Day.3 薔薇の花言葉は
『……平民さんねぇ』
『シエルくんは……なんて事してくれるんだか』
『マロン・フロース、十八歳……ネミ地域で妹と二人暮らしと……ブロンドヘアにブルーの瞳に背は普通……』
『幽体離脱の手助けなんて、簡単にするもんじゃないねーん……』
Day.3 薔薇の花言葉は
「家までの道に咲いてた、薔薇って見た?」
「あ、見ました……綺麗な赤色の、薔薇」
「あの薔薇の花言葉はね、あなたを愛しています……って意味なんだって」
「……へぇ……大切な人に、贈りたい花言葉ですね」
「そう! そうなんだよ。母が、ボクを産んだ時に、赤い薔薇を植えたいって言ったらしいんだよね……」
「すごく、いいお母様なんですね……」
「……そうかな。ボクは外に出てみたいよ? 誰かに憑依すれば、外に出られるとも考えたし。愛してるって、言ってくれるのは嬉しいけど……重いよね、愛の度合いがさ」
「愛の……度合いですか」
「愛してるって伝えるのは、毎日じゃなくてもいい。たまに言うからこそ、愛って感じられるんじゃないかな……」
「……深い事言いますね」
「それ以前にさ、愛してるって言わなくてもわかる関係にならないと……だめだよね」
「まぁ確かに……伝えなくてもわかるのが、理想な気がします」
「…………ボクの母は、本当にボクを愛してるのかなぁ、なんて」
まだ会ってから数時間しか経っていないというのに、どうしてこんなにも素性を明かしてくれるのか……。
本物の愛なんて、簡単に語ることが出来る。
素直に愛していると伝えれば、その言葉は相手にきちんと届くし、何かを介してでも、愛を伝えることは出来る。
シエルさんは……本物の愛を知らないかのように、ずっと話をしていた。
でも、その本物を知ってしまったら、関係が終わってしまう気がして……それは、まるで純粋な恋愛でもしているのかと、思わせるほどだった。
……いや、本当に恋愛してたりして?
「シエルさん、好きな人いますか」
「……え、告白??」
「いや、違いますけど」
ハッキリと言い過ぎたのか、シエルさんは目に見えて落ち込み始める。
「あぁぁすいません、別に嫌いなわけじゃ……だって会ったばかりですし!」
「そ、そうだよね……運命の出会いを果たしたばっかりだもんね……」
……私は思った。
この人、キャラが濃過ぎて追いつけない。
特殊すぎる趣味を兼ね揃えていたり、急に愛を語り始めたり……運命を感じ始めたり。
いいんだけど……悪くない気はするけど……先走りすぎなのでは……?
「……好きな人はね、いるのかもしれないよ」
「……まじですか」
「でも、もう会えない。この家から出られないのも一つの理由だし……それに」
「それに?」
「……なんでもない」
「……好きな人、どんな人か聞いてもいいですか?」
「うん。この地域に住んでる、普通の女の子なんだけど……物静かで、頭が良くて……あんまり、人に心を開かないんだ」
「……でも、動物が大好きでね? 迷っていた子猫を親元に返してあげたり、雨に濡れてるヒナをかくまってあげたり……」
「好きなことには、とことん手を尽くす子なんだよ」
「……ララヤ地域に住んでるってことは、会おうと思えば会えるんですよ……ね?」
「あの子は会えるよ。だけど、ボクが会えない。母は、管理が厳しいから」
「……私が、その方に伝えに行きましょうか? 手紙とか……届けに行けますよ」
「幽体離脱の状態でも、物には触れるの?」
「はい。……まぁ、試したことはないんですけど、ララヤ地域の神様が、言っていたので」
「……ティールのことかな?」
「て、ティール? 初めて知りました……」
「ティール神は、ララヤ地域の守り神なんだよ。大きな翼が生えていて、温厚な性格をしている。そう言い伝えられてるよ」
温厚な性格……まぁ、言われればそうか。
なんかちょっと……お気楽過ぎるノリの良さを感じたけど。
「フロースさんは、ティール神と話したの? すごいね」
「はい……目が覚めた時には幽体離脱してて、神様に『あなたは死にました』って軽いジョークを……」
「温厚な性格って……そういう感じか」
「ですよね。そう思いますよね」
『……っ……はっくしょぉぉい!!!!』
『誰かに……噂話をされている気が……しないでもない』
『あーーーぁ、選手交代まであと二十九日ぐらいかー……時が過ぎるのは早いもんだ』
『……神様って、そんなターン制みたいな感じでいいの……??』
『温厚な性格の神様見つけるなんて、簡単なことじゃないんだからねぇーー!!』
『うちは地域神は辞めても守り神は辞めませーーーんっ!』
『……シエルくんのばーーーーか!!!』
「……っっくしょい!!!」
「か、風邪ですか……?」
「わかんない……時期的に花粉症かな……それとも、誰かに噂されてたかな……」
「……お大事に」