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二式中戦車『チへ』とルソン決戦

作者: パラオ泊地

初めての短編小説なので不慣れなところもありますが楽しんでいただけたら幸いです。

また数年ぶりの執筆なので大目に見ていただけたら嬉しいです。

1943年 昭和十八年 

大東亜戦争まっただ中、大日本帝国陸軍のある戦車隊に新しい車輌が配備された。




「……デカいな」

「資料では事前に知ってましたけど、いざ実物を見るとデカいですね……」

「上もやっとデカい砲を積むようになったか!良かった良かった!」


彼らの目の前にある車輌はこれまでの日本戦車とは大きく異なっていた。

明らかに対戦車戦闘を意識した巨大な砲塔には75ミリクラスの長砲身が備わり、車体は被弾傾斜を意識した今までにない分厚い装甲を用いた傾斜装甲ときつい角度。足回りを見れば幅広の履帯がその重量を支え十分な機動力を発揮すると期待できそうだ。


「エンジンの馬力は?」

「300馬力だそうで。まぁノロマではないですな」

「にしてもこれ何トンあるんですかね?」

「えっと……資料では25トン程度ですね」

「はぁ~やっぱり重いなぁ、『チハ』より10トンも重くなってるじゃないか……」

「その分こいつは強くなってますよ」

「そうか……まあこれからよろしくな、二式中戦車『チへ』」




二式中戦車『チへ』


車体長 6.1m

重量 24.7t

主砲 三式七糎半戦車砲Ⅲ型(45口径75㎜)

副武装 九七式車載重機関銃(口径7.7㎜)×2

装甲 砲塔前面65mm(60度傾斜)

     側面50mm(65度傾斜)

     後面30mm(80度傾斜)

   車体前面60mm(47度傾斜)

     側面50mm(57度傾斜)

     後面30mm(80度傾斜)

エンジン 統制型三式4ストロークV型12気筒空冷ディーゼル

     最大出力300hp

速度 38km/h

乗員 5名


二式中戦車『チへ』は九七式中戦車『チハ』の後継車輌として開発された帝国陸軍初の75㎜砲搭載の中戦車である。1939年に勃発したノモンハン事件の戦訓である対戦車能力の不足を解消し、今後出現するであろうソヴィエト赤軍の新型戦車に対抗するために生み出された。主砲には45口径75㎜である三式七糎半戦車砲Ⅲ型を搭載。この砲は『チへ』専用として設計された純粋な戦車砲であり十分な攻撃力を備えている。ちなみに九〇式野砲を改修した三式七糎半戦車砲Ⅰ型とⅡ型が存在するがこちらは砲戦車などに用いられているため別途である。機銃には日本戦車でお馴染みの九七式車載重機関銃を2挺搭載し、1挺は車体前方銃として配置、もう1挺は戦車砲の双連の同軸機銃として砲塔に装備させている。

防御力は日本戦車として格段に向上している。九七式中戦車『チハ』までは優美で曲面なども組み合わせた傾斜装甲であったが二式中戦車『チへ』は大きく異なる。車体前面を一枚の装甲で形成しきつい角度を付けたものとなり優美さなどは全くない側面、後面も言わずもがな角度を付けた装甲配置となり、なめらかさは無い。砲塔も大型かつ角度のついた物となり美しさは無く武骨である。

しかし曲面を用いず単純な傾斜装甲であるためリベットではなく溶接を用いた製造がなされており防御力は保証されている。

エンジンは三菱が生み出した統制型三式ディーゼルを搭載。このエンジンは従来の統制型一〇〇式ディーゼルの強化版とも言うべきものであり、次期本命のディーゼルエンジンの繋ぎとして生み出され採用されたものである。繋ぎとしては十分な性能があり最大出力300馬力は約25トンの巨体を動かすには十分なものだ。

履帯は400㎜の幅広の物を採用し機動性を確保し、変速機は前進4段、後進1段でシンクロメッシュ方式を採用。操向装置は日本戦車に従来から使用された遊星歯車式のクラッチ・ブレーキ方式であったが、大重量となったことから油圧サーボを導入し機動力低下を防いだ。



