残党
「わざわざ京都まで…おおきにね、本家の兄さん。」
もう衰弱が激しくミイラのようになりながら、二条家の奥方が近衛吉良の方へ手を伸ばす。
「無理をするな。なかなか私も身体が思うように動かず
見舞いが遅れて悪かったなあ〜芳子。」
すっかり面影を失った様子に涙する。
そう二条家の奥方は近衛家の遠い分家から嫁いだのだ。
こういう藤原の血を絶やさぬ努力が、かえって絶滅を早めたのかもしれない。
「娘は気の毒だったなあ〜」近衛吉良が二条家奥方の芳子に声を掛ける。
「お兄さんだって…突然孫も息子さんも亡くして…」
もう話すのもキツそうだ。
「無理して話さなくていい。
わしの話を聞いて頷くだけでいいぞ。」痩せこけた手に
シワだらけの手を合わせる。
「九条の奥方は、慣れない留置生活で認知症になって
もう調べができない状態になったらしい。
母君は降嫁された伯爵家のお嬢様だからなあ〜
留置場なんて信じられない事の連続だったろう。」
「…おいたわしい…」芳子が涙ぐむ。
「どうも崇徳天皇の怨霊は、わしら年寄りはもう眼中に無いようだ。
が、老いても藤原家じゃ!
このまま死ねぬ!
今、後白河上皇様がどうやって怨霊を封じたか?
調べさせてる。
崇徳天皇が亡くなった後、すぐに遺品を回収させたらしい。
その後の文献や遺品が見つからぬ。が、必ずや仇を討つぞ!」身体は年老いてボロボロだが、ギラギラとした目で近衛吉良が話す。
芳子は無言で吉良の手を強く握った。
「なんで、こんな年の暮れにアンタと奈良まで行かなきゃいけないの?」
ビスタカーでヒミコは文句を言う。
「国体が終わるの待ってたから仕方ないだろ〜
練習がやっと減って少し休めるから、ここで何とか
怨霊を封じ込める方法を見つけないと!」
アキラも窓の外ばかり見てる。
「あのさ、なんで僕真ん中の席なの?
話あるなら隣の席で、話せば?」見波が挟まれて辛そうだ。
「絶対いやだ!」ヒミコとアキラが同時に拒絶した。
「後白河天皇は鎌倉幕府が出来て政治への関与が出来なくなった後半生は
東大寺の再建にのめり込んだんだ。
自分の財産を投げ打ち、足りなければクラウドファンディングまでして。
なぜ、そこまでして東大寺を再興したのか?
おかしいと思わない?」
有間が意味ありげに3人に話した。
「結局、兄から奪った権力の座も平家に奪われ源氏に奪われ、京都自体も天災や疫病で荒廃してしまった。
もう権力の中枢は鎌倉に武士の世界に変わってしまったんだよ。
それは…なんでだと思う?」
3人の顔を見比べながら質問する。
「やっぱり…先帝の祟り?呪い?」見波がおずおずと挙手して答える。
「そう、彼なりに人智は尽くしたよ。
だが、権力も奪われ都は荒れ果ててしまった。
そうなると人間どう考える?」有間が教授らしくパフォーマンスしながらフォークで肉を刺す。
「…兄ちゃんの呪い…かな?」アキラが答える。
「そう!
彼が賢帝なら自己責任を感じたはずだが、ボンクラなら他責したろ?
死んだ兄のせいにしたはずだ!」
そこに頭の良い僧侶がすり寄った。
「半壊してる東大寺を再建すれば、怨霊は封じれる。
さすれば都は再び栄え、権力はあなたの手に戻るだろうと。」3人に顔近づけ囁く。
「お〜っ、それは飛び付くな!アホなら!」アキラが手を打つ。
「まっ、東大寺再建を見ることなく後白河天皇は亡くなるが、天寿は全うしてる。還暦過ぎまで生きたんだよ〜」
「ヘ〜ッ」3人共相槌を打つ。
「つまり怨霊封じに成功したんだ。
それを見て源頼朝も平家みたいにならない為に東大寺再建に尽力した。」
「つまり、権力者の加護神になった?東大寺が?」ヒミコが問う。
「重源と言う僧侶が、どうやって怨霊封じをしたのか?
文献は残ってない。が、四国に島流しされた崇徳天皇が亡くなった後、後白河天皇は兄の遺品をかき集めていたらしい。
…匂わない?」
有間がまた3人に顔を近づけて囁く。
「菅原道真みたいに大っぴらには天満宮とか作れなかったが、その代わりが東大寺の再建なんだよ!
て事で、怨霊封じの秘密を解きに奈良へ行っといで!」
と言うことで、3人は冬休みを利用して奈良へ行く事になった。




