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九つの塔。救世の勇者。おまけに悪役面おじさん。  作者: 嶋野夕陽


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101/129

上手に話せました

記念すべき100話目を投げずに101話を投げてました

ごめんなさい

「それでなんだ」

「なんだじゃねぇんだよ。この間のはどういうつもりだ」

「言った通りだ。八十階で探索するには実力が足りない」

「突然出てきて勝手なこと言ってんじゃねぇぞ!」

「お前、死にたいのか?」


 脅し文句にも聞こえるセリフだが、あまりに聞き分けが悪いアプロムが何を考えているかわからず問いかけただけで、他意はない。


「舐めやがって……。お前、ちょっとこっちにこい」

「何でだ」

「いいから来いって言ってんだよ!」


 アプロムがそう言って宿の外へ出て行くが、ジークはついて行かない。

 断っているのに勝手に歩き出したのだから当たり前だ。


「おい! 来いって!」

「だから何でだ」

「話があるんだよ、殴ったりしないから来い!」

「そうか」

「他の奴らはついてくるなよ!?」


 言われなくてもついては行かないが、どちらかと言えばジークよりもアプロムの身の方が心配だ。大けがとかをすると面倒くさいので、出来れば手を出すことは控えてほしいと思うヴァンツァーである。


 さて宿の外へ出て木陰に入ったアプロムは、着いてきたジークをぎろりと睨みつける。一度負けているジークの元へ、わざわざたった一人でやってきたのには理由があった。

 先ほど言った通り、文句はあるが復讐をするために来たわけではない。


「……おいお前、昔妙な声が聞こえて力を授かったりしてないか? 決めた、とか、力を使えるようにしてやるとか」

「知らん」

「……嘘つくんじゃねぇよ。ただの人間が俺に力で勝てるわけねぇだろ。いいか、俺はお前と同じ力持ちだ。だから、この街の冒険者を守る義務があるんだよ。お前もそうだって言うなら、この間のことは特別に水に流してやる」

「だから俺はそんなもの知らん。勝手なことを言うな」

「あくまでしらばっくれるつもりか」

「知らんものは知らん」


 力というとテルマの力みたいなものかと思いつつ、ジークは自分の主張を曲げることはない。そしてそれをアプロムに伝えようともしなかった。


「わかった、もういい。じゃあ俺たちを上の階層に行かせないようにしている理由はなんだ」

「実力が足りないからだ」

「嘘つけ。何か目的があるんだろ。この力に関係してるのか?」

「嘘なんかついていない」


 先日の鬼気迫る殺気を知っているアプロムからすれば、今の淡々としたジークの対応は、相手にされていないようにも見える。

 腹に据えかねてアプロムはこぶしを握りながらジークを目いっぱい睨みつけた。


「おまえ……、いい加減にしろよ。俺がその気になれば、お前が塔にいるうちにここを襲うことだって……!?」


 不穏なことを言った瞬間、ジークの左手が動く。

 アプロムは咄嗟に腰の剣を抜こうとしたが、その前にジークの空いた右手が剣の柄頭を抑えつけていた。

 ジークは一瞬手に力を込めたが、すぐに思い直してアプロムの体を解放する。

 ここは塔の中ではない。

 そして相手は魔物ではない。

 話をちゃんとしろというのは常々言われていることだ。


 咳をしながらも武器に手をかけているアプロムを見下ろし、ジークはきちんと言葉を尽くすことにした。


「くだらないことを企むと殺す」

「……俺を殺したら、街の探索者が黙っていない。ただで済むと思ってんのか」


 いつでも戦える態勢でアプロムが言い返すと、ジークは表情一つ変えずに答える。

 ただし全身からあふれ出す殺意は静かに漂い続けている。


「なら全員殺す」

「……お前、頭がおかしいんじゃないのか? そんなことできるわけねぇだろ。街には兵士だっている、脅しにしたって言い過ぎだ。現実味がねぇよ」


 あの恐ろしく強い喋る魔物だって、大勢でかかれば犠牲は出ても殺すことができるのだ。街で暮らしていかなければならない人間にそんなことができるはずもない。

 

「知らん。俺の家族に手を出す奴は全員殺す」


 アプロムのあざけるような言葉にもジークは一切ぶれなかった。

 その立ち居振る舞いは、じわじわとその言葉に真実味を帯びさせていく。

 考えてみれば最初からおかしなやつだったのだ。

 この頭のねじが何本か抜けててもおかしくない男ならば、どこまでやれるかは定かでないが、本当にやりかねないとアプロムは思ってしまう。

 思ってしまい、怯んでしまった。


 そして、それは間違った認識ではなかった。

 ジークはやると言ったらやる。

 塔に丸一年こもることになっても、仇を殺すことだけに専念した実績のある男だ。

 殺すと言えば障害になる者はすべて殺す。

 ジークの言葉は脅しではなくただの宣言だった。


「……お前」


 アプロムはそれ以上何も言えなくなった。

 同じ言語を介するだけの別の生き物を相手にしているような気味の悪さ。

 塔の喋る魔物すら恐れたことのないアプロムの体と心に、ジークに対する恐怖が浸透していく。


「…………俺たちにはもう構うな、構わないでくれ」

「死ぬぞ」


 先ほどの恐怖のせいで、ジークの宣言がまるで予言のようにも聞こえてきた。

 こんなところに来なければよかったとアプロムは思う。

 初めての同志を見つけたかもしれない、なんて思ったのが間違いだったのだ。


「放っておいてくれ、頼むから」


 最後にそれだけもう一度繰り返したアプロムがじりじりと後ずさり、通りへと消えていくのをジークはじっと見つめる。顔はしっかりと覚えた。怪しい動きをするようであれば殺すしかないだろうと、今もぶれることなくそう思っている。


 宿へ戻ると仲間たちが集まってきてジークに尋ねる。


「何の話でしたか?」

「よくわからん。力がどうだか話していた」

「力……?」

「声が聞こえて力がとか。テルマと似ているなと思った」

「え、アプロムさんがですか? そ、それでどうしたんです!?」

「知らん。脅してきたから『本当にやるつもりなら殺す』と伝えたら帰った」


 テルマが天井を仰ぎ、フロウ兄妹が額に手を当て、最初から期待していなかったヴァンツァーの仲間たちがやっぱりねという顔をした。

 もしかするとアプロムは、テルマに関する大事な情報を握っていたかもしれないが、この調子では再度交渉をするのには非常に困難を伴いそうである。

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