魔人
大天使は迷宮主を名乗る優男に目を向けた。
(ふむふむ。魔力が瘴気として
具現化するほどに凄まじいが、悪魔か・・・
いや、人間の姿だし、魔人の類か。)
大天使は優男を観察して優男の種族を推理した。
大天使は口を開いた。
「俺は天使だ。
ちょっと、空から落っこちてしまってね。
迷宮攻略をするために
来たんじゃないんだ。
だから、攻撃されるのは迷惑でね。
攻撃をやめてくれないかって
そこの虎ちゃんにお願いしたんだが。」
迷宮主は顎に手をあてて首をかしげる。
「それは災難でしたねぇ。
天使って翼が生えているものと認識しておりますが
翼の無い天使もいらっしゃるという事でしょうか? 」
大天使は困った顔を浮かべる。
「さっきまで背中に翼が生えていたんだがなぁ。
落っこちた瞬間に翼が粉々に砕けちまったんだ。
理由は俺が知りたいくらいだ。」
迷宮主は目を閉じて眉間に皺を寄せながら
腕組みすると考え込む様子を見せた。
「ふむ。私の目には貴方の神聖力は
とても貧弱に映っております。
しかし、神聖力を持つ人間だと仮定すれば
その神聖力は強大すぎるとも言えます。
天使と判断をするには難しいですね。
まぁ、いいでしょう。
ここで出会ったのも何かの縁という事で
大森林から抜けるまでの道中は貴方への攻撃は
怪物には禁じておきましょう。」
大天使は満足げにうなずいた。
「そうしてくれるならありがたい。
では、俺は人里を目指してみるとする。
天上に帰る手立ても教会にならあるかもしれんしな。」
迷宮主が口を開いた。
「天使様のご無事の帰還をお祈りしております。
おっと、わたくし、名乗らせて頂くのが遅れましたね。
わたくしは絶望の大森林の主であり
森の魔人ベンクーダと申します。
もし、よろしければ
貴方様のお名前をお聞かせくださいませんか。」
ベングーダの目が鋭い光を宿した。
大天使は、「ああ。」と興味なさげに返事をした。
(天使名を訊いてくるという事は名前次第では
容赦はしないって感じがするがどう答えるべきか。
ま、そもそも魔界の住人である魔人と天界の天使は
休戦中とはいえ敵同士だしなぁ。
正直に答えて攻撃してくるならこちらも容赦はしないがな。)
「いいだろう。俺は大天使アルフィムだ。
アルフと気軽に呼んでくれ。
そうは言っても、もう会う事もないだろう。
君達の事も冒険者達に攻略されないように祈っている。
みな達者で暮らしてくれ。」
そう言って軽く手をあげて振るとアルフィムは
ベンクーダに背を向けて歩き出した。
ブンッ!!! という空を斬る音が響いた。
魔力を帯びた黒い短剣がアルフィムの背中に突き刺さった。
アルフィムはすぐに振り返る。
「痛っ・・・てぇなぁ。
おいおい。約束を破るの早すぎないか?
なんか背中に刺さったんだけれど不意打ちって奴か。」
ベンクーダは両手に短剣を握って半身で腰を落とした。
自分の顔の前で2つの短剣を十字に構える。
それを見た白金剣虎達が
前足を屈めて身を縮めて攻撃的姿勢を取り始めた。
ベンクーダはアルフィムに微笑みを浮かべる。
「後ろから急にごめんなさ~い。
貴方の名前を耳にしたら気が変わったわ。
まさかの聖魔戦争の聖天十英雄の一人。
序列10位にして聖魔戦争の
戦功は十英雄の中で群を抜いて一位。
不当な評価を受けたままで
死後に最下級天使になられたという可哀想な英雄。
殲滅の狂戦士アルフィム様だなんてね。
そんな有名人が本物かどうかって気になるじゃない。」
アルフィムは呆れた様子で「やれやれ。」と息を吐いた。
「まったく・・・同名の天使がいるかもしれねぇじゃん。
まぁ、そのアルフィムで当たってるんだけれどよ。
お前に可哀想なんて思われてるのかと思うと腹立たしいな。
運動不足な生活をずっと送ってたんで
ちょっと運動したくなってきたわ。」
アルフィムは右腕をあげて右手を天に掲げる。
アルフィムの右手に光が集まり強い光を放った。
「いでよ! 魔神大剣デスソード! 」
アルフィムの右手に2mはあろうかという大剣が顕現した。
黒さびだらけで醜い大剣の剣身からは
どす黒い血が絶えず滴り落ちている。
ベンクーダは魔神大剣を
うっとりとした表情で見つめていた。
「その大剣が名のある魔将軍たちを
屠ったというデスソードなの? 」
すぐにベンクーダは怒りに満ちた表情に変化した。
「その同胞の血にまみれた呪われし魔剣を破壊してやる。
聖魔大戦で受けた我ら魔軍が受けた屈辱を
貴様の体に刻み付けないといけないわね。
簡単に死ねるなんて思うんじゃないわよ!!! 」
ベンクーダは空に向かって口を大きく開けた。
「ベンクーダの名を以ってを命ずる!
絶望の大森林に住む全ての下僕よ。集結せよ!!! 」
ベンクーダの号令に反応して
何万という怪物の足音が地響きとなって
大森林の地面を揺らしはじめた。
空には飛竜種や大型鳥類モンスターなどが集まり
まるで雨雲かのように黒く空を覆う。
アルフィムは眉をしかめながら
右手の大剣で右肩をトントンと叩く。
肩でもこっているかのような仕草だった。
アルフィムはジッとベンクーダを睨み付けた。
「おいおい!
威勢のいいこと言うからタイマンかと思ったら
タイマンじゃねぇのかよ。チキン野郎が!!! 」
アルフィムはそう言い放つと
シュンッと、そこに今まで誰もいなかったかのように
ベンクーダの視界からアルフィムの姿は消えてしまった。