Day.6 初めてのお届け係
「……子猫ちゃん、もう怖くないからね」
「リーナが、お母さんのところに返してあげるよ」
『リーナ? また勝手な事して! あなたは王女なのよ!?』
「はーい…………ごめんね、子猫ちゃん」
Day.6 初めてのお届け係
『なんか暗くなっちゃったから、この話終わり! 早く届けに行っといで〜!』
「あぁ……はいはい」
『…………全く、シエルくんは邪魔しかしないんだから』
『白薔薇の蕾の花言葉は……''to young for love''』
『……シエルくんって、何歳なんだろ……』
神ちゃんに頼まれて、病院に来た時と同じようにその場所まで送り届けられた。
着いた場所はと言うと、自然豊かな環境地にある、ログハウスだった。
「わお……立派なログハウス」
周辺の自然達は光によく照らされていて、瑞々しい。
その自然に囲まれた場所に、リーナさんの家が……。
「待って待って待って……本人登場早すぎる」
ログハウスの玄関から出てきた人物は、きっと……リーナさんなのだろう。
ふんわりとカールがかったミディアムヘアは、明るめのブラウンに染まっている。
綺麗に切り揃えられた前髪に、ギンガムチェック柄のカチューシャ。
どこからどう見ても普通の女の子感は……ないような。
でも、唯一普通の女の子だと思わせるのは、その服装。
デニムのショートパンツに、黒のロゴが入っている白い半袖ティーシャツ、靴はフリルが付いたサンダル……。
結構ラフな格好をしているな……と。
それでも、私から見たら普通の女の子とは程遠いくらいに、輝いて見えていた。
「……ていうか、どうやって渡せばいいんだ?」
……渡す方法、全く思いつかない。
玄関先に……置いておくとか? いやそれはまずいか?
「リーナさぁぁん……」
勇気がなさ過ぎてか弱い声しか出なかっ
た。
……どうせ聞こえないのに。
勢いで、リーナさんの近くに添えておこう。
そして勢いで帰ろう……。
「……はぁ……何に疲れてるんだ、私」
『フロースちゃんって、人と関わるの苦手なの?』
「……なんでいるんですか」
『敬語……だって、一人じゃ元の場所に帰れないでしょ』
「まぁ、そうなんだけど……」
『薔薇を届けるのにも一苦労! って感じねぇ……リーナちゃんは、純粋な子だから大丈夫だって』
「神ちゃんって……なんでも知ってる」
『そりゃあ、一応地域の守護神的なのやってるから』
「一応ね」
『そう。一応』
神ちゃんとたわいもない話をしていると、リーナさんが白い薔薇に気づいた。
両手で子猫を抱き上げて、そのまま薔薇に近づいていく。
「……薔薇? の、蕾??」
子猫を地面に下ろし、蕾を手にしたリーナさんは、とたんに柔らかな笑顔を見せる。
「……シエルかな。ありがとう」
……この二人、もう既に両思いなんだろうなぁ。
どうして、それなのに会えないのだろう。
両思いなのに、お互いが疎遠し合っている関係だなんて…
私には、薔薇を届けることしかできない。
「なんて無力なんだろうか……」
『薔薇を届けられるだけ、いいと思いなよ』
『……シエルくんは、彼女に薔薇を届けることすら、許されないんだから』
マロン・フロース、妹の様子を見にきました。
私が事故に遭った後、どうやら祖父母の家に行っていたようで……。
心配していた事が全て白紙になったかのように、妹のサニーは元気そうだったけど。
「なんだよ元気じゃん……」
『え、あれ妹ちゃん? ぜんっぜん似てないねキミ達』
「うん。親違うし」
『あ……なんかごめん』
「大丈夫。謝られる方が気の毒かも」
『……でも、寂しそうだよ。あの笑顔は、お爺ちゃんとお婆ちゃんに会えたからであって、フロースちゃんがいない生活に変わりはないんだよ』
「わからないけど、少し身構えてた。予想は、もっと泣き喚いてるかと……」
『フロースちゃんの中の妹像はどうなってるの……それに、歳近そうだね』
「一つしか離れてない。ほとんど同い年だし、同級生っぽい感じ」
『なんかさ……シエルくんとかリーナちゃんの生活見てると、こっちが……』
「貧相に見えるよね」
『すんごいハッキリ言うじゃん!』
「……だって事実だから」
サニーと祖父母が笑い合っているのを見て、少し安心したし、二人で暮らしていた時のような空気が流れていたのも、どこか嬉しかった。
早く……あの場所に混ざれるといいな。
「そういえば、私ってご飯とか食べなくて平気なの?」
『お腹空かないでしょ。幽体だけ動いてるから、まず食べられないと思うん。だから、眠くなったり、お花畑に行きたくなる事もないのよ〜』
「……自由を感じた」
『でしょ。そろそろシエルくんのところに戻ったら? きっと一人で、する事ないんじゃないかな』
「……そう、だけど……」