「ピカピカの新型が貰えるのは嬉しいですね!……しかし何でウチら何ですかね?後方の満洲よりもさっさと前線に持ってくべきでしょうにね?」

「まずは満洲で使えるか試したいんじゃないか?この『チへ』だって露助相手を想定してるんだろうしさ」

「露助に通用するならヤンキー相手にも通用するだろうからな。この主砲ならどんな相手でも倒せそうだがな」

「まあ本土でも戦車隊が新設されてるって噂だし、俺達だけじゃないだろ」


その通りである。

帝国陸軍はこの二式中戦車『チへ』を決戦車輌として大量生産体制を整え量産を開始している。そのため本土では戦車隊が次々と新設されつつあった。一方前線には相変わらず九七式中戦車『チハ』や九五式軽戦車『ハ号』などが送られ、少数だが一式砲戦車『ホニⅠ』も配備が進んでいる。

二式中戦車『チへ』は日本戦車では大重量であるため貧弱な荷下ろし用のクレーンしか備えていない輸送船ではおいそれとは運べなかった。そして運べる輸送船があったとしても米潜水艦の餌食になるのは目に見えていた。


「いや、だからって早くてデカい輸送船を造るのはおかしいのでは?」

「俺に言うなよぉ……それぐらい上は本気なんじゃないか?輸送船にしては足が速くてデカい戦車も乗せれるんだから。戦車以外も積み込めるし」


帝国陸軍は船舶司令部を中心に新型の量産できる輸送船を企画。民間企業に加えて海軍にも設計の援助を求めた。海軍も新型の量産できる高速輸送船に興味を示して海軍工廠に海上護衛総司令部も交えて設計、建造された。

『戦時特型貨物輸送船』と味気ない名を付けられた輸送船は

200m近い船体を持ち、20ノットを超える快速を有し、そして戦車を50輌、一個連隊分を一度に運べる輸送量を備えた驚異的なものになった。それをブロック工法で量産している。




1944年7月 

特型貨物輸送船を四隻を中心に対潜警戒をしながら船団はフィリピンへ到着した。

6月にはマリアナ沖海戦が勃発し、日本海軍は事実上敗北。作戦目標を達成出来ずに作戦参加部隊は撤退を開始。

米軍も打撃を受けたがマリアナ諸島の制海権を確保し占領していく。

次なる目標は南方資源地帯と日本を繋ぐ要所であるフィリピンというのは大本営も陸海軍大臣も参謀本部も軍令部も分かっていた。


『ならば迎え撃つまで』


こうしてフィリピン決戦の準備を着々と進める中、マニラに到着した新たな部隊が……

『独立101戦車旅団』

独立戦車旅団とは二個戦車連隊約100輌を基幹とし歩兵一個連隊、砲兵二個大隊と工兵部隊などを組み合わせた、いわばミニ戦車師団である。

装備戦車は勿論、二式中戦車『チへ』であり砲兵には一式砲戦車『ホニⅠ』が配備されている。

そして同時期に満洲で二式中戦車『チへ』を受け取り訓練に励んでいた戦車第二師団もフィリピンに配置となり、日本戦車が新旧合わせて300輌以上がこのフィリピン、ルソン島に集結した。


「これだけあればアメ公がいくら来ようが海に叩き出せるな」

「叩き出せても敵の海軍相手には俺達は何も出来ないけどなぁ……」

「そこは我らが連合艦隊に期待するしかないだろ?」


そしてその時が来た。


1944年10月20日

台湾沖航空戦勃発

1944年10月30日

米軍、フィリピン中部のレイテ島に上陸。

大本営、捷号作戦発令。


大日本帝国にとっての天王山、フィリピン決戦が始まった。

第14方面軍はルソン島での決戦を保持し米軍が上陸するのを手ぐすね引いて待っていた。台湾沖航空戦での戦果は被害に見合うものではなく、海軍が陸軍に、敵の機動部隊は健在、と言うことを伝えており、レイテ島を守備している第十六師団には、持久戦を行いつつ飛行場建設を妨害せよ、との命令を出した。

米軍はと言うと、微弱な抵抗に肩透かしを食らっていた。マッカーサー率いる陸軍はほぼ被害を受けることなく上陸し橋頭堡を確保。海軍は連合艦隊を警戒したがいつまでたってもやって来ない。

