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最高のモブキャラスキルで世界征服する Ep,16

今回は4500字で長いので暇な時に読んでください。

〚空気『(イコール)』水〛

 効果範囲を50mに絞り、その空間は水で固められる。

 呼吸している部下は一気に水を飲み込んだ。

「全く。警戒の欠片もないな。」

 水中から出たダイは、自分に向き合った。

「空中戦を望むとは。お前らしくないな。」

「建物の被害考えたんだよ。」

『死』

 左手をかざすが、体に触れる直前に手を『切断』した。

「この程度で俺を封じた気か。」

 切断された腕を強化させた。

 水中は赤く染まった。





 長い眠りから目が覚めた。PPや疲労感、体力が回復している。

「っ!シンは!?」

 走って向かうと街の長椅子に座っていた。顔を下に向けて寝ているようだ。

「疲れたのか。」

 周りには敵幹部の死体や瓦礫が散らばっている。

「おい、シン。」

 恐らく死は逃げたのだろう。作戦が不十分すぎる。あれで勝てると思っていたのが不思議なくらいだ。

「…ん?シン?」

 まだ下を向いていて起きない。相当疲れたのだろう。何せ同じレベルの敵と、その幹部と戦ったのだ。疲れるはずだ。だが、それでもここまで揺らせば起きるはずだ。

 嫌な予感が頭をよぎるが、目立った外傷はない上に、『透過』で内臓を見ても欠損は無い。

 そう思っているとシンがうっすら目を開け、一言発した。

「死ぬ…なよ…」

 そう言うとシンは大量に吐血した。血溜まりが出来るほどだった。

「シ…ン…?」

 シンの魔法が切れて、傷が(あらわ)になった。腹の中心に大きな穴が空いていて、そこからも血がダラダラと出ている。


 ここで怒り狂うことも出来る。白旗を掲げて、悲しみにくれることも出来る。だが、それでも意味は無い。「死ぬな」と言われた。絶対に死なない。(あいつ)を殺す。

 背後から死が迫ってきた。前のように恐怖することもない。よく見ると、シンはもう髪の毛が黒髪になっていた。今までは誰かを守るために覚醒状態を保っていたがその必要はもうない。

「俺が人類を守る。俺は…魔王だ。」



 死が左手を向けて、『死線(デッドライン)』と詠唱する。だがそれを避け、突撃する。腹に攻撃を直撃させる。

 「うぐっ…!」と言い、後ろに飛ばされる。内部に伝わる攻撃は再生させにくいので、地面に膝を着く。そこに追い打ちをかけるように、『時差変身(タイムコピー)』でギルドに変身する。

 『爆発』で死の首を飛ばす。だが、それでもギリギリの命で発動した『再生』で、体を生やす。

「覚醒体にならずとも力を使いこなせるか。さすがだな。幸也。」

「もう俺は幸也じゃない。オクル・ロウナだ。」

 数秒睨み合う。その間にも、死はオーラを放出して、プレッシャーをかける。

「お前が関与する問題では無い。幸…ロウナ。」

「じゃあ俺に見せろ。記憶の伝達程度できるだろ。」

 少し迷ってから溜息をついて、記憶を渡した。


 気づくと俺は玉座の前にいた。そこに座っているのは、見えぬ()()。そこに存在はしているが、存在していない。存在しない幽霊のようなものだ。PPの流れで場所や感情は伝わってくる。それは、『死』だった。

 自分は透明で、誰も気づいていない様子だ。

「ダイ様。一匹子鼠が迷い込んだようです。殺しますか。」

 『悪』が、死に聞く。流れを見ると、良いと言っているようだ。

「ならば、俺が行く。」

 玉座の横の扉から男が言う。

あれは───。

 そこにあったのはシンの姿だった。

 流れからすると不機嫌そうに頷いている。

「貴様、無礼がすぎるぞ!」

 『悪』が激怒する。

「お前こそ先輩に失礼だ。礼儀を叩き直してやろうか?」

 そう言うと、黙って外に出ていったので、急いでついて行く。

 外は寒いと暑いがぐちゃぐちゃに混ざりあったような異常な気象だった。

「…あのさ、ごめんけど俺はお前に気づいてるよ。」

 シンがこちらを向いて言う。何と言うか当然だろうなと思った。

「多分死の記憶でしょ。じゃあどうしよ…今の状況を教えるよ。」

 このシンの話をまとめるとこうだ。シンは死の部下の捌怖(はちふ)という名前の幹部らしい。個人名(コードネーム)は『同価値(イコール)』。どうやらシンは、死と()()()()()()()()()()らしい。その星のものは全員死によって殺されたらしい。選ばれたこの8人を除いては。

