高慢
アキラから話を聞いた有間が月に向って苦笑いする。
「まあ、僕らが存在するんだから。
そういうのも有りか!
しかし、アキラがバケモンみたいなのに
その上手かあ〜」
髪を結んでるゴムを外して髪をかき乱す。
「ままならぬのが世の常か?」ふと古代で嫌疑のまま処刑された我が身を思い出す。
まだ10代のアキラは天狗になっていた。
この世に自分に叶う者はいないと。
神様の偶然が生んだ自分は特別な生き物だと。
ただ安倍晴明みたいに時代に合わない力なので、
自制自制して生きてきた
ヒミコを見つけてしめしめと思ってたのに…
とんでもない神様がおいでなすってしまった。
良く考えれば、この辺りは保元の乱の舞台。
敗れた崇徳天皇が逃げ込んだのが東山。
部下達は粟田口刑場で処刑されただろう。それが今のサナトリウムの辺りだ。
まさにその舞台!
近代になるまで崇徳天皇の怨念を恐れて京都にお社が無かったのに
明治政府が鎌倉の二の舞を恐れて京都に崇徳天皇を戻してしまった。
その市子?陰の巫女が最大怨霊を呼び覚ましたのか?
「あ〜あ、厄介な事になったなあ〜」
似合わないと言われたが、ため息しか出ない。
市子は不思議な空間に居た。
泉に浸りながらかしずく召人らしき女達に
身体を隅々まで洗われる。
が、髪の毛や爪がボロボロと抜け落ちていく。
いつのまにか骨だけの姿に!
が、痛くもないし反対に爽快なくらい。
泉の淵には、市子を連れてきた貴人がいつのまにか居る。
「これは…?」
「そなたの身体の不浄なるものを全て落としてるのだよ。
もう、そなたに身体要らない。
その憎しみと悲しみだけで良いのだよ。」貴人が静かに微笑む。
「確かに。九条に汚された身体なぞもう失くした方が清々しいです。」市子もうなづく。
身体がある限り、あの日の悪夢がよみがえる。
どんなに助けてと叫んでも誰も助けてくれない。
頭の上で嘲笑う男達の卑しい顔がまぶたに浮かぶ。
もうその汚された肉体は無いのだ。
それだけでも嬉しい。
「九条とな?私の正妻の実家だ。他の女房が王子を産んだからと戦で裏切ったな。義父共々。」
貴人は眉間にシワを寄せる。
「同じく九条に恨みのある者か?
それも縁を繋いだやもしれぬな。」
その話を聞いて市子は骸骨になった姿で涙を流す。
「そのままでは寒かろう。これを纏いなさい。」
真っ黒な影が貴人の手から市子を包み美しい十二単衣を着た姿に。
髪も長く肌も美しく大学に通ってた頃のように整えられた。
「まだ九条の者が生きながらえていたとは。
まず、そこからだな。」
泉の水を貴人が一撫ですると、そこに夜の京都の街が映った。
ビックリして大急ぎで水から上がる。
不思議とぬれていない。
「九条を根絶やしにしょう。藤原家も長過ぎた。
もう良かろう。」
その貴人は残酷に微笑んだ。