上層部から末端の兵士まで、この異様な静かさに警戒心を募らせていた。



1944年11月2日

夜襲もなく工兵がせっせと飛行場建設を進めているときそれは突然現れた。

日本陸軍第四航空軍が「待ってました!」とばかりに飛行場の建設隊に襲いかかる。飛行場だけでは無い。海岸に山積みされた物資に上陸艇、輸送船などを狙い攻撃を開始する。

無論、米軍も迎え撃つが、ここに来て米海軍にとって嫌なニュースが入る。

『日本艦隊を発見』

情報を送信した潜水艦は続報を送ること無く通信が途絶えた。

日本艦隊がどこにいるのか?どこへ向かっているのか?規模はどの位なのか?

必要な情報が何一つ無く米海軍は選択に迫られた。

このまま上陸部隊を護衛するのか……それとも日本艦隊を発見し殲滅するのか……本音を言えば今すぐ護衛から離れ日本艦隊を殲滅しに行きたかった。

しかしマッカーサーからの要請で米海軍は上陸部隊の護衛を選択した。



「誘いに乗ってきませんでしたな……どうします?」

「それならそれで本命を叩き込むまでだよ。バシー海峡の掃討は?」

「順調です」

「なら結構だ……あとは陸軍と合わせるだけだな」



1944年末にはミンドロ島に米軍は上陸、制圧した。ここでも日本軍は微弱な抵抗をした後、持久戦に移行した。

そして1945年12月19日、リンガエン湾一帯に向けて米海軍第7艦隊による艦砲射撃が開始、3日間かけて日本軍の海岸陣地の大半を破壊した。もっともこの陣地は欺瞞でありもぬけの殻だった。12月21日の朝から数日かけて、第8軍所属第25師団・第6軍第32師団及びその他の6個師団など約20万人という大兵力がリンガエン湾への上陸を開始し、リンガエンとサンファビアンを占領。僅か数日で長さ約32㎞、深さ8㎞の橋頭堡を確保、そこからルソン中央平野一帯、そしてマニラに向けて進軍を開始する。

ここでも日本軍の抵抗を受けること無くスムーズに上陸。依然として日本軍の第四航空軍が攻撃を仕掛けているが消耗したのかその頻度は減っていた。

レイテから始まった米軍のフィリピン奪還戦で大規模な戦闘が未だに起きていないことで上層部や末端の兵士たちの間で楽観論が流れ始めていた。無論警戒はしていたがそれでも心は緩むときがある。



「敵の機動部隊がバシー海峡を通過。南シナ海に進出した模様です」

「よし……敵は罠にはまった」




「なあ……日本軍は本当に居ないのか?」

「居るに決まってるだろ……いくらジャップがバカでもルソン島が重要かぐらいは分かるはずだ」

「だよな……新兵共が浮かれてるし、相変わらず日本軍の航空機は元気に飛んでるし……なのになんで一人も見当たらないんだ……?」

「知るかよ……気味が悪い島だぜ……」


M4シャーマン中戦車を先頭に前進する米軍は順調すぎるぐらいスムーズに内陸に進出した。フィリピン最大の平原であるルソン平原。戦艦の艦砲も届かない内陸に彼らは待ち構えていた。


