カラオケボックス
「好きになりそうになったけど大丈夫」
電車のベルが駅の中に響き渡る 「好きになりそうになったけど大丈夫」
電車のベルが駅の中に響き渡る
バンバンヴォンヴォン鳴ってるカラオケボックスの中で大好きな君の歌を聞く。ミラーボールの光に当たって顔が虹色に光ってるのが何か面白くてニヤニヤしてしまう。歌い終わった君が見つめられてる事に気付く。
「なんだよ、蓮実も歌えよ。」
凄く下手だから歌うの苦手なの知ってるでしょって不満に思いながらも弓弦に言われたから仕方ないってデンモクに手を触れる。
「俺、お前の歌声好きだけどな。Sumireみたいで。」
「Sumireって今人気の歌姫じゃん。嘘なのバレてるからね!」
弓弦はバレたかって苦笑いしながら机の上のコーラに手を出す。あぁ、本当に大きな手だな。凄く綺麗。
「神だわ〜。」
歌い終わった私にからかい半分で褒めてくる。ムカつくやつだ。カラオケボックスに二人だけどトキメキも何も無い。私達はただの友達なのだ。属に言う“友達以上恋人未満”だな。自分も恋愛として好きなわけではない。
歌う事に飽きた私達は他愛もない話をする。弓弦の家の周りは何も無いだとか、私が小さい頃に顔面から転けて骨折した話だとか。他にも色々話したけどくだらない話ばかりで忘れてしまった。しょうもない話で笑う君が可愛くて愛らしい。
「蓮実に言ったかな。言った気もするんだけど。」
「何を?」
「死にたいって思ったことある?」
「そらあるよ?どうしたの?」
「俺、母親死んでるんだよな。」
前触れもなく突然の告白。頭の回転が早いと言われる私でも困惑してしまった。知らなかった。今年知り合ったばかりだし知るわけもないか。とか考えながら詳しく聞いてもいいのかなってコーラを見つめている君を撫で撫でする。
「中学2年の頃に亡くなったんだ。」
君は私を見ることもなく淡々と話し続けてきた。
俺さ中学の頃ヤンキーだったんだよ。蓮実に写真見せたことあるから知ってるだろ?地元でも少し有名で毎日殴り合いしていて退学になる一歩手前まで行ったときもあった。自分って感覚がズレてるみたいでなんでこんなんで退学とかになるんだって思いながらも過ごしてたんだよな。まあ、それで親にも迷惑かけてさ。中学なんて反抗期じゃん?母さんに八つ当たりしたり傷つける言葉も言ったり。殴るとかは絶対しなかったけれどね。母さんがあんなに脆いなんて思わなかった。何を言っても笑顔で辛い表情なんか見せなかったから。母さんに『死ねよ』って言った3日後くらいに帰ってこなかったんだよ。父さんが『弓弦も来い。母さん探しに行くぞ。』って言うから渋々探しに行った。家の近くの踏み切りに行った時に人だかりがあったんだよな〜。オイ、嘘だろ。そんなわけ無いよな。って思いながら近付くと嫌な予想が的中して踏み切りの下には母さんの靴が落ちてた。綺麗に揃えられてた。母さん、仕事場で上司に追い込まれていて心の逃げ場がどこにも無かったみたいで追い打ちをかけたのは俺だって思った。兄妹にも責められた。『お前のせいで母さんは死んだんだよ。』って沢山責められた。踏み切りも葬式も家族に責められたことも未だにフラッシュバックするんだよな。その度に死にたいって思う。
君は泣きもしない。
「え、気まずい空気なっちゃった?!ごめん!」
笑ってこっちを見る。いや、なんで無理をするの?死なないで、君が悪いのかもしれない。でも泣いていいんだよ。大丈夫。色んなことが頭によぎるけど声には出す事ができなかった。何を言っても君は我慢をするのだろう。
君をぎゅってしながら撫で撫でして「大丈夫だよ。話してくれてありがとうね。」って言うけれど君は『ありがとう』って言うだけで遠くを見つめる。
「ねえ、弓弦。こっちを見て?私を見て。周りが何と言おうと私は味方だよ。昔は悪いやつだったのかもしれない。今の弓弦しか知らないけど今の弓弦を大事にしたいって思う。私は弓弦の昔ごと全ても愛せれるよ。」
これは告白ではない。友達としてだけど君を受け止めてくれる私がいる事を理解していて欲しいの。私を見てよ。大事なの。
「蓮実?」
涙目になっている私の頭に弓弦は手を回す。次の瞬間キスをされた。甘えたいんだなって受け止める。私達は友達以上になれないから。キス以上の何かをする訳でも無いしそれだけで終わる。
「よーし!歌うか!ごめんな!重い話して」
全然いいよ。逆に話ししてくれて嬉しかった!って返事をしたら笑い返してきてまた歌い始めた。
壁のディ○ニーらしき絵を見つめながら面白い話が無いか脳裏を巡らせる。面白い話して励まそう…ってか、弓弦は人のこと信用しなくて皆に隠し事をするタイプだったなって。頼ってくれたのは嬉しいなあ。
プルルルプルルル…アッ!終わりか!電話がなった。もう時間切れなんだなあ。早い。何もいいこと言えてない。歌い終わった君がキラキラとして目で見てくる。ああ、これはアレだ。
「本当に上手いなあ。弓弦の歌本当に大好きだわ。」
褒めて欲しい顔だ。簡単に喜ぶチョロい君を見ながら部屋を出る。