「だけど明日別世界に行って、支配するんだとさ。名前は確か…」

「惑星S…!」

 少し前に気づいたがモゴモゴなら喋れる。

「そうそれ。お前はその世界から来たってことでしょ。じゃあ1つお願いがある。」

 恐らくこの時のシンは自身が死ぬことに気づいているのだろう。

「俺の死体は、宇宙に捨ててくれ。」

 真面目な顔でそう言うと、記憶はここでおわった。


「シンめ。余計なことを言いおって。」

 死も今このシンのセリフを知ったのだろう。

「まずお前なんで俺を狙ってる。」

「簡単なことだ。お前に愛情があるからだ。愛を伝える為にお前を殺す。」

 どんな弁護をしようと正気の沙汰じゃない。完全に思考が狂っている。

「ふざけるなよ…!!」

 誰に何を言われて、理性を働かせようが、限界はとっくに越していた。

「お前のせいで何人の人が死んだと思ってる!!お前がいるせいで…」

「お前は癌で人が死んだ時もそう思うのか?」

 …は?

「俺は人間(おまえら)のように生きていない。実体が与えられただけの「死」そのものだ。お前は転生後人として生まれたかもしれない。だが俺は「死」として生まれただけで忌み嫌われ、憎まれなければならないのか?」

「お前が…人を殺したから…!」

「それは俺の意思じゃない。死として生まれた以上、人を殺さなければ世界の均衡を保つことは出来ない。星が超新星爆発よって終わりを迎えるように。人が寿命によって終わりを迎えるように。」

 自分の意思すら理解出来ない。こいつは被害者…?人を殺して被害者なのか?

「死とはどんな世界でも共通に存在する、運命(さだめ)なのだ。」

「知らねぇよ!たとえ俺が自己中だろうと、お前は死になる前から家族を殺した!そんなの知るか!」

「家族を持った人間ほど弱い者はいない!お前の幸せのためだ!」

「なら勝手に願ってろ!お前が介入することじゃねえんだよ!」

 2人の拳がぶつかり合う。決着の時と2人は察していた。



 死は拳のぶつかり合いの中、ひとつの記憶を辿っていた。



「どうしたんですか。こんな道端で。」

 彼女は道端で丸くなって泣いていた。

「財布を盗まれたんです。犯人を追いかけてって言っても、全員無視して…」

「僕は霧竺 真也(きりじく しんや)。あなたの名前は?」

「私は林 美香(はやし みか)です。」

 その瞬間、俺は一目惚れしてしまった。犯人を捕まえることに必死になって1週間が経った。段々彼女との仲も深まっていった。

「真也さん。もういいんです。お金は母から送って貰っていますし、免許は持っていません。大したことは無いんです。」

 明らかな痩せ我慢だった。俺に心配をかけない為に嘘をついている。そう思うと何もしてやれない自分に嫌気がさした。

 数年経ち、2人は結婚にまで至った。2人目の子供を授かり、名前は「幸也」と名ずけた。

「これで立派なママだな。美香。」

「そんな…。恥ずかしいわ。」

 照れ臭そうにしている美香を見て罪悪感が込み上げてきた。顔を見れば、挫折してしまう。これでいいんだ。

「美香。話がある。」

「どうしたの?パパ。」

「今日、転勤が決まった。美香…いや、2人を連れていくのは良くない。俺一人で行くことにした。」

「そんな…!私も行くわ!」

「だめだ!それでは意味が…!」

「意味?意味ってなんですか?私達を心配しているのは分かったわ。でも…それでも…」

「お前には関係ない事だ!!」

 怒鳴りつけてしまった。俺は、偽っていた。前に病院に行った時、心臓病が見つかって余命宣告された。だから東京でひっそりと余生を過ごす。2人が嫌いな訳じゃない。心配をかけたくないのだ。