12月29日 午後7時

独立101戦車旅団司令部

「旅団長、14方面軍司令部から電文です『作戦行動ヲ開始セヨ』です」

「いよいよだな、恐らく戦車第二師団も同じ命令が行ってるはずだ。参謀長、我が独立101戦車旅団は敵上陸軍に対して総攻撃をかける!全隊へ通達してくれ」

「承知しました!」


同時刻

戦車第二師団司令部

「敵上陸軍に対して総攻撃を行う。師団麾下の全隊はリンガエン湾に向けて突進、敵を殲滅する!」


同時刻

第26師団司令部

「方面司令部からの命令により我が師団は全力を持ってリンガエン湾に進出!敵上陸軍を撃滅する!」


同時刻

第8師団司令部

「師団の総力を持って友軍と共に敵上陸地点であるリンガエン湾を目指す!」


同時刻

第1師団司令部

「よし!師団は全力を挙げリンガエン湾に向けて前進!敵の橋頭堡を粉砕する!」


第14方面軍司令部は予め命じていた作戦計画を発動した。

『敵上陸軍が内陸に進出した後、方面軍は全力を持って夜襲を行い早朝までに敵上陸地点に進出、撃滅する』

勿論破れかぶれの夜襲ではない海軍と連動しての攻撃である。

そして午後11時。

米軍にとっての地獄、日本軍にとっては乾坤一擲の決戦が始まった。




まず気がついたのは夜襲を警戒していた第一線の兵士たちだった。


「ん……?なんか音しないか?」

「音ぉ……?……何の音だ?エンジン音か?」

「戦車が偵察に出たって話聞いたか?」

「いや…………大隊本部に報告しろ!」


雷のような音が木霊する。数え切れないほどの音が一斉に鳴り響く。


「伏せろぉぉぉ!」


残念なことに彼らは塹壕ごと吹き飛ばされた。自走砲、野砲、榴弾砲、噴進砲などが一斉に襲いかかった。それも極めて短い時間に濃密な雨として降り注ぐ。

油断もあってか第一線の部隊が次々と餌食になっていく。そして生き残ったものが見たのは……


「なんだ……あれ……」


呟いた彼は次の瞬間には、それが放った75㎜砲弾によって吹き飛ばされていた。


「前進しろ!一気に突破するんだ!」


二式中戦車『チへ』を先頭に突き進む日本軍戦車隊だった。

M2ブローニング重機関銃を弾き飛ばしながら、対戦車砲の攻撃をもろともせずにそれらを自慢の75㎜砲で潰していく。

歩兵はその後を追いかけるように突き進み、歩兵師団は一部を陣地を掃討に回し主力は前進し、戦車第二師団と独立101戦車旅団は歩兵を戦車の上面に乗せタンクデサントしながら随伴の機械化歩兵と共に突き進む。

米軍も砲撃音で日本軍の夜襲に気がつき、照明弾を打ち上げ第一線を突破した日本軍を迎え撃つ。

しかし……


「ジャップの戦車はブリキ缶じゃなかったのかよ!?」

「いいから撃ちまくれ!戦車はまだなのか!?」


初めて遭遇する二式中戦車『チへ』に対して恐慌状態にあった。明らかにM4中戦車と互角の大きさの新型戦車が100輌単位で向かってきているのだから無理は無いだろう。重機関銃も対戦車砲もバズーカも弾きながら砲撃と機銃掃射をしてくるのだから。


「ははっ!チハだったらとっくに火達磨だったな!砲手!11時の対戦車砲陣地だ!」

「了解!」


砲手はそう答えながら発砲。榴弾が放たれ陣地は吹き飛ぶ。

車長は笑いが止まらなかった。散々苦汁をなめさせられ続けた日本戦車が圧倒的強者として君臨しているのだから!

だがM4シャーマンとはまだかち合っていない。


本当に通用するのか?


不安もあった。そしてその不安がやって来た。


「っ!?目標!2時方向敵戦車!」


M4シャーマンが現れた。しかも1輌ではない。


「各車!敵戦車出現!警戒して当たれ!」


無線越しに怒鳴るように言う。そうしている間にもM4シャーマンが撃ってくる。


「くそっ!砲手!撃ち返せ!」

「了解っ!」


ドンッ!と砲撃の衝撃と共に徹甲弾が放たれ、真っ直ぐ突き進む。そして命中した。

しかし前面装甲に弾かれた。


「弾かれた!?」

「落ち着け!しっかり狙って撃て!」


装填手が次弾を込め、砲手が狙いを定める。そうこうしている内にM4中戦車は発砲。

ゴンッ!と鈍い音と衝撃が車内に広がるが被害は無い。


「弾けたぞ!」

「くらえっ!」


再び放たれた徹甲弾はM4中戦車の砲塔を直撃、沈黙した。


「もう一発叩き込め!」

「了解」


再び砲塔を直撃、今度は弾薬に引火したのか砲塔ハッチから火柱が立った。


「やった!」

「よぉし!コイツならアメ公の戦車相手でも戦えるぞ!」


仮想敵であるM4中戦車の攻撃を耐えれる、そして撃破できる事が証明され、戦車隊だけでなく随伴歩兵の士気も上がり、さらに進撃速度が上がっていく。


一方、米軍の上陸司令部は混乱しつつも情報収集に努めていた。


「前線各所から増援要請です。もしくは後退の許可を求めています」

「ジャップはどこから迫ってきているんだ?」

「はっ、現状確認できているのは左翼では第6歩兵師団正面に敵の強力な機甲部隊がいるようです。また右翼前線でも敵の機甲部隊が確認されており、日本軍の本格的反撃と思われます」

