Day.8 大雨洪水警報
……一度、シエルさんのところへ戻ろう。
今の私は、これから先どうしていいのかもわからない……。
闇雲に一ヶ月を過ごしても、きっと無駄な時間になってしまうだろう。
シエルさんにしか見えないのだから、私の居場所は、シエルさんの家くらいしか……ないようなものだ。
「しかし、どうやって行くんだ……」
歩いてすぐとは言われたものの、どこへ進めば辿り着くのかは聞いていなかった。
どう……しましょう。
「まぁ……己の勘で行くか」
Day.8 大雨洪水警報
また神ちゃんに連れて行ってもらおうかと企んだものの、さすがに何度もお世話になるのは……と思い。
記憶を頼りに、慣れないヒールで歩いている。
「神ちゃんみたいに翼があればいいのに……」
用が済んだらすぐにお昼寝タイムに入ってしまう神ちゃんは、いつも寝床を確保するために、大きな翼で場所探しをしているらしい。
こうやって歩いていると、心の底から羨ましくなる性能である。
「まーとりあえずこっちに進んでみよう」
とかなんとか……気合で歩いているうちに、結局迷ってしまった……。
「……あ、雨降ってきちゃった」
さっきまでは眩しい太陽に照らされていたのに、急に空を雲が覆い……雨。
「ん? あれれ……??」
全身濡れる事になるだろうと思っていたら、なぜか自分の周りだけ水を弾いている。
「……私が幽体だからかな」
よくわからなかったけれど、濡れなくて済むならばそれでいい、と思った。
神ちゃんも来ないし、シエルさんの家も見つからないし……。
雷が目の前に落ちてきたり、風に吹き飛ばされそうになったりしていると、見覚えのある少女が現れた。
「リーナさんだ」
星座が描かれている藍色の傘を差したリーナさんは、右手に薔薇の蕾を握っていた。
……白薔薇の、蕾。
「シエル……いるんだったら、聞いて?」
大雨で声がかき消される中、リーナさんは薔薇を握る力を強めている。
「花言葉、調べた……リーナ達は、好き同士にはなれないの? シエルは、リーナと結ばれたくない……?」
「……いつでも待ってるから! リーナは……ずっと待ち続けるから」
その言葉だけを残して、リーナさんは家の中へと戻ってしまった。
その手には、白薔薇を握りしめたままだ。
リーナさんを慰めてあげたくても、私はリーナさんからは見えない。
私はリーナさんを知っているのに、彼女は私を知らない……。
これじゃあ、まるでストーカーみたいな……。
「ありゃ、また最初の公園」
適当にほっつき歩いていたら、いつの間にか最初の公園に着いてしまった。
……という事は、ここから歩いていけばシエルさんの家はすぐそこ……?
「でも疲れた。寝よ」
幽体なのに、疲れるという概念はあるんだなぁ……。
真っ当な青春を送っている少女を見て、自分は本当に何をしているんだ……と思った。
死んだと思ったら幽体離脱、変な神様に絡まれ、歩いた先には大豪邸……。
最初から仕組まれていたかのようなテンポの良さに、私は笑ってしまった。
どちらかと言うと、呆れ笑い。
そうこう考えている内に、眠りについてしまっていた。
始めに神ちゃんと会ったのは、この公園のベンチ。
まさに今、そのベンチで爆睡しているのであった。
「……幽体って、風邪引かないのかな……」
『うちも知らない……晴れたし平気なんじゃない? んじゃ、後よろしく』
「……は?? ……裏切り者め」
な、なんか……知ってる声がする。
正直言って目を開けたくはない。
逃げていいのであれば全速力でどこか遠くへ逃げたい。
……完全に無防備すぎるダラしない姿を……見られ……た……。
それもシエルさんに……。
『……うちはいいんかいな!』
「え? 何??」
『なんでもない。お昼寝してくるっ』
そうだった。
あの神様、心読めるんだったわ。
あぁもう……タイミングが合わなさすぎるんだよ……。
「意外と起きない……」
違うんです……タイミングが掴めないだけなんです。
「……久しぶりに外出たなぁ。太陽ってこんなに眩しかったっけ」
「フロースさんとお散歩でも出来たらよかったんだけど……」
「はい喜んで!!!!!!!!」
「おはよう、フロースさん」
「おはようございます!!!!!!」
もうこれが私のベストタイミングだぁぁぁ!!!
……シエルさんって冷静沈着なところあるんだな。
「久々に会ったね。元気だった? 幽体離脱の事でわかった事とかあった? ていうか今まで何してたの? どこ行ってたの? 誰か他に見える人とかいた? それともティールに何か言われて誰かに白い薔薇の蕾を渡しに行ってたりとかしてた? してないか」
「……質問ラッシュは有難いんですけど、見えてたのは神ちゃんしかいません。後半は大体合ってます」
「ティールだけか……もう見飽きたよね」
「はい」
『はぁ〜〜〜!?!?!?!?』
「……どこかから叫び声が聞こえるね」
「聞こえますね」