Day.4 見えないけどね
「私……そろそろ帰りますね」
「え、帰る場所……あるの?」
「……な、ないですけど」
「ないんだったら、ここにいてよ」
「……いいんですか」
「いいよ?」
「……好きな人いるのに?」
「……ごめんちょっと考えさせて」
「……あ、はい」
Day.4 見えないけどね
シエルさんは、両手で頭を抱えたまま……十分ほどの時がたった。
いつもなら、十分など一瞬に感じるのに、何もしていないとなると、すごく長い。
私は、ただただ悩むシエルさんを見守っていた。
「……うん」
「ど……うしました?」
「ボクには、幽体離脱をしている女の子を見逃すことなんて出来ない……」
「えっ」
「というわけで、フロースさんの家は今日からここです」
「……えっっ」
「……ボクは思ったんだよ。先に好きな人のことを詳しく話しておけば、後でどうにでもなるでしょ!?」
「あ、後でどうにでもなる……とは」
「それは……煮るなり焼くなり食うなり?」
「……そんな、見ざる聞かざる言わざるみたいな」
「まぁ、そんな感じ……だから、今から好きな人の話をします」
「わかりました……」
正直言って、シエルさんの言っている意味が良くわからなかったが。
こういう時は、流れに身を任せるが勝ち……。
「ボクの好きな人は、ララヤ地域の王女様なんだ。リーナって言うんだけど、この前言ったみたいに、本当に普通の女の子で……」
「……王女様なんですか……まじですか……」
「ボクと似てると思わない? 王女様だけど、普通の女の子と同じ生活をしてる」
「普通の女の子って言っても、舞踏会的なのあるんじゃないんですか?」
「リーナは、パーティーは苦手だから……女王様の跡を継いだら表に出るらしいけど、それまでは遠慮してるみたい」
「……確かに、シエルさんと似てますね」
「でしょ? 出会ったのは、リーナがパーティーで紹介された時にボクがこっそり話しかけたからなんだけど……」
「あれ? お母様は……」
「リーナがずっと俯いていたから、ボクと同じなのかな……って思って。母の隙を見計らって、話しかけたっていうか、手紙を渡した」
「……なんですかそのロマンチックな展開は」
「……ロマンチック? 手紙渡しただけなのに?」
「私とシエルさんの世界線は違うんですね……わかってますよそんなの」
乙女心とか通用しない世界なんだなここは……そういうことにしておこう。
「やっぱり……共通するところがあったからなのかな、好きになっちゃって」
「でも、リーナとは直接話したことないんだ」
「……ないんですか!?」
「母がいるから会えないし、手紙でやりとりするくらいで……」
「もうそれって……一目惚れじゃないですかぁ!」
「ひ、一目惚れ……?」
「そのまんまですよ! 一目見て惚れちゃったんですよシエルさんは」
「……リーナの声、聞いてみたい」
「また、お母様の隙を見計らって……会いに行けないんですか?」
「……そうしたいけど、母を裏切りたくもない。だから、ボクが待つしかない……」
これが、王族の儚い恋愛なのだろうか……。
事故に遭う前の私は、恋愛をしていなければ特別な人間なわけでもない。
話している事はこの前と同じなのに、今回の方が……さらに、悲しそうだった。
王子様が、王女様に会えなくて寂しい思いをするなんて。
絵本の中でしか成り立たないような話だけれど、言うなれば恋愛をしている人々は、みんな同じようなものなのかもしれない。
一緒にいても、寂しくなる時はある。
離れていたら、もっと寂しく思う。
シエルさんとリーナさんは、会いたくても会えない関係の上で成り立っている……。
「大丈夫ですよ」
「……ん?」
「シエルさん以外には見えない私なんかと比べてみたら、お互いに存在を認知している時点で……大丈夫です」
「……ボクとフロースさんは、お互いに見えてるよね?」
「ま、まぁ……そうですけども」
「他の人には見えなくても……ボクには見えるんだから、フロースさんとボクだって、認知し合ってるよ」
「……はい」
……それでも、シエルさん以外の人間には、見えないんだけどね。
『フロースちゃ〜ん』
「……あれ? またこの公園?」
『お目覚めですかフロース様!!』
「あ、神ちゃんだ」
『ごめんね、急に公園まで戻しちゃって』
「……いや、本当にそうよ。なんで急に」
『今日は、ちょっとした注意喚起をしようかなと思って!』
「なんでしょうか……」
『簡潔に言うと、あんまり外部の人間と関わらない方がいいよん?』
「シエルさんの事? ……シエルさんしか見える人いないんだけど」
『関わりすぎた暁には、フロースちゃんが幽体離脱から離脱出来なくなる……かも?』
「離脱から離脱……と言われましても」
『……離脱出来なくなるのは多分ないと思うけど、シエルくんからフロースちゃんが見えなくなるのは、あり得るよ』
「見えなくなる……」
『まっ、くれぐれも関わりすぎないように!』