岩にせかるる滝川の
『瀬せをはやみ 岩いはにせかるる 滝川たきがはの
われても末すゑに あはむとぞ思おもふ』
部屋に戻り崇徳天皇を調べるとこの句が出てきた。
百人一首で良く聞いた歌だ。
彼の人生を知った後だと、この句はツラすぎる。
結局、父や弟と和解する事は叶わなかった。
何を掛け違えたのだろう?
我が子に対して余りの仕打ちで実子ではなく、祖父と妻の子だろうと…考察されているが、違うと思う。
本当に父は息子を憎み、息子もそんな父を憎み、その遺志は亡くなった後も弟にも引き継がれたのだろう。
いつか滝川のように和解できる日を夢見ていたのだろうか?
怨霊だったのは、崇徳天皇か父親の鳥羽上皇だったのか?
私は妹を許すだろうか?
人を憎み呪い殺し、止めようとした私まで殺そうとしたあの子を…
結局妹に大事だったのは、名声世間体。
それをもたらす道具ぐらいにしか思われて無かった。
小さい時から大事に大事に思ってきた私の思いは何一つ届いていなかった。
この無邪気な展望を歌う崇徳天皇は、自分が幼き日に
実父にどんな屈辱と侮蔑を与えたか?
忘れたのだろうなあ〜
愛されて当然の自分。
何をしても言っても、最後は皆は私を愛して許してくれるはず…とでも思ったのか?
「とんでもない長男だな。何様だ?」
三大怨霊の1人、崇徳天皇にこんな感情を持ってしまう自分を笑うしかなかった。
隣の部屋でアキラは目を閉じてる。
さっき有間に言われた言葉を反芻する。
「入鹿さんもとんでもない姉妹を残して逝ってくれたよ。
普通あんな加工ぐらいで人は動かせない。
姉の動画も楽しく面白いが、そんなに人を動かせるもんじゃない。
あの2人は、日ノ巫女と冥府の巫女だ。光と影の巫女だ。
ネットを介して人の心を操る。
どうする気だ?アキラ」
「どうすると言われてもなあ〜」椅子に座り頭の後ろで腕組みして椅子をキイキイと鳴らす。
丁度都合の良い女が現れたと思った。
が、そばにいると気になる。
ガラも悪いし暴君だし過激だし…昔好きだったお姉ちゃんに似てるのかも?
今はもう東京で刑事をやって長年のバディと結婚している人だ。
市子は昔から黒い影をすぐ帯びる子供だった。
同級生なんで気になってた。
だが翌日なると黒い影が消えてる。不思議だった。
ヒミコが祓っていたのだ、無意識に。
今なら分かる。
人は、陰と陽で出来ている。
どちらも欠かせないのだ。
その均衡が崩れてしまった。
自分が出来るのは、攻撃力も守備も持たない陽の巫女を守る事だけ。
市子は精神と肉体を犠牲に攻撃力と守備を会得していた。
「このまま収まってくれれば…1番なんだがなあ〜
なんで姉妹で反対なんだ?」
どうして家族で姉妹で陰と陽に分かれてしまったのか?
皮肉な運命としか言いようがない。