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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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守るべきもの

 さらに激しくなったジークの攻勢だったが、武器を両手でしっかりと握った喋る魔物は数度に一度反撃を試みる。その都度不利になっていくのを悟って、三度目の挑戦に失敗してからは、防御に専念しているようだ。

 力で押し負けているようだが、ひと息に押し込めるほどの差はないのかもしれない。


 固唾をのんで見守っていたテルマだったが、不意にゾクッとして剣を構えてその場から飛びのきつつ振り返る。

 すると、ボコりと壁が崩れて穴が開き、喋る魔物がぞろぞろと姿を現す。

 彼らは立派な防具を身に付け、各々が鋭く磨かれた斧を手に持っていた。


 テルマは一斉に襲い掛かってくる彼らから即座に撤退を決める。

 もし彼らが、今ジークが戦っている相手ほど強いのだとすれば、テルマの手には負えない。危険を感じた時はすぐさま逃げるのが約束だ。

 一応奥には先ほどまでジークと戦っていた喋る魔物が塞いでいた通路がある。

 そちらから隙を見てジークと共に逃亡するのが、現状一番冴えた戦略であるように思えた。


「おぉぉぉおおお!」


 吼えたのは喋る魔物ではなくジークだった。

 獣じみた叫び声と共に放たれた一閃は、防御していた喋る魔物の斧を押し込み、頭にかぶっていた兜に到達して鈍い音を立てる。

 これまでジークは、この魔物を生きて捕らえることを重視するあまり、攻めあぐねていたのだ。もはや殺すこともいとわずに本気で放たれた攻撃は、これまでの剣速を大きく上回り、ある意味それが功を奏して見事に頭部への一撃を加えることになった。

 ぐらりと喋る魔物の体が揺れたところで、ジークはそれ以上の追撃をせずテルマに向かって叫ぶ。


「テルマ、こっちへ来い!」

「はいっ……!」


 塔の中ではジークの指示に従うというのが鉄則だ。

 テルマはすぐさま自分のプランを捨ててジークの方へと走る。

 ジークは倒れた喋る魔物の武器を蹴り飛ばすと、剣を大上段に振り上げてテルマを追いかけている喋る魔物たちを睨みつける。


「止まれ! 殺すぞ!」


 その姿はどう見たって悪役であったが、効果は十分だった。

 言葉が通じないはずであるのに、喋る魔物たちが怯んで追跡をやめる。

 どうやらその迫力だけで何をしようとしているかを伝えきったらしい。


 テルマがジークの傍らに立った時には、逃げようとしていた通路の先からも喋る魔物が数人飛び出してきて道を塞いでいた。逃亡先に選んでいた場合は狭い通路で完全に挟み撃ちにあっていたことだろう。


『ぐぅ、卑怯な!』

『囲って殺せ! 陛下の死を無駄にするな!』

『待て! まだ生きているぞ!』


 どうやらジークが打倒したこの喋る魔物は、あちら側からすると身分のある者だったらしく随分と混乱している。テルマは今自分ができることを何か考えた末、喋る魔物たちの話している言葉を要約してジークに伝えることにした。

 テルマだけが状況を理解しているよりも、その方がきっと生存率は高まる。


「ジークさん、彼らにとってそこで倒れている人は重要人物のようです。どうするべきか、あちらも混乱しています」


 テルマの言葉を受けてジークは左右に目を走らせる。

 来た道はふさがっていて通るのに手間がかかる。その間に喋る魔物たちに追いつかれることだろう。

 先の道には敵が多数配置されている。ジーク一人ならばともかく、少しでも突破に時間がかかった場合は、テルマも戦いに巻き込まれて、結局全面的な戦闘が始まってしまうことだろう。

 ジークは剣をゆっくりとおろし、地面に仰向けに倒れている喋る魔物の防具の隙間、首のあたりに差し込みぴたりとその動きを止める。この喋る魔物が少しでも逃亡の意思を見せようものならば、即座にずぶりと首を刺し貫けるようにだ。


『くっ、やはり生きているぞ!』

『まさか陛下が負けるとは……!』


 言葉が通じなくとも行為は見ればわかる。

 むしろジークが普段喋っている時よりも、遥かに雄弁に意思が伝わっているようであった。


「こいつを人質にして撤退する。少しでも襲ってくる気配があれば、即座にこいつを殺してそのまま突破だ。俺が道を切り開くから、お前は止まらずに逃げろ」

「……わかりました。何とかなるんですね」


 ジークは返事をしない。

 ここにいる喋る魔物たちは、今打倒したものほどではないにせよ、それなりの精鋭のようである。

 四方八方から攻撃されれば、多少の怪我はするかもしれない。

 その怪我の具合によっては勝率は下がる。

 ただ、テルマを逃がすことができる可能性はそれが一番高かった。


 本当ならば、ここで足元の喋る魔物を殺し、壁を背にしたまま目の前に現れる敵全てを切り捨てるのが一番効率がいい。多少怪我はしても、ほぼ間違いなく生存することができるだろう。

 ただしその場合は、テルマの命が失われる可能性が高くなるだろう。

 そんなことは、それこそ死んでも許容できないのがジークである。

 そしてジークは嘘を吐くのが下手だった。


「……ジークさんが一番生き残る可能性が高い作戦をとって下さい。私は足手まといです」

「黙れ、言うことを聞け」

「聞きません。ジークさんが死んだら、誰が塔の異変を鎮めるんですか」

「知らん。そんなことよりもお前が生きることの方が大事だ」

「ニコラさんが悲しみますよ」


 ジークは黙り込む。

 嫌なことを言うやつだと眉間の皺がなお一層深くなった。


「私だけが生き残っては、ニコラさんに合わせる顔がありません。こんな状況ならば強いジークさんが生き残るべきです」

「うるさい」

「ママにはあったことを全てそのまま伝えてください。きっとわかってくれます」

「黙れ、言うことを聞け。お前が先に逃げれば、俺だって逃げのびられるかもしれない」


 庇いながら多くの敵に背中を向けつつ戦うことになる。

 それでも自分が生き残れる可能性も零ではない。

 ジークにはそれしか選択肢がない。


「どのくらいの確率ですか、それは」

「……」

「ならやはり却下です、ここで戦います」

「黙れ!」

「黙りません!」

「もういい、行くぞ!」

「足手まといになるくらいなら、ここで死にます!!」

「いい加減にしろ!」


 喋る魔物たちに勝る程激しく言い争いを始めた二人に、その場は一瞬静まった。

 そしてジークの足元から、唸るような声が聞こえて兜のへこんだ喋る魔物が目を開ける。

 ジークの渾身の一撃を頭部に受けたというのに、とんでもなくタフな魔物であった。


『……ぐぅ……、お前……、儂らの言葉が分かるのか……? それとも、儂の頭がおかしくなったのか?』


 それは明らかにテルマに向かって語りかけられた言葉だった。

 テルマは目を見開いたが、ジークは「行くぞ……」とまた短く告げる。


「……待ってください」

「わがままを言うな」

「違うんです。……この魔物、私が話している内容が分かる様です」

「なんだと……?」

『魔物? 誰が魔物だ、この小娘め……!』


 苦々しい顔をする魔物の表情は、地上で暮らす人と大差ない。

 テルマは混乱しながらも、言葉をそのままジークへ伝達するのであった。

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まさかいきなり王様?のお出ましとはw 鋼の国だがなんだか知らないけど異文化交流ワンチャンあるか?
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