4.鳩時計の裏っ側
「1.鳩時計の裏っ側」からの続き物です。
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今日も今日とて12回目の鳩の鳴き声ーーではない声で目が覚めてしまった。外がやけに賑やかだ。
いつもの時間以外に目が覚めることはほとんどないが、こう賑やかではもう一度眠るのも難しいだろう。ぐっと伸びをして、あくびをひとつ。しばし悩んでからチョッキに着替える。
冒険する時間ではないため装備はせずに歯車の隙間を登って鳩のいる部屋へ。
「やぁ、ホワイトレディ。いつもと違う時間にすまないね」
非礼を詫びて扉を開けると、ますます賑やかになった。その正体は、アオ君とミオお嬢さんだ。
「ちくしょう小娘が! こっちに来んじゃねぇ!」
アオ君は牙をむき出しにして威嚇している。よく見れば爪も出しているようだ。ミオお嬢さんを相手になんと無礼な。
「ねー! 一緒に遊ぼうよ!」
「だから! こっちに来んな! 引き裂くぞ!」
手を伸ばすミオお嬢さんに対し、爪を見せつけるアオ君。
「これはいけないね」
アオ君の頭に向かってここから飛び降りることにしよう。
「ん? おやおや?」
しかし、それを実行する前にアオ君が爪を引っ込め逃げた。
「ねぇ! ニャーゴってば、待って!」
「だから! 俺様は遊ばねえって言ってんだろ!」
またしても爪を見せて威嚇するが、ミオお嬢さんとはかなり距離がある。
「なるほどなるほど」
ひとつは納得したが、もうひとつ納得できないことが起こってしまった。やはり降りることにしよう。
アオ君の頭上にダイブすることは止めてカーテンを伝って降りると、ミオお嬢さんとアオ君の間に入り優雅にお辞儀をした。
「やあやあ、お二人ともご機嫌麗しゅう」
二人の反応は真逆だ。顔を輝かせて名前を呼んでくれたミオお嬢さんに対し、アオ君はしかめ面の上に「げ!」などと下品な声を上げてくれた。
「ネズミ野郎何しに来やがった!」
アオ君がくわっと牙を向けてくるが、白いレースがふんだんに使われた襟を首に巻いていて全く迫力がない。
「君たちがあまりにも賑やかだから目が覚めてしまったのだよ。気になることもあって降りてきたんだ」
「気になること?」
ミオお嬢さんが首を傾げる。そんな仕草も愛らしい限りだ。
「アオ君のことでね」
「アオ君?」
ミオお嬢さんは傾げた首をさらに傾げた。
「そこのネコ君。ミオお嬢さんはニャーゴと呼んでいるようだが、僕はアオと呼んでいるんだよ」
「そうなの?!」
ミオお嬢さんの驚いたリアクションをしたが、アオ君はそっぽを向いている。ため息が自然と出た。
「君、名前がちゃんとあるなら先に言いたまえ」
「決まってねぇよ」
「しかし……」
先程ミオお嬢さんがと続けようとしたとこで、アオ君がくわっと牙を剥き出しにした。
「小娘はニャーゴ、小娘の母親はタマ、父親にいたってはパンダだ! もはや別の動物だろうがっ!!」
「なるほど、家族で三者三様の意見が出ているのだな」
「ちなみに俺様はすべて却下した!!」
けっと唾を吐き捨てるアオ君だがしかし。
「僕のアオ、は割とすんなり通ったじゃないか」
「あいつらに比べればマシだったんだよ!」
アオ君の尻尾が飛んでくる。縄跳びのように跳び越える。
「気に入ってくれて嬉しいよ」
「マシだったっつったろ?!」
再び襲い掛かろうとしたところで、ミオお嬢さんにひょいと抱え上げられた。
「こんの! 小娘がぁああ!」
と、激しく叫びながら大人しく腕の中に収まっている。
「ごめんね。ニャーゴはアオって名前が良かったんだね」
「……別に」
それだけ言って黙ってしまったアオ君に二度目のため息がこぼれる。
「ミオお嬢さん、アオ君の瞳を見てごらん」
「瞳?」
ミオお嬢さんは不思議そうにしながらも、アオ君の瞳を覗きこんだ。
「わぁ! 深い青色!」
「綺麗だろう? だから、アオ君と呼ばせてもらっている」
「うん! いい名前!」
ミオお嬢さんは優しくアオ君の背を撫でる。
「これからは、わたしもアオって呼ぶね。パパとママにも言っておくわ」
「……けっ」
アオ君はミオお嬢さんの腕の中でさらに丸くなった。照れ隠しだろう。
事態が治まったせいか、眠気がやってきたようだ。
「さて、僕はもう一度眠るとするよ。今度は起こさないでくれよ」
「うん。おやすみ、チュー」
ミオお嬢さんにお辞儀を返す。
「そして、アオ君」
「んぁ?」
どうやら半分寝ていたようだ。寝ぼけたアオ君もおもしろい。
「君がミオお嬢さんとうまくやっているようで安心したよ。これからも彼女のナイトでいてくれたまえ」
「ハッ! 俺様は俺様のやりたいようにやるだけだ」
かっこよく言うが、ミオお嬢さんの腕の中からは出ようとはしない。それが君の意思ということだな。
今日はいい夢を見られそうだ。
おわり