絶望の大森林
天空の島から大森林に落下した大天使は
地面との激突する直前にとっさにスキル【反射】を
発動し、大森林中央付近の地面に激突した。
激突した周辺に土埃を巻き上げて
地面は円状にえぐれていた。
地面にうつ伏せに大の字に横たわる大天使。
「スキルは【聖障壁】で事足りたのかな。
反射したおかげで身体への衝撃は相殺できたけれど
地面への衝撃は大きくなってしまった。
ま、ドンマイってことでいいか。」
大天使は両手で上体を起こしえぐれた地面に腰かける。
「さてさて、どうしたものか。
ここはどこだ? まぁ、調べればいいだけか。」
右手の人差し指を右のこめかみに当てた。
「スキル【世界地図】発動。」
大天使の目の前に画面が顕現し、
この世界の世界地図が表示された。
「現在地表示。周囲拡大。」
大天使は赤い矢印で指定された現在地の
周辺地域を地図画面で拡大した。
「ああ。S級迷宮【絶望の大森林】の中心付近か。」
人間界の情報処理をしていた大天使には
人間界については豊富な知識がある。
「冒険者でもないのに迷宮探索になりそうだな。」
大天使はよっこらしょと立ち上がる。
ドスッ! ドスッ! ドスッ!・・・・・。
地面を揺らす複数の足音が迫ってきている。
「大型モンスターの足音か。
俺の衝突した音に反応したか。
S級迷宮ってだけあって
雑魚でも強そうなのが来そうだなぁ。」
大天使は邪魔臭そうに足音の方向に目をやる。
木々を押し倒し、生い茂る草を
かき分けて3体の緑色の地竜が姿を現した。
「雑魚でも竜種なのか。なかなか厄介だな。」
大天使は体高5mはありそうな地竜らを凝視した。
群れの真ん中にいた地竜が大天使に向かって
足を速めて加速しながら
顎を大きく開いて鋭い牙をむき出しにして
よだれをたらしながら
襲い掛かってきた。
「おいおい、そんな焦んなくても逃げねぇよ。」
大天使は右手に意識を集中すると
光が集まり長い棒状の光体に形成された。
「それ! 光速必中の槍をくれてやる! 」
大天使は右腕をあげて思い切り光りの槍を投げ放った。
「【神聖槍投擲】!!! 」
シュンッ! と目視で捉えられない速度で
光体が地竜の眉間を通りすぎた。
地竜が走りながら体勢を崩してズザザザッ! と
頭を地面に押し付けながら倒れた。
地竜の眉間に30cmほどの穴が空いていた。
目の前の出来事に2体の地竜は困惑した様子を見せた。
「お前ら足止めてていいのか? 来いよ。
次はお前らにもくれてやるぜ。」
大天使は右手と左手に光の槍を握ると、
両腕同時にあげて光の槍を2本同時に投擲した。
シュンッ! とまた目にもとまらぬ速さで光体が
2体の地竜の眉間をほぼ同時に貫いた。
地竜らは弱々しく体勢しながら、ドスンと地面に倒れた。
大天使は両腕を組んで考え込む。
「うむ。つまらぬ殺生をしてしまった。
このまま殺生を続けるべきなんだろうか。」
大天使は周囲の気配を察知していた。
数十の怪物の気配が大天使を囲んでいる。
大天使は比較的に近い気配がする方向に目を向けた。
体長5mほどの怪物が大天使を睨みながら
のそりのそりとゆっくりと
大天使を中心に円を描くよう歩いている。
白い体毛に長く発達した犬歯。
「白金剣虎か。・・・」
白金剣虎の群れは隙あらば
複数で襲ってきそうな気配だった。
大天使は頭を右手でかきながら
『もうやめにしてもらいたいのだがどうだろうか! 』と
白金白虎たちに向かって叫んだ。
白金白虎たちはピタッと足を止めた。
草むらをかき分けて一頭の白金剣虎が姿を現した。
他の白金剣虎よりも体が一回り大きい。
群れのリーダーとおぼしき白金白虎が
警戒しつつも堂々と大天使に向かって歩み寄る。
その白金剣虎は口を開いた。
『お前はわしらと言葉が交わせるのか? 』と
その白金剣虎は大天使に問いかけた。
その白金剣虎に向かって大天使はうなずく。
『俺は職業柄、ん?
職業というか種族というか言語の壁が無い。
神に仕える天使ってやつなんだ。』
白金剣虎のリーダーは驚愕の表情のあとに
なにやら苦し気な表情になった。
『んむむむ・・・
嘘を言っているとしても内容が突拍子もない。
真実だとすれば
天界と事を構える判断などわしらにはできんしのぉ。
この迷宮の主を召喚する。しばし待たれよ。』
白金剣虎のリーダーは大天使にそう告げると
空に向かって『うぉおおおおおぉん!!!』と
大音声の遠吠えを放った。
すると、空中高くに魔法陣が形成され
その魔法陣の中から
黒いタキシードを纏った優男が顕現した。
スタッ!っと空中から地上に降り立った優男は
恭しく大天使に一礼すると口を開いた。
「初めまして。
わたくしは、この絶望の大森林の主でございます。
下僕に呼ばれて飛び出て参りました。
で、何の騒ぎでございましょうや? 」
大天使はその優男から発せられる禍々しい瘴気を
感じ取り、ニヤニヤとした表情を浮かべていた。