幸福
姉に何をしても跳ね返されるので崇徳天皇がイライラしてる。
が、市子はこの不思議な空間での日々に満足していた。
多分生まれてからずっと現実に違和感を感じてた。
大人に言われた通りに動ける市子はいつも尊敬か嫉妬に晒されてきた。
極端な同世代の反応にとまどい、いつの頃からか臆病になり人との間に壁を作って生きてきた。
せっかく奈良の進学校に進んで同じ様な経験した仲間出来たのに、
父の自殺で何もかも消えた。
京都の高校では受験だけで大わらわで大学入って、やっと仲良くなったら、
ヤリサーの餌食にするためだった。
汚くて冷たい世界だった…
寝殿の下の泉はコンコンと水が湧き出る。その眼下には京都の街が見える。
スカイツリーは登ったことないが、きっとこんな風景なんだろうなと思う。
「私には縁なかった世界だったなあ〜」呟く。
家は好きだった。家だけが安心できた。
父も母も姉も無条件に市子を愛してくれた。
祖父と祖母も優しかった。
だから、何とか頑張れた…が。
それももう過去だ。
今は優しい崇徳天皇と沢山の美しい女御達にかしずかれ静かに暮らせる。
美しい女御達も皆むごい人生を送った名もなき亡霊達だ。
皆、下界で辛く苦しい人生を送った者達の世界。
崇徳天皇と保元の乱で戦った者達も皆若く美しい武者に戻り思い出話しながら酒を飲む。
崇徳天皇を市子が目覚めさせたせいで出来上がった世界らしい。
崇徳天皇はあらゆる人の呪いを叶えるため毎日忙しそうだ。
「数は少ないが呪いが効かぬ人間が数十人くらい居るなあ〜お前の姉もその1人だ。」
寝殿で市子の膝枕に頭を乗せながら足は貧乏ゆすりをしてる。
「それ以外の人は呪いが効くのですから、良いじゃないですか?」
市子は笑う。こんな穏やかに笑った事は下界でなかった気がする。
「弟も何度呪っても死ななかったなあ〜周りは殺せるのに本人だけダメだった。
だから、代わりに命以外の全てを奪ってやったがな。」
思いだしたように笑う。
が、その後暗い表情になる。
「最後の最後にアイツに封じられたのだ。狭い場所に。
お前が私を目覚めさせてくれるまで。」
膝枕から手を伸ばし市子の顔を優しくなでる。
「感謝するぞ。おかげで写経で弔った仲間ともここで過ごせる。
ずっとずっと、側に居てくれ。」
市子が1番欲しかった言葉。
涙が流れる。もう冷たくも熱くもない涙だが。
「はい、決して離れません。」市子も誓った。




