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n回目の悪役令嬢



 本来、家なき少女は天涯孤独の女の子が顔も知らない祖父(父の出生地)を訪ねて工場で働き始め、うまいことチャンスをつかみ祖父に身バレ、ごたごたも解決し一発逆転お嬢様に成りあがる話だ。齟齬はさておいて大筋はそんな感じの話である。


 だからあくまでモデルであるだけのアンスフィアの聖女(ここ)の中ではヒロインは「工場で学費を貯めながら健気に学校に通う薄幸の辺境伯令嬢(天涯孤独)」ということになる。何度も説明するようだが共通項は「父親の出生地を訪ね、工場で働く、天涯孤独な少女」という一点に尽きるのだ。



「ベアトリス様! どういうことですか!」


「どうもなにもありのままお伝えしただけです、私はグランツ様に嫁ぐつもりがないのです」


「どうして! 幼馴染でいつも一緒におられたではないですか! 注意や叱責もグランツ様を思ってこそと私たちは理解しております!」



 一応、そういう設定らしいが幼馴染になった覚えは彼女にはなかったりする。なんせn回目の「今日」だ。

 先ほど分かれた彼女は一旦はパトリックも住むアパートへ身を寄せて、そのあと池の近くの小屋に引っ越すのだろうがそんなことさせるつもりは毛頭なかった。早いところ屋敷へ招いて住まわせよう。もうグランツでもアベルでもパトリックでもいいからくっつけてしまおう。そうすれば自分はお役御免、「その他大勢」(モブ)になれるはず、だろうと彼女は踏んでいたのだった。



「テランスは私に望まない結婚をしろとおっしゃるのね?」


「そういうわけでは、ただ……私はずっと貴女様を見てまいりました。グランツ様への恋慕は、たしかにあったでしょう、まさか設定や気の迷いだとでもおっしゃるのですか?」



 そのまさか、設定でーす。

 なんて言おうものならテランスは卒倒するか医者を呼んでくるだろう。口が裂けてもそんなことは言えるわけもない。ここはモブに成り下がるための何かを言わねば。しかし役職持ちの自分がなにか言ってもモブにはならなそうな気もする。悲しげに眉をひそめるテランスに向き直るとベアトリスは口を開いた。



(わたくし)、思うところがありますの」


「思うところ?」


「予感といってもいいわね、ヤヨイかどうかはさておいて聖女が現れる、グランツ様にはその聖女こそふさわしい。そうは思いませんこと?」


「伝説の話ですよ、本気でおっしゃっているのですか!?」


「私、いつだって本気で取り組んでますわよ」



そうだ、本気だ。本気でn回の今日を繰り返してきた。何度も何度も蔑むような眼を意識しながら「小汚いお嬢様ですこと」と吐き捨ててきた。

 もううんざりだ。性根はそこまで腐ってないぞ!ぶっちゃけグランツはタイプでもないぞ!王子だからって結婚したいわけなかろうがあ!なんて、それも口が裂けても言えそうもないが。



「私は、私が……貴女様を一番お傍で見てきたのです、わからないはずありません、貴女はたしかにグランツ様を」


「そうね、そんなこともあったかもしれませんわ。だけどもういいの、私、自分に自信を持って本当に大切にしたい殿方に出会いたいんですのよ」


「なら、その役を私が奪い取ってみせます」



 ……。…………。………………。


 なんて?


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