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テランスとベアトリス



「ああ、ベアトリス様。ご機嫌麗しゅうございます」


「ごきげんようテランス、奇遇ね」



あれからテランスが何か変わったかと言うと特にそうではなく、いや、砂糖みたいなセリフを吐かれる回数は格段に増えていたが態度が変わったりということは無かった。グランツの手前できないこともあるのだろうがベアトリスはそのほうがよかった。



「(態度変わっちゃっても困るもんね)そういえば引き止めてしまったけどどちらへ行かれるのかしら?」


「グランツ様のご命令で街の菓子店の下見をしておりました」


「お菓子?」


「ええ、なんでも三の王女様のお誕生日が近いですからお菓子をお贈りになるそうです」



たしかにグランツ、もとい王家には王太子が二人、王女が三人存在する。三の王女は全兄弟の中の末っ子でまだ今年で五つか六つになるほど年が離れている。

そんな子に贈るのだからたしかに宝飾品やドレスなんてありきたりのものではなくお菓子なんかのほうが喜ばれると踏んだのだろう。



「私、グランツ様のそういうところは大好きですわ」


「同感です」



婚約者とか候補とか言われたとしても恋愛対象には見えないが、王家という縛られた空間で長男でありながら平等に家族を愛せるグランツをベアトリスは素直に尊敬している。

自分のあの、お姉様というよりオネエ様といった感じの姉と脂質貯蔵庫みたいな父親をそんなに愛せる自身はなかった。なんせ他人だと思っているくらいだから仕方が無いけれど。



「ベアトリス様はどちらへ?」


「散歩していたの、どっかの影にアインスがいると思うわ」


「ああ、だからおひとりでおられたのですね」



庶民派感覚の抜けない自分は街を散歩することが多々ある。もちろん貴族としては完全にアウトな感覚なので1人で歩いていようと物陰には常に護衛がいるが。街の治安は良い方だし、彼女自身はわりと街の人と仲がいいので治す気はないのだが。



「仕事じゃなければエスコートさせていただきたかったのに」


「テランス、あなたいつから私のこと好きなんですの?そんな風には見えなくてよ」


「何時でしょうね……まあでも木登りをして陛下に叱られた頃からでしょうか」


「10年以上前のことじゃないの!」


「ふふ、貴女は、ああいえ、お美しくなられましたよ。けど私のおしたいしているベアトリス様はあの頃となにも変わらないでいてくださる」



さらりと毛束をつまみ上げ髪にキスをするテランス。

ぼん!と音でもしそうなほど顔を赤くするベアトリスを見て気を良くしたらしいテランスはいたずらっぽく「秘密ですよ」と笑った。


10年以上、自分だけを慕い続けてくれていたらしいがそれに応えるかどうかはこちらにだって選ぶ権利がある。迂闊なことは言えないな、とベアトリスは改めて思うのであった。



「では私はこれで、お気を付けて」


「あ、あのテランス」


「はい?」


「……せ、聖堂の近くのお店はご覧になって?マカロンが美味しいわ」


「ありがとうございます、行ってみますね」



遠くなる背中を見つめながらため息をついた。

明確に好意を向けられるというのは酷く緊張するものだ。そんなのが少なくともあと四人いる。考えただけでいろんなものが崩れていきそうだった。



「(なんせつい最近まで悪役令嬢やってたからなー……)」



木登りをして陛下に叱られたころ。

それはグランツがたまたまいない日の記憶。2人だけで王宮の中庭で過ごした記憶。

自分のことではないように感じる、設定のベアトリスの記憶。


シナリオが書き代わり別の世界が始まった今、彼女はその他人事の記憶がこれから何度となく話のネタにあがってくると、この時点では気づいていなかった。

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