絶対に婚約破棄をしてみせます!〜悪役令嬢に、私はなる!
初作品です。ご都合主義で固められた世界です。大目に見てくだしあ
計画とは、大抵上手くいかないものである。
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エアリス王国の公爵令嬢であり、王太子の婚約者であるソフィア・ノーマンには計画があった。
「絶対に婚約破棄をしてみせます!」
それは簡単であり、とはいえ実行するには難しい計画だった。
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私には王太子と婚約破棄したい理由がある訳では無い。顔はいいし頭もいい、優良物件である。しかし、私が求めているのはそうでは無い。私には分かる。彼は社交に出れば思考の読めない、言わば貼り付けたような微笑みを浮かべている。気持ち悪いと言うより気色悪い。私といる時だって表情すら変えずただ笑って私の話を聞くばかり。
私は恋愛結婚をしたいのだ。そして同様に、殿下にも恋愛結婚をして、幸せな家庭を築いてもらいたい。そのためには、この上辺だけの関係をやめて、私が身を引くしかない。そう決めた私はある計画を練り実行した。
「悪役令嬢に、私はなる!」
とある恋愛小説にてこんなものがあった。王子は婚約者を退け身分の壁を超えて幸せな家庭を築き上げた。
ちょうどいいじゃない。
私がこの退けられた婚約者役になればいい。しかしそのためには身分の壁を超えられるほどの愛と相手が必要だ。そこで見つけたのはある男爵令嬢、例の小説に出てきたのも男爵令嬢だった。名前は覚えてないけど、色んな男性に媚びを売っているらしい。
ちょーどいいじゃなーい。(二回目)
この男爵令嬢に殿下を狙わせれば身分差恋愛の出来上がり。最後は舞台。何事にも背景が必要だ。そういえば、私は今年から学園に入学するのだった。
ちょーどいーじゃなーい。(三回目)
例の男爵令嬢も殿下も入学するのだから。しかも最後には卒業パーティがあるから、そこで断罪イベントを起こす。そのためにも、この男爵令嬢を私が適度に陥れ、罪を重ねる。
完璧だわ、完璧すぎて怖い。しかしこれはもはや勝ちも同然。
「そう思わない、クロエ?」
「お嬢様は天才ですね!」
侍女も乗り気ね。
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そこからは奮闘した。髪型は縦巻きドリル、取り巻きを作り従え、学園の頂点にたった。しかし1つ誤算があった。いじめ方だ。そもそも私は王太子妃になるにあたり、様々な教育を受けてきた。しかし、ご婦人からの口攻撃を受け流す教育は受けたが、する側の学習をしていない。とりあえず、男性と無闇にベタベタするなとか、口調が粗雑とか、マナーの先生が言ってたことを言ってみた。これで大丈夫、クロエもそう言ってたもの。
2年になると、様々な噂が飛ぶようになっていた。そして私に届いたのは、王太子殿下はとある男爵令嬢にご執心だということ。直に今の婚約者は降ろされるであろうと。私は飛び跳ねて喜んだ。そしてこの男爵令嬢をいじめ抜いた。
「あら、さすがは底辺の令嬢ね、男の方にベタベタと。娼婦みたいで、穢らわしいわ。」
「ほらみて皆様、あのご令嬢のダンス。さすがは底辺、幼稚園児のお遊戯会みたい。あら、幼稚園児はダメね、園児が可哀想だもの。」
「あのドレス、何年前の流行かしら、古臭さが滲み出てますわ、可哀想。さすがは底辺、買う財がないのかしら。」
私もだいぶ慣れてきて、いびり方が上手くなったと思う。そう言えば、噂では私が男爵令嬢をいじめてるってのもあったわね。なんかドレスを破いただの教科書を捨てられただの、やってないことも増えたがまあ都合が良い。最後、私が断罪される時の罪は多少盛られてた方が好都合だもの。
その間、殿下とは色々な場で会ったが常に隣をキープし、周りを牽制していった。これも悪役令嬢っぽいと思っている。自分からダンスに誘ったり、話しかけたり、男爵令嬢の悪口を言ったり、マナーとしては最悪と、殿下に思い知らせた。
ええ、完璧じゃない?完璧すぎて自分が怖いわ。
