コント「布団と留学生」
登場人物紹介
斎藤:ツッコミ、日本人
留学生:ボケ
―― 二人で歩きながら、斎藤の家に向かうところ
斎藤「・・・でも、古いよ? それに、少し布団カバーが切れかけてるし」
留学生「大丈夫デス。ていねいにあつかいますから」
斎藤「まあ、この時期寒いからなー」
留学生「そうなんデス。ママが送ったフトンはうすくて寒いデス。日本のフトンあこがれています」
斎藤「なるほどねー。外国の掛布団って薄いって聞くもんな。さて、着いた。ここだよ」
―― 斎藤のアパートに着き、鍵を開けてドアをくぐる
斎藤「散らかってるけど、どうぞ」
留学生「お邪魔いたしマス」
斎藤「ほんとお前、日本語上手だな。あ、ほら、靴脱げよ」
留学生「えっ、ヒトの家でクツをぬぐのですか」
斎藤「なにその言葉の流暢さと文化の無知のアンバランス」
留学生「もしかしてワタシのアパートもクツを脱ぐべきなのでしょうか」
斎藤「・・・靴を脱ぐべきでしょう・・・ま、いいや。こっち、どうぞ」
留学生「おおー、けっこうなおてまえで」
斎藤「どんな茶道だ。ほら、コレ、お前にやる布団」
―― 掛布団に駆け寄る留学生
留学生「うわーお! 素晴らしいデス! ふっかふかですね」
斎藤「まあな。まだ1年しか使ってねえからさ、そんなに悪くないんだけど、ほら、カバーの中でちょっと布が切れかけてるだろ? 中身が出るとやっかいだから捨てようと思ってんだよ」
留学生「これくらいでもったいないデスよ」
斎藤「でもよお、寝相が悪いと知らない間に破けるかもよ?」
留学生「大丈夫デース。ワタシ、いつもキュウの字になって寝ます」
斎藤「9の字ってなんだ! 器用だな。それを言うなら、くの字だろ」
―― おもむろに横になって、胎児のように丸まる留学生
留学生「こうやって寝ることをキュウの字というのではないデスか?」
斎藤「丸まるのかよ! そりゃたしかに、キュウの字だわ。てか、ややこしいな。まあいいや。それでいいなら、それやるから。ちょっとこっちきて、なんか飲もうぜ」
―― 部屋の反対側のちゃぶ台へ留学生を誘導
斎藤「コーラでいいか?」
留学生「ありがとうございます(コーラを開けて飲む)けっこうなおすまいデ」
斎藤「おしいっ! 今だろ、さっきの結構なお点前で、を言うのは」
留学生「まちがえました。日本語難しいデス」
斎藤「ま、それだけ喋れりゃかなりうまいと思うが」
留学生「またまた、ごけんそん」
斎藤「お前が言うな」
留学生「日本人はけんそんを言うとよろこぶと聞きまシタ」
斎藤「その日本語教えたやつ誰だ。謙遜を言うんじゃなくて、謙遜すると良いんだよ」
留学生「ワタシの日本語はまだまだサイトーさんの足元にもおよびまセーン」
斎藤「・・・う、うん。そういうこと。てか、なんか嬉しくない」
留学生「それは、ワタシが女の子にモテモテだからですか?」
斎藤「・・・布団やらん」
留学生「えっ、なぜですか」
斎藤「俺は今、気分を害した」
留学生「なんですか、それ。あっ、そういうときは、きぶんをうちなおしに行くと良いですよ」
斎藤「気分を直すのにどうしろと? 恐ろしいな」
留学生「バッティングセンター知りませんか?」
斎藤「そういう打つか。俺の気分はそんなんじゃ直んないの!」
―― 斎藤、ぷんすか怒っている
留学生「そんなー・・・きぶんをガイすると、大変なんですね。それじゃあ、ワタシもガイしようかと思います」
斎藤「うわ、ちょっと待て、それコーラ、こら!」
留学生「ガラガラガッ、ゲホッゲホ! ゲエエー!」
斎藤「誰がコーラでウガイをしろと言った! うわっ、吐くな! 泣くな!」
留学生「ゲホッお願いですーっ、ゲホッゲホ、ふとん~ゲッ、くださーいっゲエエー」
斎藤「うわ、汚っ、お前-、わかった、わかったから、吐くな! 拭け、これで顔を拭け」
―― 留学生、コーラを口から出したまま笑顔になる
留学生「ありがとうございます。じゃあ、ヒモでしばって持っていきます」
斎藤「おう。そうしてくれ。てか、もう、こっちのほうが大惨事じゃねえか。布団は自分でやれよ」
留学生「ハイ」
―― 留学生、いそいそと布団を丸めて紐で縛る。斎藤はコーラをふき取っている
留学生「わあっ」
斎藤「今度はどうした」
留学生「あああー、中の布がやぶけてしまいました」
斎藤「やっぱりそうか。どうする、やめとくか?」
留学生「いえ、これをイタダキマス。外がわのカバーがありますから、大丈夫です」
斎藤「でもこのままじゃ、中身出てくるよ?」
留学生「大丈夫デース。このまま打ちっぱなしに持っていきマース」
斎藤「おしい! 今だろ、さっきの“打ち直し”を言うところは!」
―― カキーンと金属バットの音。遠い目をする二人
おしまい