとあらゆる手段を使って滅ぼします。交渉しますか、しませんか」

『そっちほどじゃないにせよ、肝の据わったでか女だ』


 喋る魔物は感心したように呟いて、ぎょろりとした目で二人を順番に睨みつける。


『よし、語ろうぞ。互いのために。必要なことを』

「そうですか」


 交渉が成功したことにテルマはほっと胸を撫でおろした。

 自分だけではなくジークの命にもかかわることだったので、ずっと緊張していた。

 ヴァンツァーのようにうまくやれたとは思えないが、最低限の仕事はこなせたかと、肩の力を抜く。


『……よし、ではまずは剣をどけろ』

「話をするそうです。剣をどけてください」


 言われるがままに言葉を伝えたテルマだったが、ジークはすぐに動かずに眉間の皺を深くした。


「あいつらがどいて道が空いてからだ」


 ジークはここにいたってもまだ、ほんの僅かも緊張を解いていない。

 テルマにしてみれば話の通じる相手であるが、ジークからすれば未だ何を言っているのかわからない、人殺しの魔物の一味である。

 まずは安全の確保ができなければ、緊張を解いて会話をする道理などあろうはずもなかった。

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