劣等感
「やはりダメかあ〜」泉の畔で市子はため息をつく。
すっかり濁った泉から姉の無事が微かに分かった。
「霊はもう身体が無いから使えないし、アキラ君が居たら絶対勝てない!
生身の人間ならアキラ君も手が出せないし、姉も油断するかと思ったけど…」
この泉の濁りは絶対姉とアキラ君の仕業なのだ!
アキラ君は無理でも姉だけは早く封じたい!
邪魔をこれ以上されたくない!
悶々とするが手足が出せなくてイライラする。
寝殿を見やると傷んだ廃墟のようだが、相変わらず崇徳天皇は泉の中の愛する妃や子に夢中だ。
どうも映像みたいなもので、すでに妃も子もとっくに
成仏しているようだ。
飽きるだろうと放置する事にした。
下手に妨害すると機嫌を害するだけだ。
しかし、崇徳天皇を封じようとする動きが下界に見える。
何とか前にどのように封じられたのか聞いて、手を打ちたいのだが…
教科書や参考書のその辺りを必死で思い出しているのだが…表立って崇徳天皇を封じる動きは無かった気がする。
とにかく四国に全て封じ込めるような動きしか無かったような…確か亡くなった遺体も四国に墓を作ったはずだ!
泉の妃だけは、京都に戻り息子が居る仁和寺で暮らしたようだが…
参考書の端の注釈も読み込みテストに備えていたが、
それ以上は調べていなかった。
そこまでしなくても満点は取れる。
特に歴史が好きでも無かったし…胸がチクとする。
姉が好きだったが、すごく目障りだし癇に障る部分もあった。
好きな事しかしないのだ。
好きな事や興味ある事はビックリするくらい学んでドンドンやる。
学校の勉強なんか、父が亡くなるまで全くやらなかったから、
女子大生なりたい!とか急に言いだした時は、中学の勉強から
市子が教えたくらいだ。
姉は人に褒められてるの見たことない。
父や母に怒られ、祖父や祖母にも怒られてばかりいた。
反対に市子は、いつでもどこでも褒められることしか無かった。
母が三者面談で先生に叱られて、姉の事で悩んでるのに、本人は全然反省しない。
「市子の爪の垢でも煎じて飲め!」と叱られても舌出して笑っていた。
漠然と優越感感じてた。
姉なんか勝って当たり前!の存在になってた。
なのに父が亡くなったら、アッと言う間に有名人なって、どこに行っても姉を褒めそやす声しか聞かなくなった。
反対に市子は家族と先生しか、もう褒めてくれない。
同世代は思春期で親の価値観に反発する年頃。
大人に受けが良い市子は、同世代に距離を置かれ陰口を叩かれるように。
姉は反対に同世代の憧れの存在になっていった。
何の苦労も努力もしてない。
好きなことだけバカみたいに打ち込むだけ!
なのにいつの間にか、市子は抜かされていたのだ。
「ただの胸がデカいバカじゃん!単細胞だし。」
ずっと心のどこかで軽んじてたバカにしてた姉。
大学で同じ学部で同級生になり、その差は圧倒的になった。
片や皆が髪型から服装にメイクまで真似するインフルエンサー
片や地味で目立たない普通の女子大生。
もう市子に姉に勝てる物は無くなっていた。
そして、最後は姉の代わりにレイプされて…
そう、早く消えて欲しいのだ。
目ざわりなのだ。
家族として好きより、存在がもう鬱陶しいのだ。
「死んでくれたら…また、子供の時みたいに好きになれるのに…」
帝が市子を見かけて不愉快そうに寝殿に戻ると泉に手をそっと浸す。
すると、あっという間に泉は、透明にまたコンコンと湧き出す。
寝殿も女房や武者達も元に戻る。
「はあ〜イヤだ!本当に嫌!姉のせいだ!本当に邪魔!」舌打ちをする。