「そう思わない、クロエ?」
「お嬢様、天才です!」
さすがクロエ、分かってるわね。
3年生ではもはや私がいじめてることは全校に知れ渡っていた。そして王太子殿下が男爵令嬢にご執心なことも。噂で婚約破棄されるのではと聞いた時には思わず耳を疑った。
最高ね、計画通りだわ。
さすが私、天才すぎてもうあれがやばい。うふふ、これは卒業パーティが楽しみだわ。しかし疑問もある。噂の大半がやってないことであり、しかも流れるのがはやい。調べてみようと思ったが情報源が割出せない。くそう、しかしながら好都合。特に損失も損害もない。私の罪が増えるだけだ。あの男爵令嬢へのいじめはもはや定番だ。ただ、私は痛いのが嫌いで痛めつけるのも嫌いだ、なので口攻撃しか出来ない。まあしょうがない、こればかりは人として。
そしてとうとう、卒業パーティがやってきた。
☆☆☆
卒業パーティ当日、私は赤色の派手なドレスを着ていった。これも悪役令嬢になるためだ。悪役は派手、常識ね。そしていつものように長い金髪の髪を縦巻きドリルにする。侍女たちも慣れたようだ。
「お嬢様はこのクルクルも似合いますが、せっかくの癖のない綺麗な髪がもったいないです!お嬢様ならもっと可愛く美しく出来ますのに!」
「いい?クロエ。これも悪役令嬢になるためなの。悪役令嬢は縦巻きよ。そもそも悪役令嬢があの男爵令嬢より美しく可愛くなっては意味が無いわ。派手に行くのよ派手に。」
クロエったらどうしたのかしら、いつも通りなのに、今日に限って。もう1人の侍女サリーも今日は様子がおかしい。
「お、お嬢様...、サリーは、どうすれば...」
「どうしたの。」
「い、いえ、なんでもないのです。さ、さあ、時間ですよ。」
みんなどうしたのかしら。
☆☆☆
パーティの開催される学園の大広間につく。あらかじめ連絡があり、殿下は今日エスコートが出来ないそうだ。これはあれね?男爵令嬢をエスコートしてるのね?ふふふ、もはやこれは勝ち同然。ついに今までの苦労が実る時が来たわ!
兄のフレディにエスコートされて会場に入ると、途端に周りがザワザワしだす。そして壇上を見上げると、殿下と例の男爵令嬢が立っていた。そして、その隣にいた王太子付きの側近が高らかに発する。
「ソフィア・ノーマン公爵令嬢、そなたと王太子殿下の婚約はこの場を持って破棄する!」
(キタワァ━━━━━━(n'∀')η━━━━━━ !!!!)
ふふふ、勝ち確定!ええ、いいですとも!もちろん破棄してくださいな!しかしここで喜ばないのが天才です。一応理由を伺ってみましょう。もちろん形式上!
「...理由をお伺いしても?」
うふふふふふ、完璧な演技!
「そなたが今殿下の隣にいる男爵令嬢に嫉妬しいじめたと聞いた。既に証言も多く取れている。」
「わ、わたくし...ソフィア様に色々なことをされました...目の前で教科書を破かれたり、文化祭の後夜祭に着ていく予定だったドレスを破かれたり...水やゴミを頭から被されたり...とても怖かったです...、それに取り巻きの方に殴られたり蹴られたりもしました...。」
あら、少々盛りすぎな気もしますがまあ良いでしょう。
「既にそなたが取り巻いていた令嬢からも証言が取れている。」
あら、あのもの達も私を裏切ったのね。
「否定はあるか?」
「...証言の通りでこざいます。そこの小汚いものにしたことと認めましょう。私に対しての罪も甘んじてお受けする所存でこざいます。」
ふふふ、完璧!さあ!はやく!平民への降格を!
「待ちなよ。」
....ん?
静かに声を発したのは王太子殿下だ。
「少々焦る素振りでも見せればいいのに。」
殿下は壇上から私の前に降りてくる。
「...なんのことでございましょう。」
いきなりどうした?この王太子。やっと意中のものと幸せになれるってのに。
「ちなみに聞くけど、あの男爵令嬢の名前を知っている?」
「え...えっと...」
やべぇ知らねぇ。知らねぇよそんなの。興味無いもの。
「知らないの?それはおかしいな。確かあの男爵令嬢によると、自分の名前を使って色々なあだ名を付けられたとか聞いたけど。」
男爵令嬢ぉぉぉぉぉぉぉ!
