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ヤヨイとベアトリス



「そういえばヤヨイ、学費ですけれど三分の一程度でしたらお父様が援助してくださるそうですわ」


「なんだかトリクシーにもご家族にもお世話になってばっかり」


「あら、私だけじゃありませんわ。だって最初にあなたを助けたの工員のパトリックでしょう?」


「うん、あ、そうだ、トリクシーにも会ってほしいって思ってたんです」


「パトリックに?」



 ここにきてパトリックの名前が出て来るとは思わず、うっかり口の横にクリームをつけてしまう。あれから聞いたヤヨイの話では、ヤヨイはデータ引き継ぎの最中に転生してしまったためアンスフィアの聖女2の内容は知らないと言っていたし、彼女の意志でこの世界を動かしているわけでもないらしかった。つまり、今後の流れは予想さえも不可能ということだ。


 パトリックは大きな工場の工員で、初めて街に来たヒロインを手助けする役割も持っている。故に「ベアトリス」と接する機会などない平民だ。年齢はたしか十九だったはずだが、悪役令嬢(このからだ)になってからはお目にかかったこともない。ゲーム画面のパトリックしかベアトリスは知らなかった。



「私に会ってどうするんですの?その、面識などありませんし」


「お礼が言いたいって言ってました」


「お礼?」


「私のこと住まわせてくれるって話したら、ウインチェスター侯爵令嬢は噂と違って優しいんだなって、私は友達だけどそういう手助けが自分にはできないからぜひお礼が言いたいって言ってたんです」



 噂というのは多分、悪役令嬢のそれだろう。夜会に来ない平民の生活は知らないが一部貴族が嫌われているのも本当のところだ。あのアベルでさえ、高慢で高飛車呼ばわりされている事実があるくらいだ。ここいら一帯では名家なのにも関わらず。


 しかもヤヨイの今の言い方では会ってもいないのにフラグが立っているっぽい。「優しいんだな」? 好印象を持たれている? それだけでかなり危険な賭けのように感じるのは彼女の気のせいなどではないだろう。



「ヤヨイ、あなた物語の続きは読んでいないんでしたわね」


「ん?うん、そうですね」


「パトリックが私に好意を持つ可能性は何割程度かしら」


「うーん、九割九分九厘だと思っていいと思いますよ。だってそういう話ですから」


「やっぱりそうなりますのね」


「でもグランツ様なんかと比べたら難しいんじゃないですかねえ、身分もありますし」


「身分差を乗り越えてなんてありそうな話ですわ」



 そう、忘れるなかれここは乙女ゲームの世界だ。どんな不条理で不可解な状況でも必ずフラグは立つし、立った以上は折らねばならない。折らなかったらフラグを回収せねばならない。そういうふうに決まっている。ゲームは一周目が一番気を遣うものだ。今日が仮にアンスフィアの聖女2周回ン周目だったら対応だって考えようがあるというもの。そうではない、自分には死活問題だ。



「まあ、悪い人じゃないので、お話くらいはダメですか?」


「まあ、ヤヨイのお友達ですものね……いいですわ、なんとかなるでしょう」


「ありがとう、トリクシー」



 平和的にヤヨイとの友情エンドが良いものだがそうもいかないのだろうなあというため息を紅茶で喉の奥へ流し込んだ。

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