聖女のこと
そういえば。
ふと思い出して本を読む手を止めた。このゲーム、アンスフィアの聖女なんてタイトルだけあって本来ヒロインは聖女なのだけど、続編となるとどうなるのだろう。
まず、ゲームの背景として、アンスフィアという神様の神託を受ける存在が聖女と呼ばれる。聖女は、神の代弁者、その聖女に愛されるというのは神の加護に等しいものを受けるということでもある。
要は、聖女を手に入れれば生涯の安寧や繁栄を約束されるわけだ。ヤヨイは本来その立場のはずだけど。
じゃあ2は?2ってどうなる?
「ベアトリス様?」
「な、なんですの、テランス?」
「なにか考え事ですか?」
「そうね、考え事といえばそうかしら」
「……ずるいな」
「え?」
「私のことだけ考えてほしいのに、貴女の思考を奪い去れるその考え事がずるいと思いませんか?」
すまないがまったく思わない。
ベアトリス自身は乙女ゲームのヒロインのつもりはないので甘い台詞をささやかれてもときめくどころかなんかごめんといった気持である。テランスに非はない。ないのだが、そんな考えごとひとつとっても嫉妬していたら疲れるんじゃないのかと思うほどだ。
「今、一緒にいるだけでもずるいと言われる立場ですわよ、あなたが」
「そうですね、でも私のことだけ考えてほしいって思うのは仕方ないんですよ」
学校に居る間はテランスとグランツは決してべったりというわけではなく、こうしてベアトリスが図書館にいるところに「たまたま」テランスが居合わせることだってある。サシェだって常時一緒にいるわけではない。つまるところ二人きりだがそれは珍しくないのだ。もちろんテランスに限った話ではないけれど。
「なにを考えてらしたんです?」
「聖女のことですわ」
「以前もおっしゃってましたね」
「ええ、私ヤヨイが聖女かと思ってましたの」
「? なぜです?」
「女のカン、ってやつですわ」
深い理由などない。ルートに沿っていればそうだったはずだというだけだ。だから今回も悪役令嬢をやっていればヤヨイは聖女でグランツかだれかのオチだったはずなのだ。そもそもベアトリスルートに分岐するきっかけがどこだったのかもよくわからない以上、今だってヤヨイがそうかもしれないと思う気持ちがあるわけで。
「聖女を気にしてらっしゃるのですね」
「なんとなくですけどそう思うんですもの」
「伝説の話ですよ、おとぎ話がお好きでしたか?」
「まあ、嫌いじゃありませんわよ」
「私にとっての聖女はあなたですよ」
「そういう口説き文句は受け付けておりませんの」
「手厳しいなあ」
一度調べてみる必要がありそうだ。