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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王妃になりたかった侍女

作者: 木津川 結

 あなた、王妃になりたいのですってね。

 隠さなくてもいいのよ。あなたの目を見ればわかるわ。あのころのわたしと同じ目をしているもの。

 考えてみれば、今の王家もあの時と同じ境遇にあるわけね。王と王妃の間に男児はおらず、年を重ねた王妃にもう懐妊は望めない。そんな時にあなたは王妃の侍女として宮廷にやってきた。

 あなたはこう思っているのでしょう。自分はまだ若く、美しい。年をとった王妃ではなく、自分なら王に愛され、嫡男を産んで差し上げることができる。

 はぐらかす必要はないわ。わたしもそう思っていたもの。

 だからこそ、あなたもわたしを訪ねて来たのでしょう。同じように王妃の侍女から王の愛人となり、やがて王妃の座を奪って嫡男を産んだわたしのもとへ。

 わたしがどうやって王妃になったのか知りたいと言うのね?

 ええ、もちろん話してあげるわ。わたしの話はきっとあなたの役に立つでしょうから。


 わたしが宮廷にやってきたのは、あなたと同じ年ごろの、美しい盛りだった。これもあなたと同じで、王妃の侍女として宮廷に上がることになったの。

 王妃さまはお美しい方だったわ。中年にさしかかっていたけれど、お若いころの高雅な美貌を偲ばせるお姿だった。

 お美しいだけではなくて、聡明で、お優しくて。王とも仲睦まじく、心から信頼しあっていた。おふたりは完璧なご夫婦だったのよ。嫡男に恵まれないことを除いては。

 わたしが自分から王に近づいたことを否定するつもりはないわ。宮廷に上がることは父の望みだったけれど、背が高く快活な王にわたしは確かに魅力を感じていた。それに、あなたと同じように自惚れていたのよ。若い自分なら嫡男を産んで差し上げられるとね。

 身ごもっていることがわかった時、わたしは真っ先に王妃さまにそれを打ち明けた。王でもなく、父でもなく。

 王妃さまは喜んでくださったわ。まるでご自分のことのように、目に涙を浮かべて、微笑んで。そしてこう仰ったの。あなたがわたしを救ってくれるのね、と。

 それからは目まぐるしい速さで物事が進んだわ。王妃さまは離婚後に地方に隠棲なさり、わたしは王と結婚して空いた王妃の座につくことになった。愛人の子には王位を継がせることはできないものね。生まれてくる息子のために、王はわたしを妻にしなければならなかったの。

 息子が生まれることを疑う者はいなかった。わたしの母も姉も多産だったし、産んだ子のほとんどが健康に育って成人していた。結婚の時にわたしの腹にいたのが女の子でも、いずれは健康な息子が生まれるに違いないとね。

 ええ、そう。わたしの最初の子は女の子だったのよ。知らなかったかしら。

 生まれて十日で天に召されてしまった、わたしのかわいい娘。

 小さな柩にすがって泣くわたしを、夫は優しく慰めてくれたのよ。離婚した妻も何度も幼子を亡くしたけれど、すぐに次の子を授かったのだと。

 そう、前の王妃さまも、ご懐妊は何度もされていたの。どのお子も赤子のうちに亡くなったり、それより前に流れてしまったりしたけれど。

 夫の言葉どおり、わたしはすぐに次の子を授かったわ。娘の死を受け入れる間もないほど、すぐに。

 わたしは悲しみがいずれ消え去ることを信じていた。新たに生まれてくる子が男児で、健康に育ってくれれば、何もかもうまくいくはずだと。

 毎日、毎日、自分の腹に語りかけ、まだ見ぬ息子に求めたわ。早く生まれてきてほしい、母を安心させてほしいと。

 その願いが効きすぎたのかしら。ふたりめの子は月足らずで生まれてきて、一度も産声を上げることはなかった。そして、最初の子と同じく、女の子だった。

 夫は長女の時のようにわたしを慰めてくれなかった。それどころか、次女の死を悲しんでいる様子さえ見せなかった。この世に出てきた時から息をしていなかった娘は、自分の子ではないとでも言うように。

 そのかわり、わたしの寝室には頻繁に足を運ぶようになったわ。わたしの体が全快したと医師たちが認めてもいないうちに。

 十年以上も連れ添った前妻を離縁してまで迎えた新たな妻ですもの。嫡男を儲けなければ、すべてが徒労に終わってしまう。そんな夫の焦りがわたしの上にのしかかってくるようだった。

 焦っていたのはわたしも同じだったの。前の王妃さまは、嫡男を産めなかったばかりにその座を奪われ、宮廷から追いやられた。わたしよりもはるかに高貴な生まれで、人の上に立つ資質があり、長年の結婚生活で王との信頼を築いていても、そうなったのだもの。脆弱な後ろ盾しか持たないわたしは、同じように平穏な余生を送らせてもらえるかすらわからない。

 三番目の子が性別もわからないうちに流れてしまった時、わたしにはもう、我が子の死を悲しむ気力は残っていなかった。

 その時になって思い出したの。わたしが最初の妊娠を告げた時、王妃さまが口にした言葉を。

 あなたがわたしを救ってくれるのね。

 その言葉どおり、わたしが王妃さまをお救いしたのよ。夫のために男児を産むという務めから、それが果たせなかったために誹謗される苦しみから。

 けれど、わたしを救ってくれる者はついに現れなかった。

 わたしが息子を産んだのは結婚から七年後のことよ。それが今の王。あなたが仕えている王妃の夫。


 さあ、わたしの話は、あなたの役に立ちそうかしら。

 あなたの気が変わったとしても。わたしは失望したりしないわ。幸いにも夫と違って、息子には王女がひとりいるのだし。わたしは孫娘が女王になることになんの不満も持っていないの。

 それでも、あなたがどうしても初志を貫きたいのなら、どうぞ、思いのままにやり遂げればいいわ。

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