プロローグ 俺の今いる世界
前から冷たい水が俺の顔にかかる。
後ろから、右から、左からも水が俺を襲う。もちろんよけて抵抗しようとするが、何しろ全方向からくるので流石によけきれない。
「卑怯だろゴラァー!!」
そういいながら俺も反撃をする。が、一人で三人以上相手をするのは無理がある。反撃は虚しく、さっきの倍の水が俺に襲いかかる。
「ハハ、やはりお主は弱いのう。まだわしは3割も力を出していないぞい。」
仙人みたいに喋るおっさん…ではなく幼女。見た目からして10歳ぐらいのわりに喋り方が…と思ったのは少し前で、今では慣れてしまった。
「私もまだまだ全力ではありませんよ!」
今度は透きとおるようなきれいな声が聞こえてくる。声のとおり美少女だ。でもうるさい。そもそもこんな遊びで全力をだす奴の気がしれない。
え?今どんな状況かわからないだって?それは最初から読めばわかるだろう…。そう、俺たちは今、水遊びをしている!
世の中の男なら羨ましがるだろう。特に男子高校生の諸君、俺も高校生だが羨ましいだろ!俺も少し前まで憧れすらしていたシチュエーションだ。美少女たちとキャッキャウフフしたいと強く思っていた。
しかし、現実となった今ではただ鬱陶しいだけだ。いじめといえるほどに集中的に水をかけられ、逃げる余地もない。中にはやられて嬉しいと思うやつもいるだろうが、俺はそうゆう趣味を持っていない。
「俺は疲れた。お前らだけで遊んでろ。」
俺はそう言って何とか地獄から解放された。
「ニャハハ、またそう言って。本当は疲れてにゃいんでしょ。」
猫耳っ子キター!と前なら叫んでいただろう。慣れというものは恐ろしくも悲しいものだ。
「あんだけやられて疲れないわけないだろ!」
ああ本当、今すぐベットで寝たい。
「そうですよ。やりすぎなくらいです。さ、こちらで一緒に休みましょう。」
優しい。泣けるほどに…。そんな優しく声をかけてくれる彼女はエルフだ。可愛いし、胸はでかい。結婚したい。
「またエルフのお嬢に助けてもらって。そんなんでもうちのリーダーですかご主人。」
バカにするようなその口調、サラマンダーめ。
「そいや、お前もあいつらに混ざって水かけてきたよな。お前は飯抜きだ!」
「そんな!?それだけはご勘弁をご主人様!!」
本音は今すぐにでも水に沈めたい。飯抜きだけにしてやったんだから感謝しろ。てか火の精霊のくせして水は大丈夫なのかよ。
どうでもいいことを考えているが、そんなことよりも疑問に思っていることはないだろうか。
俺はさっき高校生と言ったが、そもそも現実に猫耳っ子やエルフ、サラマンダーがいるわけがない。
俺の妄想かって?そんなわけない。
よくある異世界転生とはまた違った形ではあるが、ここは紛れもなく異世界だ。今いる所から少し歩けば都市もある。
都市の名は《ゼルキウム》。種族問わず物を売ったり、ショーをしたり、泊まれる宿を経営したりなど様々な商売をしている都市。
そして、俺が…俺たちがたどり着いた地。
あの日、あの時、
俺の平和で退屈な日常は終わりをつげた━━━