界神
『界神』、それは人間界、魔界、天界などの
異なる理を有するいくつもの世界が
共存する『ステヒリド』という世界を監視し
バランスを整えたりする『調律者』の役割を司り
もしも、著しく世界のバランスが崩れた場合には
自ら、各界の主神と協議し
解決策を探る『調停者』としての役割を司る。
『ステヒリド』において
最高権力を持つ神が『界神』である。
アルフィムの前に現れた騎士はその『界神』であった。
魔神大剣デスソードの力を解放されて
無残に荒れ果てた大森林にて
千年ぶりの再会を果たした界神と大天使。
大天使アルフィムは体の後ろで腕を組んで
肩幅に足を開いて背筋を伸ばし起立している。
界神キシュハードは馬上から
アルフィムを見下ろして
右の拳を口に当てて表情を崩した。
「プッ! おまえ。天衣を着た姿で
そのポーズはなんとも滑稽だそ。」
アルフィムは緊張した面持ちで
体勢を崩さずにキシュハードを黙って見上げている。
キシュハードは馬具に手をかけて勢いよく下馬すると
アルフィムの前に歩み寄り
地面にドカっと腰を下ろして胡坐をかいた。
「まぁ、遠慮せずに座れ。
お前と余との仲ではないか。」
そう言ってアルフィムに向かって手招きした。
アルフィムは「は! 」と返事をすると
腰を地面に下ろして膝を抱えて三角座りした。
キシュハードは右の拳を強く握ると
身を乗り出してアルフィムの頭上に
軽くゲンコツを食らわした。
アルフィムは叩かれた頭を両手でとっさに押さえて
抗議するような目線をキシュハードに送った。
キシュハードの表情は
微笑みを浮かべていたが目は笑っていない。
「おまえ、一体、なにやっとんじゃ! 」
アルフィムは腰を捻ると
背中に刺さった短剣を右手で指し示した。
「キシュハード様! それは誤解です!
友好的な俺を魔人が不意打ちで命を狙ってきたんです。
活目して、よく見て下さい!
ホラ、めっちゃ刃物が刺さってますよね!
仕方なく・・そう! やむおえずの正当防衛です。
卑怯にもあの魔人は
強い魔物を、いっぱい呼び出して
俺をコテンパンにしようとしたんです。
俺は正当な権利を行使しただけです! 」
キシュハードは呆れた様子で深くため息をついた。
「おまえは余にそんな言い訳が通用するとでも
思っておるのか? 余を小馬鹿にするな!
まったく、千年前から何も成長しとらんではないか。」
アルフィムは納得できない表情をキシュハードに向ける。
「なんなんすか!
小馬鹿にしているのはどっちですか!
貴方は俺がウソをついているというのですか?
すみませんが俺は神にウソをつくほどの度胸はないです。」
アルフィムはプイっとそっぽを向いた。
キシュハードはガッカリした表情を浮かべた。
キシュハードは右手で頭をかきながら
「おまえなぁ。相変わらず反抗的だよなぁ。
神様に大声で口ごたえしてるくせして度胸がないとは
よく言えたものだな。」とぼやいた。
キシュハードは気を取り直して口を開く。
「余はな。おまえをずっと監視しておった。
まぁ、おまえは感づいてはいただろう・・・。
天界にて天使として真面目に働くおまえの姿に
余は感動しておったんだがなぁ。」
アルフィムはブスっとした表情で膝を抱えた。
「今回の惨事について余の見解を申す。
おまえはただ自分のチカラを試したかっただけだ。」
アルフィムは、ドキっ! とした顔をした。
「そ・・そんな子供みたいな・・あははは。
キシュハードさま? 冗談は、よして頂けますか。」
キシュハードはアルフィムの言葉を無視して続ける。
「なぜ、おまえの翼が壊れたかわかるか?
簡単な理由だ。
天使を辞めたいという深層心理が働いたのだ。
地上へ落ちそうになったのをきっかけにして
翼が壊れるという形で具現化した。それだけだ。」
アルフィムはキシュハードの言葉を否定しない。
キシュハードは言葉を続ける。
「天空城の強固な結界からすり抜けて落下したのもそうだ。
おまえは大天使の責任から逃げた。
戦士として人々から賞賛されていた頃の
自分に返り咲きたいという欲求がこの惨事を生んだ。
魔人との戦闘を避ける方法なら
選択肢はいくらでもあったはずだぞ。
どうだ。監視者である神の意見に反論があるなら申せ。」
アルフィムは右手を地面について立ち上がった。
「おそれながら申しあげます。
界神さまのお言葉は
大変、心に深く突き刺さりました。
俺は強く、そう、一層、強く覚悟を決めました! 」
キシュハードは満足げにうなずくと
自分の膝にパンッと手を打つと
その手を膝に添えて立ち上がった。
「うむ。その覚悟やよし!
大天使としての覚悟を新たにし
天界へのより一層の貢献するというのだな。
ならば、この大森林については余に任せればよい。
万事、うまく解決してやる。
天界と魔界がまた争うような火種は消さねばならんからな。
天空城へも帰れるよう転移陣も構築してやろう。」
アルフィムは静かに小さく首を横に振った。
「違います。そうじゃありません。」
キシュハードは嫌な予感がした。
「ん? おまえ! ・・・まさか!?
堕天するつもりではなかろうな? 」
アルフィムは目を輝かせながら口を開いた。
「俺はこれから
この人間界で一人の人間として生きていきます! 」
「はぁ~?!
お、おまえは、そこまで馬鹿だったというのか!? 」
キシュハードは、そう言うと
気が抜けて力なくヘタリと地面に座りこんだ。