遅い男
「痛い、痛い〜!!
市子、助けてくれ〜!!」御簾の奥から助けを呼ぶ声が!
「どうなさいました?帝様!」この頃、御簾を垂らして全く市子に顔を見せなかった崇徳天皇が中で苦しんでいる。
「失礼します!」御簾を上げて中の帝の元に行くと
身体中に発疹が!
赤いブツブツがまるで疱瘡のように!
「民が民が…私を拝んでいるのだ!」拝んだ人間分疱瘡が広がるのか?
「呪いではないのですか?」市子には神社に参る人との区別が分からない。
「ちがう!怨みを抱えた者の願いは、私を強くするが、
私の幸せを願っているのだ!民が!私の幸せを〜」
崇徳天皇がもがいている。
すでに崇徳天皇は怨霊なので、極楽浄土にある物はことごとく
猛毒なのだ。
前から夜景で妙に明るい場所があった。
人が集まっているのか、工事なのか?ずっと何かしている。
そこで崇徳天皇の名が囁かれているのは分かるのだが、何せ遠い。
市子の能力では、スカイツリーの上から見ているような状態で詳しく分からないのだ。
崇徳天皇が見れば分かったのに、彼はここからでも人の家の中の鏡に呪いの人型を送ることができる。
だが、亡くなった妃と我が子のメッセージ付き映像に浸っていて、すっかりサボっていたのだ。
市子が手を当てると、そこだけ疱瘡が消える。
ずっと妬み呪い恨みを抱えて、市子の力は、この寝殿内なら
かなり及ぶようになっている。
「泉を開いて見て下さい!」
崇徳天皇が笏でその部分を拡大すると東大寺に大量に人間がひしめいてるのが見えた!
「こ、これは!後白河天皇がやった大仏開眼みたいな!」思わず声に出した市子は、ハッとする。
そうだ!
朝廷は、崇徳天皇の名を語る事も忌み嫌い讃岐宮と呼んでいた。
今でも京都でその名は語られない。
安井金比羅や白峯や遠回しにしか表現しない。
平安時代はもっと恐れていただろう。
役人だった菅原道真公のようには怨霊封じの天満宮など造れない!
だから、東大寺の再興にかこつけて奈良で怨霊封じをしたのだ!
参考書のページを必死で思い出す。
注釈に京都に戻ったあの泉の妃が、朝廷に崇徳天皇の遺品を奪われたと書いてあった!
それだ!
後白河天皇は東大寺の復興で大仏までしか関わってない。後は源頼朝だ!
大仏が天満宮なのだ!
あの中に崇徳天皇の遺品が…
一瞬で分かったが、既に遅い。
無数の人が集まり東大寺回りはキラキラとこの寝殿からも一際明るく見える。
余りの数に殺す事も無意味な数だ。
それも皆手に念仏札を持っている!
「東大寺の中を見せて下さい!」市子が叫ぶ。
映された東大寺の中は無数の僧侶が埋め尽くし、大仏を背に近衛吉良と車椅子の女性が必死で拝んでいる。
大仏は昔遠足で見たのとは違い、キラキラしている。
「あの中に帝の生前のものが…」市子は奥歯を食いしばる。
思えば、アキラの結界で中は見えないが、その結界は
よく動いていた。
奈良や四国や京都の街もあちこちと。
「もっと早く殺しておくべきだったあ〜
姉さんとアキラ君だあ〜!」市子は拳で床を叩く。
市子に疱瘡を消してもらって少し元気を取り戻した崇徳天皇は、市子のその拳を握る。
「おお〜っ、凄い力じゃ!
怨霊となった我が身に必要なのは、お前だった!
お前のお陰で目覚めたのだ。
すまない…昔の思い出に浸ってしまって…
私はバカなのだ。バカな男なのだ。
許しておくれ…」市子をひしっと抱きしめる。
「気まぐれな方…また、きっと私を裏切るのでしょうね…
でも、今の帝に必要なのは私でございます!
そして、私に必要なのも帝です。」市子はぎゅっと帝の胸にすがりつく。
「思い出して下さい!どうやって封じられたのですか?
これから、どんな儀式があるのですか?」市子は聞く。




