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彼は私を聖女と呼ぶ

なんて久しぶりなんだ。(戒め)



「ごきげん麗しゅうございます、ベアトリス様」


「ごきげんよう、テランス。どうなさったの?」


「聖女について本気でお調べになっているそうなので、参考になりそうなものを集めてきたんです。もしよろしければご覧になっていただこうかと思ったので」



 彼は手にしていた大きなトランクを床へ置くと恭しく頭をさげて、ケースを開けて見せた。色褪せた皮の表紙の分厚い本が何冊も。あっけらかんとしていたサシェも気を取り直したように丁寧な手つきでテーブルに重ね始める。



「どうして……だってあなた神話とかおとぎ話とか」


「もちろん、私にとってはそうです」


「ならどうして!」


「愛しい方が、なにやら真剣に調べものをしておられるのです。黙って知らんふりをする私ではございませんよ」



 図書室で話をした日、困ったように笑っていたからてっきり信じていないんだと思っていた。だからグランツにもノエルにもニコラにも伝えていない。ヤヨイは「とくに条件、とかは。そういうものですから」と申し訳なさそうに言っていた。彼女もその辺は知らないのだという。だから調べものにはヤヨイのことは巻き込まなかった。


 どうして。


 自分がおかしいことを言っている自覚はある、とベアトリスは一歩後ずさる。たとえここがゲームの中なのだとしても、彼らには関係ない。「外」も「n回目」も自分とヤヨイしか知りえないものを、どう説明したってだれかに信じてはもらえないし、一番仲の良いサシェだって「n回目」の記憶は持っていないのに。それを、どうして。



「あなたさまは私を侮っておられますね」


「そ、そんな、あなたの働きはよく見ておりますわ」


「それは従者としての顔でしょう?」


「えっと……」


「私が愛した人をどれだけ大切にするかなんて、誰も知らないんですよ。ベアトリス様」



 従者の彼も、決して粗雑ではない。伯爵家の人間だ、品位は備わっているし振る舞いも美しい。愛想笑いも完璧で、教養だってある。いつも見ていた。だって自分は「グランツ」の花嫁候補。一番王妃に近いと言われ、王妃教育を受けてきた。テランスのことだってずっと、ずっとそばで見ていたのに。



「さ、ご覧になってください、サシェも見るでしょう?」


「は、はい、テランス様! お嬢様、お茶を入れてまいりますね!」



 ああそんな、優しい顔でほほ笑まないで。

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