「うむ……第6歩兵師団にはM4中戦車の大隊を送っていたはずだが?ジャップのブリキ缶は相手じゃないだろ?」

「それが……日本軍の戦車は新型の様で、苦戦しているようです」

「新型?M4中戦車でも苦戦するのか……よしっ、敵の機甲部隊が確認できた前線に戦車大隊を増援として派遣しろ。それと随伴の歩兵も付けて送ってくれ」

「了解しました」

「海軍にも報告しろ、夜が明けたら支援砲撃を頼むとな」

「了解しました、航空支援も頼んでおきます」

「ああ、頼む。さて諸君、ジャップは万歳アタックを仕掛けてきた。今回の万歳アタックは恐らく我が陸軍が経験した中で最も強大で大規模なものだろう。しかし!夜が明ければ我々の勝ちだ!それまでは何としても橋頭堡を守り通すぞ」


米軍司令部は未だに全容は把握できていなかったが、それでも的確に正確に動き始めていた。


日本軍の総反撃が始まってから約四時間経過した頃、独立101戦車旅団はサンファビアンを目指して突進し続けていた。疲労も出てき始めていたが未だに衰えることなく高い士気を維持し闘志に溢れていた。その後ろから第1師団が前進し続けている。

第二戦車師団はリンガエンを目指し前進しその後ろに第8師団がついて行く。第26師団は第101戦車旅団と第二戦車師団の間を進み師団同士の間を埋めるように前へ進んでいく。


そして橋頭堡から増援として派遣されたM4中戦車の大部隊と衝突、ここに大東亜戦争、太平洋戦争最大の戦車戦『ルソン平野戦車戦』が勃発する。


「撃てっ!撃ちまくれ!」


『チへ』が放つ徹甲弾はM4中戦車の側面に突き刺さり爆散。


「ジャップの新型が何だってんだ!撃て!」


M4中戦車の徹甲弾が『チへ』の装甲を貫き砲塔が吹き飛ぶ。


「怯むなっ!前進しろ!前ながら撃て!」


鍛え上げた行進間射撃を行いながら前進する『チへ』の群れ。


「食い止めろ!ここを突破されたら橋頭堡まで行かれるぞ!」


その群れを止めるべく砲撃しまくるM4中戦車たち。ある車輌は履帯を吹き飛ばされ袋叩きに合い、ある車輌は止めるべく体当たりしたり、またある車輌は移動しながら砲撃しまくったりと日米双方の戦車が入り乱れる乱戦状態に陥っていた。

その乱戦から抜け出した車輌と歩兵はそれぞれの目標目掛けて前進し続ける。それを止めるべく米軍歩兵も果敢に挑んでいく。各所で起きる戦車戦と白兵戦はまさに地獄のような光景になっていた。

本来前線後方にあるべき砲兵部隊すら白兵戦に巻き込まれる米軍にとっては悲惨な状態であったが、あと三時間もすれば夜が明ける、という時間的余裕が米軍司令部にはあり劣勢の割には落ち着いていた。

しかし……


「なに!?敵が前線を突破しただと!?どこがやられた!?」

「はっ、ちょうど右翼と左翼の中間を突破してきたようです」

「数は!?」

「およそ一個師団、戦車も確認できているようです」

「予備の戦車大隊を送れ!手空きの歩兵部隊も加えて押し返せ!あと三時間もすれば夜明けだ!夜が明けたら支援砲撃でまとめて吹き飛ばす!」

「はっ!しかし前線はだいぶ乱戦のようで敵味方で入り乱れています。支援砲撃をすれば味方にも被害が出るかと……」

「なら航空部隊に頼んで的確に潰してもらえ!残敵は俺達がやれば良い!」


砲塔が吹き飛び車体だけになった『チへ』。車内が燃え各所から炎を上げるM4中戦車。至る所に朽ち、燃え、砕け、爆散した日米双方の戦車たち。第101戦車旅団は半数以下になっても前進を続ける。第二戦車師団も半数が戦闘不能になりながらも進み続ける。各歩兵師団も多大な犠牲を出しながら吶喊し続ける。

