天空城
剣と魔法の世界『ステヒリド』。
そんなファンタジーな世界の上空に
天界の支部である天空城がそびえていた。
天空城の城内では大勢の天使たちが
日々、この世界を管理する情報処理作業に追われている。
「つらい。つらすぎる。」
天空城の広い庭園を力なく一人歩く天使がいた。
金髪碧眼で男性の姿のその天使の表情はとても疲れていた。
その天使は千年前は人間であった。
【聖魔戦争】で聖軍の兵士として参戦し
魔軍に対して大戦果をあげた功績で
天界に認められ死後は天使として天界に迎えられた。
「くそっ!
みんな仕事に対してやる気なさすぎて
俺ばっかりが真面目に仕事してしまう。
天使ってのは、なんでのんびり屋さんが多いんだ?
仕事ぶりを熾天使アルエミル様に
評価されて大天使に
昇格したのはいいが中間管理職になったせいで
上からの無茶な指示と、
やれと言われた最低限の仕事しかしない部下に挟まれて
俺のストレスは癒しても癒してもすぐ溜まる。
天使になったら楽な生活が出来るという概念が
下位の天使たちに染み付いているし
それゆえに出世欲もなければ
仕事をしなくても懲罰なんてない。
給料があるわけでもないので手を抜いた方が得。
位階が上がれば責任や仕事が増えるだけ。
やりがい搾取にすらなってない。ただの搾取だ。
あああああ!!!
人間の時の方が気持ちが充実していたよなぁ。」
そうぼやきながらその大天使は
天空城の端から下界を見下ろした。
視界には【ボントレール大陸】の緑が広がっていた。
「俺がもしも地獄へ落とされていたら
ワンチャンで転生して人間をやり直せただろうけれど
天使っていうのは
死後の人間のある意味で終着点なんだよなぁ。」
大天使は目の前に広がる大陸の景色を見つめた。
「こっから下界に降りたらどうなるんだろうね。」
そう言って大天使は天空城の庭園の端に
腰掛けて両足で空中をかいた。
「フッフフ。」と大天使は小さく笑った。
「なんてね。休憩終わり!
さてと、管理室に戻って仕事すっかなぁ。」
大天使は立ち上がろうと地面の端に両足をかけた。
両足に体重をかけて立ち上がろうとしたその瞬間。
大天使が座っていた地面が崩れ落ちた。
大天使は真っ逆さまに天空の島から
空中に落下した。
「うおおぉおおお。マジかよ!?」
背中の両翼を水平に伸ばし体勢を整えようとした。
両翼を張り、バタつかせて空中で停止した。
「ふぅ~。天使じゃなかったら死んでたかもな。」
上を見上げた大天使は驚愕した。
「あれ?・・・・天空城・・どこ?」
大天使は周囲を見渡したが天空城が見当たらない。
「うそだろ。なんで。なんでなんだ?」
大天使は両手で頭を抱えた。
パリンッ!!!!と
突然、ガラスの割れるような破裂音が広がった。
「え・・・ええええ!!!」
紙吹雪のように何百枚もの白い羽根が
大天使の周囲を舞っている。
「翼が壊れた!?どうなってんだよぉぉぉ!」
背中の翼は粉々になっていた。
「うわぁぁっぁぁあああああ!!!!」
大天使はまた真っ逆さま空中を落下していく。
大天使の視界には森が広がっていた。
どんどん森の木々がはっきりと見え始めて
ズドおおおおおぉおおおぉぉぉぉんんん!!!
大きな衝撃音が大森林に木霊した。