1話 一回目の過去渡り
月が爛々と地上を照らす夜、アミスター国の貴族のうちの一つであるクラウン家で私、サンドラはベットに寝転がっていた。
「ねえ、フィン。私の将来の夢がなんだか知ってる?」
私は自分の直属の部下であるフィンに話しかけた。
白い髪に赤い目。シワの一つもない服に血管の浮き出る腕。そして長時間立っていても全く揺れることのない体。
それらは全て、彼が只者でない証拠として存在していた。
フィンと呼ばれた青年は、少し顎に手を当て考える仕草をし、そして「存じ上げません」と答えた。
「そりゃそうよね、恥ずかしくて今まで言ったことなかったもの」
「と、いいますと?」
フィンは興味津々で私の次の言葉を待っている。隠そうとはしているが目が輝いているのがバレバレだ。
「私はね、歴史に名を残したいのよ。なんでもいいってわけじゃなくて、あくまで人々に貢献した人間としてね」
「なるほど、立派な夢ではないですか。何故恥ずかしいのですか?」
「いや、子供っぽいかなとね」
歴史に名を残すなんてこと、多くの子供が一度は考え、そして諦めただろう。
「僕は好きですよ、そういう夢。自分のためとはいえ、誰かの役に立つわけですから」
「ならいいんだけどね」
私はため息をつく。この横にいる男も、他ならない私の勝手な夢で助けた男だ。そんな彼が反対するわけがなかった。
「ですが、そのためにはまず害虫潰しが必要です。具体的に言うと、サンドラお嬢様を殺そうとしている者達ですね」
「そうね。今怪しいのはティナとローだけど、証拠がないから何もできないわね」
私はこの前、暗殺者に襲われた。その時はフィンが瞬時に暗殺者を仕留めてくれたが、それが毎回できるとは限らない。
だから暗殺を依頼した人間を見つけ、証拠を突き出し然るべき報いを受けさせる。というのが私達の作戦だ。
そこで容疑者に上がったのがティナとローの二人だ。クラウン家には三人姉妹がいて、そのうちの長女が私。故に父が亡くなった場合、私が父の爵位である伯爵を継ぐことになっている。
しかし、私も死んでしまえば話は別だ。ティナは三女、ローは私の従兄弟だが、次女のスカーレットは既に家出して冒険者なるものをやっている。だから私を殺せば彼らにもチャンスが回ってくる。
「さて、それでは――伏せろ!」
突然フィンが叫んだかと思うと、私はフィンによって伏せられた。そしていきなり大爆発が起き、私は壁に激突した。
「フィン!」
私の頭上には、フィンが横たわっていた。頭から血を流していて、もう助かりそうにない。
「クソッよくもフィンを!! こうなったら……タイムワープ!」
私が呪文を唱えると、世界はあっという間に消える。そしてしばらくの静寂の後、私は数十分前の世界に戻っていた。