「あれれぇ?おかしいなぁ?名前も知らないのにあだ名を付けるって、なんか変じゃない?それに他にも違和感があるんだよ。だってさ、」
え...何この展開。
殿下は男爵令嬢の方に向きなおす。
「小汚いとか穢らわしいとか思ってる相手のドレスを破く?触りたくないと思う方が自然じゃない?そもそも財政難の男爵令嬢が自分のドレスを持ってて、しかもそのドレス、見たけど高級品だったよね。」
「え、えっと...あ、あれは!両親からのプレゼントで...」
「へぇ?1着で1ヶ月の食費を賄える程のドレスを?娘にプレゼント?随分太っ腹だねぇ。」
男爵令嬢は額に汗を浮かせている。
ちょっと、なにこれ。
「ねぇ、なんでソフィアの取り巻きが簡単に白状したと思う?」
殿下は私に問いかける。
「...私に思うところがあったのでは?」
「違うね、だって、僕が全員買収したもん。」
は...?
私は思わずぽかんとした。
「いやぁ、結構口が固くてね、彼女たち。仕方ないから強硬手段に出たら、渋々白状してくれたよ。それで聞けた内容にびっくり!」
え、それは、まさか!
とっさに止めなきゃと全神経が告げる。
「待ってください、でんk...」
「なんと、ソフィアのいじめは全て演技だったー!!」
大声で叫んだ。叫びやがった。
取り巻きは知っておいた方がいいと思って言っておいた。ここでそれがかえってくるとは。くそ、しかしまだ終わらない!ここで負けるわけには!
「彼女たちからの信頼ゆえに私を守ろうと嘘をついたのですね。しかし、全ての証言は私の罪を物語っています。彼女たちだけの発言では覆すことは不可能でしょう。」
ふふふ、その通りのはずです!
「そう言うと思って、全生徒に聞き込みしたんだ。」
は?
「ソフィアがゴミや水をかけた所を誰も見ていないんだよね。教科書を破った所も、ドレスを破った所も、殴ったり蹴ったりした所も。」
「...もちろん見られないように人目のつかないところでしましたから。」
完璧な回答だと思った。
...しかし、殿下は罠にはめたようにニヤリと顔を歪ませた。そして、この発言を私は後悔することになる。
「あれ?これもおかしいなー?おい、アレン。男爵令嬢の証言を聞かせろ。」
「はい、殿下。」
あの側近の男が紙を持ち、それを読み始めた。
「教科書を破られたり、ドレスを破られたりは全て、人目につくようなところで行われた。」
...人目につくような?
「矛盾してるね!」
殿下は嬉嬉として言った。
私は徐々に焦ってきた。
ねえ、男爵令嬢。馬鹿すぎじゃない?
「全校生徒の証言と、取り巻きの証言を合わせて考えても、ソフィアが男爵令嬢を肉体的にいじめていたというのは不自然だ。ね、みんなもそう思うでしょ?」
殿下は周りの生徒の方を見た。
「確かに、これだけ聞くとあの男爵令嬢の勘違いに見えるな。」
「ていうか、そもそもパーティでソフィア様があの男爵令嬢に言ってたマナーに関することって正しいことよね。」
「あの男爵令嬢って男子に媚び売ってるって話でしょ?」
「きゃー、穢らわしいこと。」
これはまずい。流れが完全に逆だ。
「違います!私は本当にソフィア様にいじめられました!人目につくようなところでって言うのは本当は嘘なのです!さっきソフィア様が言ってたように本当は人目のつかないようなところで...!」
「ということは、もしかして王族である僕を騙したの?」
「え?ち、違います!そんなつもりでは...」
「ちょっと黙ってて、じゃないと君の罪が増えるよ?」
「ど、どういうことですか?」
私気づいたわ、この男爵令嬢馬鹿ね。この状況で証言を変えるなんて、偽証を告白したようなものじゃない。なんて馬鹿なの、こんなに馬鹿なんて計画外だわ。まずいまずいまずい。
「あはは、だいぶいい顔になってきたじゃない、ソフィア。」
何を言っている?この王太子は。
「ねぇ、ソフィア。本当にあの男爵令嬢をいじめたの?」
「...ええ。」
どうしようどうしようどうしよう