多勢に無勢、数で劣る日本軍。それでも機甲部隊は燃料と弾が尽きるまで進み続ける。歩兵部隊は命ある限り進み続ける。弾が無くなれば敵の死体から武器を剥ぎ取り、それも無くなれば銃剣で、銃剣が折れれば腕と足で、それすらも無くなれば歯で敵を屠る。


「あと少しだ!蹴散らせぇぇぇっ!」


砲弾が無くなれば機銃で掃射、機銃弾が無くなれば履帯で踏み潰す。戦車に対しては体当たりする。

『チへ』たちは1輌、また1輌と撃破され、あるいは道連れにして数を減らしていった。

そして夜が明ける頃には日本戦車は100輌以下まで減っていた。それでも一部の部隊は海岸までたどり着くことが出来た。約五倍の米軍に対して夜間奇襲であっても強固な防衛線を突破し海岸までたどり着けたのは快挙である。だが多くの部隊は海岸までたどり着けなかった。米軍との乱戦、肉弾戦、白兵戦を未だに続けており間に合わなかった。


「夜が明けたな……海軍に航空支援を要請しろ!それとレイテやミンドロからも航空支援寄越せと伝えろ!」

「了解しました」

「これでジャップも終わりだ」


この時米軍司令部は勝ったと確信した。

司令部外からエンジン音が聞こえる航空機独特のエンジン音。しかも多数だ。今要請が行われたというのに。


「早いな……海軍も良い仕事をするじゃないか」

「本当ですね……さっき要請したばかりなのに……」


だが期待していてモノではなかった。

対空砲の音が響き渡る。

思わず司令部を飛び出し空を見る。


「そんな……バカな……!?」

「司令っ!ここは危険です!退避を!」


何百という航空機が揚陸艦とそれらを守る艦隊、そして揚陸した物資に襲いかかっていた。主翼に赤い丸を備えた航空機がだ。


「ふざけるなっ!海軍は何をしていた!?ハルゼーはどこにいる!?」

「司令早く退避してください!」


無理やり引きずられながら防空壕へ退避する司令と幕僚たち。

だが不運にも日本海軍艦攻の流星が投下した800㎏徹甲爆弾がものの見事に防空壕に直撃、一撃で司令と幕僚たちは戦死した。

この攻撃隊は日本海軍の機動部隊であり航空母艦大鳳、翔鶴、瑞鶴、信濃、雲龍、天城の六隻が放った部隊であった。

そして陸軍航空隊も全力出撃を行い襲いかかる。一時的とは言え制空権を奪った日本航空隊は爆弾を落とし機銃掃射したあとさっと引き上げた。揚陸した物資の多くが燃やされ、揚陸艦や補給艦など上陸軍が必要なモノを乗せた艦が優先的に攻撃を受け被害甚大。さらに上陸司令部が壊滅という最悪な状態であった。

さらに米軍に追い打ちをかけるような事が起きる。

日本艦隊が向かってきているのだ。

しかもハルゼー艦隊は違う日本艦隊を追撃している。すぐには増援に来れない。米軍護衛艦隊は突っ込んでくる日本艦隊を防がなければ上陸軍20万人が干上がり日本軍に袋だたきに遭うという悲惨な結果になる。だから決断した。


