むかしむかし
むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんはむかしむかしのそのまたむかしから、ずっとお爺さんでした。
お婆さんもまた、むかしむかしのそのまたむかしから、ずっとお婆さんでした。
お爺さんは今日も山へ芝刈りに行きました。
「今日も芝刈りに行ってくるよ、ばあさん」
お婆さんにそう言うと、ガタガタと戸を開けました。
お婆さんは「行ってらっしゃい、おじいさん。気をつけて」と、お爺さんに言いました。
お爺さんの目の前には、いつもと変わらない長閑な風景が広がっています。
お爺さんとお婆さんの家の周りには誰もいません。誰も住んでいないのです。
「今日もまた、芝刈りか…」
そう呟いて歩きはじめました。その表情は笑っているようにも、泣いているようにも見えます。
お爺さんを見送ったお婆さんは
「今日も川へ洗濯に行かないと…」
そう呟いて、洗濯の準備をはじめました。
その表情は口角だけが上がった、無理やり作った笑顔でした。
お爺さんは昨日芝を刈った場所へ来ました。
そこは、昨日芝を刈ったにも関わらず、昨日と全く同じように芝が生えていました。
お爺さんは、ただ黙々と芝を刈ります。
何のために芝刈りをしているのか、誰のために、目的もなく…
どうして芝刈りをしてるのか、考えることをやめました。
お婆さんは川へ来て洗濯をはじめました。
朝から夕方まで、そう多くない洗濯物を洗っては水につけ、洗っては水につけ…
お婆さんは考えます。貼り付けたような笑顔のまま。
『どうして自分は毎日毎日、洗濯をし続けているのだろう。昔は何をしていたかしら。私とお爺さんに子どもは…他の村の人は…』
何故自分達は、同じような毎日を繰り返しているのか。疑問に思っていることを深く考えようとしました。
しかし、お婆さんが考えはじめると突然お婆さんとお爺さんは真っ白な光に包まれました。
…
むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お爺さんとお婆さんは真っ白な光に包まれたことも、また同じ毎日になっていることに気付いていません。
ただ、頭のどこかで(あぁ…また繰り返しているのか)と分かっています。
しかし、身体は勝手に動きます。
お爺さんは山へ芝刈りに。
お婆さんは川へ洗濯に。
そう、これは昔話の絵本の一ページ。
登場する人物は、そこに書かれていることだけを、繰り返します。
先のページがあることも、お爺さんお婆さんの過去も、自分がどんな世界にいるのかも認識することはできません。
あなたは今、この文章を読んでいます。
昨日も読みませんでしたか?
同じ毎日を繰り返していませんか?
あなたの役割はなんですか?
あなたの次のページは…