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悪役令嬢はもうやめる



 「ベアトリスお嬢様、ご機嫌麗しゅうございます」


 「ああ、テランス。ごきげんよう。なんだか元気がありませんね」


 「それが……グランツ様がなにやら転校生の辺境伯令嬢となにやらあったようでして」


 「あなたも大変ね」


 「お心遣い痛み入ります」



 テランスがどんよりした顔をしているときは大抵、そういう話をされるときであった。グランツに関してかテランスに関してかは話してみないと分からないものの、まあグランツのルートがほとんどでここで相手の情報を引き出してからいびりルートに入ることが九割だと言える。一週目の世界なんだろうなと思うことにしていたベアトリスだが何十回目の十七歳の今日、もういい加減にしてくれ。



 「テランスはいつも頑張っているのにグランツ様ってば」


 「え?そ、そんな、ベアトリス様を煩わせるようなことは……」


 「テランス、あなたグランツ様に意見を言うべきよ。私も一緒についていきますわ」


 「ベアトリス様……」



 彼女の推しはテランスだった。ノエルと二コラはあくまでも同級生だし、ほかの人間にはあまり交流がないし、消去法じみてはいるが個人的に一番好きなのはグランツよりもテランスだった。


 そもそも家なき少女に「王子」という役職は存在しない。マローの家なき少女は恋愛物語ではないからだ。そんな中で自分が悪役令嬢なのはあくまで「アンスフィアの聖女」にのっとっているからに他ならない。そういう概念を捨ててしまえばいいのだ。捨てよう。グッバイ食傷。



 「それでその辺境伯令嬢は?私になんの挨拶もないなんて」



 家なき少女なのに辺境伯。辺境伯なのは貴族の出身なのに旅回り、なんてことをしているからだ。独りぼっちで天涯孤独というシナリオには同情するけれど巻き込むのはごめん被る。自分が悪役令嬢(ベアトリス)なのはもう終わりだ。今日からはその他大勢(ネオ・ベアトリス)への一歩を踏み出すのだ。



 「あ、彼女です」


 「え?ああ、あの子……」


 「あ、あのっ、どなたですか……?」


 「! あなたベアトリス様になんというっ」


 「いいのです、テランス。……私は、ベアトリス・ウインチェスター。王太子殿下の花嫁最有力候補……なーんていわれてるけどさらっさらそんな気のないウインチェスター侯爵家の次女ですわ。よろしくお願いいたしますね」


 「え、はぁ…ヤヨイです、よろしくおねがいします」


 「お一人でここまでいらしたとか?大変だったでしょう、なにか辛いことがあったら遠慮なく我が家においでになってね、私が助けになれることもあると思いますから」


 「ウインチェスター侯爵令嬢……!」


 「ぜひ、ベアトリスと呼んでくださいませ。私もヤヨイと呼んでも?」


 「はいっ! ぜひ!」



 隣で唖然としているテランスはおそらく「さらっさらそんな気のない」というところだろう。なんせ今日まで幼馴染の最有力候補花嫁と呼ばれ、私だってさも決定事項のように振舞ってきたのだ。それを手のひらくるーっとされたら驚くのも無理はなかった。

 でも今日からはもうやめだ。シナリオなんてものを考えてやる義理はない。いままで頑張ってきた私偉すぎた。超えらい。名誉勲章よこせ。


 悪役令嬢はもうやめるのだ。

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