課題
アルフィムは『絶望の大森林』を東に抜けて
田舎道をのんびりと歩いていた。
天使の装束では目立つので
アルフィムは収納目録画面を目の前に
展開し、兵士時代に使っていた適当な装備を
見繕って取り出して着替えた。
漆黒のマントを羽織った軽鎧装備姿で
外見は冒険者っぽくは見える。
「結局、界神様は俺が人間のふりをして
人間界で生きていく事を認めてくれたなぁ。
まぁ、俺も大人げなく色々と
本音で文句を言ったからかもな。」
1時間ほど前まで一緒にいた界神の事を
思い出しながらアルフィムは独り言をつぶやいた。
半径300kmはあろうかという『絶望の大森林』を
アルフィムはスキル『神速』で
一瞬で駆け抜けてからは
20kmほどの距離を
東に向かってのんびりと歩いていた。
周囲には緑しかなく人などは見当たらない。
それでも人間界の懐かしい風景を
アルフィムはすごく楽しんでいた。
アルフィムは夕焼けに染まる空を見上げる。
「とりあえず、ガンドラン王国の王都までは
まったりと向かおうかなぁ。
王都かぁ。本当ならワクワクなんだけれどさぁ。
界神様に、色々と課題を与えられたせいで憂鬱だ。」
腰のベルトポーチから手帳を取り出して
手帳に書かれた界神からの課題の内容を読み返した。
『王都にある王立高等学校に通うべし。』
(なるほど。俺は、人間時代は戦場ばかりで過ごしたから
青春をやりなおしたいって
界神様に文句を言ったからかな。
スクールライフをエンジョイしたいね。
もしかしたら初の彼女とかも出来たらどうしよう。)
『冒険者登録では職業は回復職で登録すること。
回復職に専念し、依頼では攻撃行動は一切しないこと。』
(俺に死ねと言っているのかって話だけれど
俺が攻撃職で登録してしまうと
ソロパーティーで完結するしなぁ。
冒険者パーティーで仲間でワイワイと
アドベンチャーライフをエンジョイしたいから
まぁ、異議はないな。
パーティーでは野営が多くなるだろうし
パーティーを組んだ女子メンバーと
秘密のワンナイトラブからの交際に発展とかあるか。)
『冒険者パーティーを組んでS級を目指せ。
S級パーティーに認定された暁には絶望の大森林内の
地下迷宮【永劫なる闇の竜墓】を攻略すべし。』
(絶望の大森林のダンジョンクリアをすれば
天使が迷宮主を殺した事件の証拠が隠滅できる。
幸い、地下迷宮は魔人の攻撃を受けずに無傷だったから
S級ダンジョンとしての機能はかろうじて生きてる。
界神様には迷惑ばかりをかけるなぁ。
俺が素直に天界に帰還していれば
界神様が事実をウヤムヤにして処理してくれただろうが
魔人を殺害した天使が
人間のフリをして人間界に残っていて
冒険者として迷宮攻略しているなんてことが
魔界にバレたら敵対行為と捉えられて
魔界から凄腕の刺客を送られかねないもんな。
俺は別に刺客なんか怖くないけれど
もしも、善良な一般人がその巻き添えになったら
俺は天界からも討伐対象にされかねない。
いまさら堕天使になんてなりたくねぇなぁ。
俺はリスクを回避するためにも
あくまで回復職として回復に専念し
地味に目立たずにダンジョンボスを攻略して
証拠隠滅に尽力しよう。
でも、他のS級冒険者パーティーが先に攻略してくれたら
回復職縛りはしなくていいんだよな。
誰でもいいから絶望の大森林を攻略してくれねぇかなぁ。)
『王都在住の貴族、バウドルク伯爵家の養子になるべし。』
(バウドルク伯爵が王立高等学校の入学の手続きを
してくれるように手配しておくって界神様が言ってたな。
上級貴族の後ろ盾があれば何かと便利だとは思う。
バウドルクって、聖魔戦争十英雄の
序列一位【不可視の宰相ジョン・バウドルク】の末裔。
不可視っていうのは皮肉だな。
要するに仕事できすぎる政治家は
政治的な問題が起こらなすぎて目立たないって話だ。
それが序列一位に評価されたってのは
見る人は見てるってことじゃないか。
俺も本来なら英雄には数えられないはずの立場だった。
兵士の手柄は指揮官の手柄になってしまうからなぁ。
一兵士が伝説的英雄扱い受けるだけでも光栄なことだよ。
なのにあの魔人は俺を可哀想な奴とか言いやがって。)
アルフィムは目を細めて真っすぐ先を見つめる。
遠目にいくつかの住居が確認できた。
「お。村かな。宿があればいいなぁ。
界神様から軍資金を援助して頂けたし
美味いメシが食える宿があれば最高だな。」
宿の夕食時間に間に合わないのは
さすがに嫌だと感じたアルフィムは
スキル【神速】を発動したのだった。