Day.16 薔薇とラベンダー
『プラヴダ〜! 遊びに来たよん』
『ティールっちじゃない! 教会のお仕事は終わったの? 大変よね』
『丁度終わったから、会いに行こうかなって思ってさっ』
『そういえば、さっきマロンヌに会ったわ。ネミ地域に住んでいるらしいのだけど、あたしは知らなかったのよね……』
『フロースちゃん、シエルくんが忘れ物を取りに行ってる間に来ちゃったのかな? というか、どうやってここまで辿り着いたのか……』
『幽体だから通り抜けられちゃったみたいね。少しお話したんだけれど、シエルと顔見知りだったのは驚いたわ』
『あぁ……シエルくんねぇ』
Day.16 薔薇とラベンダー
『ティールっちはシエルと仲が良かったじゃない? だからあり得るとは思っていたけれど、一緒に行動する仲だとは……』
『うちも予想外だった……何も仕掛けてないし、誘導したわけでもないの』
『……一応、シエルとマロンヌは繋がっている、という感じなのかしらね……?』
『うーん。うちとは繋がってるけど、シエルくんはまだ面接待ちだったからなぁ……まぁ、無事に合格したみたいだけど』
『良かったじゃない! マロンヌには、言っていないの?』
『何も伝えてない……ただ成り行きで、フロースちゃんとシエルくんが仲良くしているなら、そのままがいいのかなって……』
『そうねぇ……難しいところって感じ。でもきっと、いつかは知る事になるじゃない』
『……フロースちゃんが肉体に戻る次の日に、就任が決まってて。本当に最悪なタイミングだと思ったり思わなかったり』
『じゃあ、マロンヌが知らない間にシエルと交代するって事ね……確かに複雑な気もするわ』
『うちは守護神を辞める気はないの。だけど、結局思い通りにはいかないし……もうだめだね。うちがもっと計画性を持っていれば良かった……』
『……こういうのは、トゥルーエンドって言うのよ。あたしはプラヴダって名前でしょう? プラヴダの意味はね、真実。真の終わりは、時に幸せをもたらすものよ』
『リーナちゃんは……シエルくんに一生会えないし、フロースちゃんがシエルくんを見る事もなくなる。それが、真実だって言うの……?』
『これは、認めるしかない終わり方。あたし達神様が、簡単に真実を曲げる事なんて出来ないわ……見守るのが、賢明な判断だと思う』
『……ごめんね、シエルくん……フロースちゃん……変えられない、未来は変えられないの……』
『ティールっちが責任を感じる必要はないわ。これが二人の運命であり、成長へと繋がる出来事なのよ』
『……ありがとう。少しだけ、立ち直れた気がする。フロースちゃん達に、泣き顔を見せるわけにはいかないよね』
『ま、自由にしたら? あたしより自由人なんて、いないと思うけれど』
『本当にそうよ! うちが教会で汗水流してる時に、フロースちゃんと話してたなんて……』
『汗水流すって、人間に幸せ分け与えてただけじゃないの! 盛りすぎよ』
『……あの子達にも、幸せを分け与えられたらいいのにね』
『そうね……本当に、そうね……』
『ラベンダー色の薔薇はあるのに、薔薇色のラベンダーはないのね』
『……薔薇色のラベンダーって、何色になる??』
『さぁ。虹色とか……かしら』
『でも、ラベンダー色の薔薇は、とても
綺麗だと思う。フロースちゃんとシエルくんにお礼もしたいし……』
『二人に何か貰ったの?』
『あ……うちがねだって、母の日のプレゼンを貰った……だけですっ』
『ふーん……楽しそうで何よりだわ! ティールっちが喜ぶなんて、よっぽど素敵だったのかしらね?』
『そうなの!! シエルくんはあんなに嫌そうだったのに、薔薇の本数は十三本にしようとか言っちゃって……照れ隠しが過ぎるよね〜』
『あたしも今度遊びに行こうかしら……最近暇だし、裏通りにいても面白くないのよ』
『申し込み来てないの? 面接に挑む霊体も減って来ちゃったのかなぁ……神の噂なんて、ロクな話ないし』
『ぜーんぜんよ! 平和な生活を送りたいとか言って、神様になるのは拒む人が多いわ。死神なら楽しそうとか、噂に流されすぎよ!!』
『……死神界は役割が決まってるもんね。地域ごとに振り分けられて終わりの神と違って、内容が明確にわかるから……人気なのかな』
『ほんっっとにつまらない! 呼び込みでも始めようかしら? 看板持ってその辺飛び回ってれば、何人かは食いつくわよね』
『またそんな事して……怒られてもうちは味方しないからね!』
『えー、それなら辞めておくわ。だったらシエルの家に案内してよ! マロンヌの事、もっと知っておきたいもの』
『……フロースちゃんの期限が終わりかけだから、早くに行かないとね』
『ティールっちはやっぱり、どこかシエルに似てるところあるわねぇ……』