『日本艦隊を迎え撃つ』


そのために海岸から離脱、できうる限りの戦闘艦艇を集め迎え撃とうと準備を整えた。


そして








「やっと、たどり着いたなぁ……」

「そうですねぇ……もう砲弾がほぼ無いですよ……」

「燃料もカツカツです……」

「機銃弾もほぼ撃ち尽くしました……」

「無線は壊れました……」


弾痕だらけの1輌の『チへ』がサンファビアンの郊外にたどり着く。随伴の歩兵も少々だがいる。皆ボロボロだ。


「なぁ……何輌ぐらいにアメ公の戦車、倒した?」

「何輌ですかねぇ……10輌ぐらいですかねぇ……?」

「それだけやれれば上々だなぁ……」

「ですねぇ……」

「……とりあえず進めるところまで進むか」


ゆっくりと進み始める『チへ』に歩兵も合わせて付いてくる。ルソン平原の至る所で響いていた戦闘音もすっかり聞こえなくなっていた。


「俺達以外全滅したか……?」

「かもしれないですねぇ……」

「にしては静かすぎますよ?」


警戒しながらも少し小高い丘に達する。車長はキュウポラを開けて外を確認する。 

少しして目を擦り双眼鏡を覗く。


「は、ははっ…………ははっ!ははははっ!!」


車長が目にしたのは




吹き飛んだ輸送船たちの残骸、そしているはずであった敵海軍がそっくりいなくなっていた。


「勝ったぞ!俺達は勝ったんだぁ!」










日本海軍連合艦隊は、第一機動艦隊の第一波がリンガエン湾一帯を攻撃。戦艦大和、武蔵を中核とした突入艦隊は敵護衛艦隊と交戦、これを撃破。そのまま輸送船団を叩くために南下。

ハルゼー艦隊を誘い出した囮である第二機動艦隊は、空母葛城、隼鷹、瑞鳳、千歳、千代田を中心に輪形陣を組みながらハルゼー艦隊に向けて前進。航空隊を発艦させる。

ハルゼー艦隊はこれを撃破すべく全力攻撃。

第一機動艦隊、第二波をハルゼー艦隊に差し向ける。

一連の海戦で連合艦隊は、戦艦扶桑、山城、金剛、陸奥が沈没。空母大鳳、翔鶴、雲龍、葛城、瑞鳳、千歳、千代田が沈没。航空隊の大半を失う。

第101戦車旅団、第二戦車師団、機甲戦力の大半を失い壊滅し撤退。第26師団、第8師団、第1師団半数以上の兵力を失い撤退。

米海軍は、戦艦ミシシッピ、メリーランド、ウェストバージニア、ペンシルベニア、テネシー、カリフォルニア、ワシントンが沈没。

空母エセックス、バンカー・ヒル、フランクリン、ハンコック、エンタープライズ、プリンストン、ガンビア・ベイ、セント・ロー、サンガモン、ファンショウ・ベイ、カリニン・ベイが沈没。航空隊も甚大な被害を受ける。

そして上陸輸送艦隊の半数以上が沈没または損傷する。

米陸軍、二万人以上が戦死。五万人以上が戦傷または行方不明、司令部壊滅。一夜にして上陸軍の指揮系統が消滅し兵力の半数近くを失う。



このルソン決戦終了後、大日本帝国は中立国を通じて米国に条件付き講話を申し出る。国体護持を条件に、大陸からの撤退、仏印からの撤退、朝鮮半島の放棄、現政権の解散など実行。


1945年

昭和20年4月1日

日米講話が成立する。


このルソン決戦において二式中戦車『チへ』は自身の能力を存分に発揮し、仮想敵であるM4中戦車シャーマンを多数撃破。戦中日本戦車として最良な戦車として評価される。

必要なときに必要なだけ揃えれたのは日本の国力であれば奇跡と言うべきタイミングであり、何か一つでもボタンを掛け違っていたら起こり得なかっただろう。

陸海軍が協力一致し全将兵が死力を尽くした結果掴み取った勝利であり、そして陸の主役は二式中戦車『チへ』で間違いないだろう。敵戦車を撃破し、砲弾を物ともせぬその姿にどれだけ歩兵達が勇気づけられたか、そして敵にはどれだけの絶望を与えたのかは計り知れない。

二式中戦車『チへ』以降の戦車達は『チへ』を元にまたは意識して作られていく。日本戦車の中興の祖であり、その血統は戦後の『日本帝国国防軍』の戦車達に続いている。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

ご意見ご感想首を長くしてお待ちしています。励みになるので。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 御参加ありがとうございます。胸熱な戦闘シーンを楽しませていただきました。 [一言] 実際の日本軍は堪え性がなかったり、あるいは情報収集の杜撰さで、無駄に戦力を喪い、いざ決戦と言う時に戦力不…
[良い点] チヘ長々良い車両ですね [一言] 更新お疲れ様です 動画サイトで戦車里帰りしたのあるみたいですね。 引退したワールドタンクでオイ車使ってみましたら…… ロマンはロマンでした
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