「なら、あの男爵令嬢の名前、言ってみて?いじめたなら知ってるでしょ?」
「っ...!」
あぁ...これはダメだ...計画が狂った
「バカ令嬢!あなた、どんだけ地雷を踏むのよ!」
私は諦めた、もうダメだ。
「はぁ!?誰が馬鹿ですって!?...っあ!」
さっきの可憐な令嬢とは一変し、過激な本性を表した。殿下は笑いを堪えている。
「あなたのせいで、私の婚約破棄への計画が台無しです!どうしてくれるのですか!」
怒りのあまり、昔の口調に戻った。
「だいたい、私がせっかくこの舞台まで整えてあげましたのに、なんでそんな細かく状況説明をするのですか!馬鹿なんですか!馬鹿なんですね!細かく説明したらもちろん多少の誤差が出るに決まってます!本当に馬鹿なんですね!そんなので王太子妃を狙ってたのですか!?笑えますね!」
こういう時はあれだ、せーのっ
ひっひっふーひっひっふー
「失礼、取り乱しました。」
壇上では男爵令嬢が1人で悔しそうに顔を歪めている。
「あはははは!最高!」
「レ、レオン殿下!信じてください!私は本当にソフィア様にいじめられて」
「いい加減にしてよ。もうその嘘も見抜かれてるの。」
殿下はキッと男爵令嬢を睨みつけた。
「僕がなんのために君に取り入ったと思ってるの?まさか気に入られたとか思った?それは残念だったね。君の父、オルダン男爵は密輸入と横領の疑いがあったから君を通じて調べさせてもらった。上手いこと君が怪しい動きをしてくれて助かったよ。おかげで君の家は今日をもって終了だ。」
「え...?」
「密輸入、横領、さらに偽証、僕と僕の婚約者に対する不敬罪だ。衛兵、連れて行け。」
「は!」
男爵令嬢は連れてかれる。
「嫌よ!違うわ!離して!嫌、いやぁぁぁぁぁ!」
殿下は私の方を向く。
「ソフィアも、大切に練った計画が台無しになって残念だね。だけど、僕にも計画があったんだ。」
「...といいますと?」
殿下はこちらに向かい歩いてくる。
「君が婚約破棄のために奮闘してたのは知ってる、君の侍女に教えてもらったからね。」
どおりで侍女の様子がおかしいと...
「それを聞いて思ったんだ。もし、その計画を崩せれば、」
私の目の前に立ち、手を引く。私はすっぽり殿下の体に収まってしまった。殿下は
「滅多に見れない君の悔しい顔をじっくり拝めるかと思って。そう、今の君みたいなね。」
悔しい、悔しい。
押し返そうとするがなかなか離れない。
「いやぁ、大成功だ。いいものが見れた。」
「は、離してください!」
「嫌だね。ふふふ、可哀想に、心の中では完璧な計画だと思ってた?けど僕にはお見通しだったよ。淑女の鑑なんて呼ばれてた君が急に無作法になって、疑わないわけないでしょ?これが君の敗因、やりすぎは不自然。」
「全て...分かってて?」
「もちろん、伊達に10年も君を見てないよ。」
「10年...?」
殿下はニコニコと見つめてくる。
「僕の初恋の人、愛しのソフィア。やっとこっちを見てくれた。」
「はい...?」
「これから一生、僕の傍に縛り付けて上げる。妃っていう鎖でね。」
「お、お断りしま」
「良かった、恋愛結婚出来そうで、僕は幸せそうだ。」
もうダメだ、私は抗うのを辞めた。
☆☆☆
その後、オルダン男爵家は全員処刑された。
そして、レオンハルト王太子とソフィア公爵令嬢は結婚し、仲睦まじい夫婦(?)となった。
「ソフィ、今日も可愛いね、その睨むような顔も素敵だよ。僕が支配してるみたい。」
「黙ってくださいドS殿下!」
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ちなみに男爵令嬢の名前はミカでした!
あだ名とは、腐ったミカンというものです。
これは私の完璧な私怨です。全国のミカさん、申し訳ございません。
気が向いたら後日談をあげるかも知れません。
追記:後日談はこちら
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