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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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現在の強さ

 朝も早くからテルマを連れたジークは塔へと向かう。

 危険なのでよく言うことを聞くように、いざとなったら防御に徹することを約束させての出発だ。

 どんなに強くなってもジークの手は二本しかない。

 相手の戦闘能力と数によっては、助けが間に合わないことだってある。


 今日は七十階からスタートし、まっすぐに階段へ向かって次々と階層を上げていく。丸一日かけて八十階まで到達したジークは、そこからさらにテルマを階層に出現する魔物に慣らせるために、時間をかけて九十階までの道のりを刻む。

 テルマはここにいたるまで、強くなるために自分のできることは全てやろうと、目を皿のようにしてジークの戦いの動きを見つめてきた。


 大柄で怪力のジークの動きは流派のない独特なもので、一見ただ身体能力に任せて力づくで戦っているように見える。

 しかしよく観察すると、敵の動きに合わせて、必要な動きをして、必要な力で的確な攻撃を繰り出していることが見えてくる。


 これはテルマがジークの動きを見慣れたからこそ見えてきた物であり、かつ、ジークがこの塔の魔物を攻略し始めた証拠でもあった。

 少し前までテルマと一緒に塔を攻略していた際には、ジークもまだこの塔の魔物には慣れ切っておらず、魔物への攻撃を余裕をもって回避し、全力をもって排除にあたっていた。

 その動きは大味で、今ほど洗練されていなかったはずだ。

 テルマはジークの戦闘能力の高さを再確認すると同時に、強さとは何なのかという本質的な部分を覗き見ることとなった。


 力に振り回されている節のあったテルマにとって、この見る訓練は無駄にはならず、荒れ地に水をまかれたかのようにぐんぐんと技術を吸収していく。

 テルマには力をコントロールする術と並行して、その力をどううまく使うかを知るための参考資料が必要だったのだ。


 そんな折、テルマでも対処できそうな魔物が数体現れたので、ジークはそのうちの一体をテルマに任せてみる。

 多少の怪我は顧みずに、とにかく素早く敵を殺すことを重視したジークは、それを成し遂げてからテルマの方を見て静かに驚いた。


 粗削りではあるが動きには随分と無駄が無くなっていたのだ。

 必要ならば助力するつもりだったが、結局最後まで様子を見て過ごすことになる。


 敵にとどめを刺したとき、テルマの息は乱れておらず、まだまだ継戦が可能な状態だった。命懸けの戦いは、思っている以上に体力を消耗するものなのだが、今回はそのような雰囲気もない。


 ジークは腕を組んで、テルマが剣を納めてやってくるまでじっと見つめていた。

 もしかすると、装備をもう少し大ぶりの剣に改めた方が良いかもしれない、などと考えながら。

 これもまた、戦闘スタイルがジークに寄ったがゆえの変化であった。


「あの、どうしましたか」


 怖い顔、もといいつも通りの表情をしながら何やら考え事をしているジークを見上げてテルマが尋ねる。


「…………動きが変わったな」


 その結果出てきたのがこの一言だ。

 まだまだ教育は足りていない。


「変ですか? あっていないなら直しますが」

「いや、変ではない。ただその動きなら、武器をもう少し長く重いものに替えたほうがいい」

「そうですか! では塔を出たら見繕います」

「そうだな」


 ジークはそこまで話すとまた上の階へ向かうべく歩き出す。

 今のテルマならば、この階を歩いていても、一緒にいる限りそう簡単には死ぬことはないだろう。

 喋る魔物に出会っても切り結ぶことくらいはできそうだ。

 粗削りであるが、身体能力が高いお陰でヴァンツァーの足元くらいまでの実力はついて来ている。

 それも十分な成長の余地を残してだ。

 辛い訓練をストイックにこなしてきたテルマの努力と才能が、花開いた瞬間であった。


「テルマ、ここからはお前が見たことのある魔物に出会ったら一体は任せる。慎重に戦え」

「……はい!」


 テルマはにっこりと笑って返事をする。

 美少女のこれまでの人生で最もうれしそうな笑顔であったが、ジークは見向きもしなかったし、テルマもそれが当たり前なので気にも留めない。

 先ほどの一言は普通なら褒め言葉ではないが、塔の中でのジークの言葉としては、最上級の褒め言葉のようなものだった。


 慣れてきたテルマにはそれが分かる。


 少しは自分も強くなってきたのだ。

 心の奥底から湧き出る喜びにテルマが浸っていると、何やら地面が僅かに揺れ始める。ふと周囲を見たテルマは、そういえばこの道が、なにやら今までの坑道よりもむき出しの土が多く、やや狭いことに気づいた。


「下がっていろ」


 ジークの言葉にテルマが素直に数歩後ろに下がっている間にも、地鳴りはさらに酷くなり、やがて正面から巨大な土団子のようなものが猛烈な勢いで転がってくる。


 ジークは剣を抜くと、大上段に振り上げてその場で待機。

 迫りくる巨大な土団子に向けて、二歩前へ出てから踏み込み、真正面から一撃を叩きつけた。

 いくら力の強くなったテルマでも、あんな巨大な塊を正面から受け止めようとは到底思えない。

 まずもって質量が違う。


 土団子の魔物の正面が剣の形にへこみ、そこからひびが入っていく。

 続けてジークはひび割れに向けて突きを繰り出し、ぐりっと剣をひねる。

 土団子はぱかりと半分に割れたかのように広がり、地面側に四本の足を延ばしてピクリとも動かなくなった。

 そうなってはじめてわかったことは、この土団子が、アルマジロのような巨大な魔物であったということだ。

 ジークの最初の一撃は的確にその脳天を捉えており、二撃目の突きで脳をかき回し絶命させている。

 あの回転の中で的確にそれをなすのは、まさに神業であった。

 

「行くぞ」

「……はい」


 死体となった魔物の上を平気で踏み越えていくジーク。

 テルマは改めてジークと自分の実力の差を悟りながら、その後に続くのであった。

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