「…そう。あなたは私がどうでもいいのね。」

「っ…!そういう訳じゃない!ただお前らが心配で…!」

「出てって!あなたとは会いたくないわ!顔も見たくない!」

 そのまま俺は逃げるようにして家を出ていった。今思えば他の手もあったのかもしれない。


 東京に行ってからは、毎月裕福に暮らせる程度のお金と、長女のカスミに手紙を書いていた。時折返してもくれるがそこに書いてあるのは天気の話などで、家や学校の様子は聞かせてくれない。

 だが、カスミから風邪で寝込んでいるという手紙での連絡が来てからはあまり送らないようにして、そのまま送らないようになった。だが入れ替わりで幸也に送るようになった。幸也は無愛想で返してくれない。でもそんな所も可愛いと思えた。


 そんなある日カスミから一通の手紙が届いた。



拝啓 お父さんへ

 最近秋の終盤に入り、この家も寒くなってきました。雪が降る時もあれば、快晴の日もあり、落ち着かないこの頃です。

 いつもならここで終わるところですが、今日はお父さんに伝えなければいけないことが、2つあります。

 1つ目はこの手紙が最後の手紙になるということ。

 2つ目は幸也への手紙をお母さんが破いているということ。その理由は分かりません。ですが、近々お母さんは()()()()()()()()()()()()確定した情報ではないので、断言することは出来ません。この手紙が送られるのは恐らく1、2ヶ月ほどあとだと思われます。届いた日に〝母を殺しに来てください〟。

 これ以上書くことは出来ません。ですが最後にひとつ言わせてください。母を殺しても、歪んだ愛憎に囚われず生きてください。責任も負い目も感じる必要はありません。

                 霧竺 カスミ


 あの優しいカスミが〝母を殺しに来てください〟と言うことに気が滅入った。

俺の知らないところで異常事態が起きている───

 理由は恐らく、俺の送った金と手紙だ。金で裕福な暮らしをし、王様にでもなった気分なのだ。その上で俺と連絡をとっているカスミが許せなかったのだろう。

「俺が殺す。」

 急いで車を飛ばして家に向かった。途中吐血した。そう、余命宣告を受けた日は1週間後。だが、そんなことよりも子供の安否が大切だ。とにかく会いに行かなくては。


 家に着くと、禍々しい雰囲気がした。嫌悪感の塊のような家だった。ベランダには幸也が、薄着1枚で立っている。自分の意思じゃないことくらいわかった。


 包丁を隠し持って家に入ると、美香と目が合った。

「パパ…やっと帰ってきてくれたの…?」

 泣き崩れながら喜んでいた。俺は今から妻を殺さなければいけない。罪の意識がズシッと体にのしかかってきた。

 でもその時はやってくる。下を向いて泣いている美香の背中に刺し、倒れた妻の腹部にもう一度刺した。一度ビクッと動き、体はすぐに静止した。

「う…うあああ!」

 トイレで嘔吐を繰り返した。だが、幸也を迎えに行かなければいけない。平静を取り戻して幸也を迎えに行った。

 会ってすぐは質問攻めにされたが、母の死体を見ると、怯えたような、喜ぶような、悲しむようなぐちゃぐちゃな表情をしていた。

「お姉ちゃんはどこだ。」

「二階で寝てる。」

 この一言で全てを察した。美香に殺され、死体はベッドに放置されている。

「他人を信じるな。」

 幸也に言って、家を出た。外は暗く夜だった。

 その後、車の中で吐血を繰り返した。誰も俺の事は考えていない人生だった。後悔があるとすれば、カスミを守れなかったことと、幸也を1人にしてしまったこと。

「ああ…月が綺麗だな。美香。」

 隣の座席には美香が座って一緒に月を眺めている。永遠の愛は身を滅ぼすみたいだ。


 これが、死が誕生する前日譚である。

次回ついに最終回です。ここまで読んでくれた方には言葉では足りないほど感謝しています。ありがとうございました。

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