第4章11話 銀河連合の未来を、不確実なものに預けろと!?
デスプラネットの設計図が過去のニミーに渡ってから3日後。
エルデリア経由でデスプラネットの設計図を入手した銀河連合は、一夜にしてデスプラネットを解析、とある作戦を組み立てた。
作戦計画は銀河連合の安全保障委員会に送られ、そこで計画が承諾されれば、作戦はようやく実行に移される。
現在は、その安全保障委員会にて作戦計画の承諾を待つ段階。
ボルトアの銀河連合本部、厳かながらも、どこか無味乾燥とした大会議室にて、円卓を囲んだ安全保障委員たち。
選挙によって選ばれた委員たちは、全員が惑星の代表であり、元首だ。
元首たちと同盟軍の軍人たちが話し合いを繰り広げる中、異質な存在である俺は突っ立ていることしかできない。
一応は魔術師、そして作戦立案者の1人として会議に参加する俺だが、とても口を挟める状況ではない。
提出された作戦計画を読み込んだ委員たちは、それぞれの意見を口にした。
「作戦内容については承知した。わしらは作戦に反対しない」
「我々は当作戦に賛成の立場である」
「私たちは、作戦を認めるかもう少し考えさせてもらおう」
「いくつか質問があるのだが、良いかね?」
最初から全員が賛成、ということはあり得ないのである。
もちろん、同盟軍のトップであるグロックもそれは理解していた。
彼からしてみれば、質問を投げかけられるのは至極当然のこと。
「どのようなご質問でも」
壁に垂れた銀河連合の旗を背後に、表情ひとつ動かさぬグロック。
委員の1人である、灰色の肌に縦長の頭を持つ老人は、淡々と疑問を口にした。
「この、デスプラネットに捕らえられた惑星ゼイと惑星ヨンピュ、惑星メルガーラの代表及びその家族の救出についてだが、これは本作戦に必要なことなのかね?」
「私も、同じ疑問を抱いております。ゼイ、ヨンピュ、メルガーラは、近頃は反銀河連合に等しい政策を行っております。我々銀河連合が、彼らを救う必要性を感じない」
「加えて、デスプラネットの破壊が可能な時間は限られているではないか。同盟軍の消耗を考えても、彼らの救出は不要であると思うがね」
感情を排し、合理を突き詰めたがゆえの疑問は、なんとも冷酷なものだ。
一方で、作戦計画にも感情は含められていない。
3つの惑星の代表とその家族を救出する理由は、単なる情によるものではないのである。
質問を聞いたグロックは無表情のまま答えた。
「その作戦に関しましては、参謀本部ではなく魔術師の提案に沿ったものとなっております」
グロックが口にした答えはそこまで。
言葉を途切らせたグロックは、俺に視線を突き刺さす。
あの視線は、作戦の立案者が疑問に答えろという意味だろう。
ついに俺が発言しなければならないときがきた。
面倒くさい、という本音は隠し、俺は必死に文章を頭に組み立て、それを口にする。
「え、ええと……簡単に説明すると、反銀河連合に傾いた惑星の代表をデスプラネットもろとも吹き飛ばせば、恨まれるのは銀河連合です。そうなれば、彼らは本格的な反銀河連合を掲げ、銀河連合内での内戦に発展する可能性があるんじゃないかと」
くすぶる敵対関係は、大きなショックにより表に吹き出すものだ。
銀河の平和と自由のためという大義名分も、自分の惑星の代表を見殺しにされた者たちにとっては虚しいもの。
むしろ、合理的に考えれば、それは銀河連合と手を切る絶好の機会である。
「それは帝國の思う壺。むしろ、それを狙って、彼らは3つの惑星の代表を捕らえたんだと思います。なら、帝國の思うようにさせるわけにはいかない」
俺なりの合理的な判断。
参謀本部は俺の判断を受け入れ、3つの惑星の代表救出を作戦に組み入れてくれた。
では、安全保障委員会の委員たちは、俺の判断を受け入れてくれるだろうか。
「私たちアースは、魔術師さんの説明に賛成です。今は銀河連合内部の結束を乱すわけにはいかないでしょう」
「うむ、我々ボルトアも、魔術師の意見に賛成だ」
アース代表のシグと、ボルトアの代表は俺の説明を受け入れてくれたらしい。
2人に限らず、多くの委員は俺の説明にうなずき、沈黙という名の肯定をしてくれている。
ただ、やはり納得しない者たちもいるようだ。
先ほどの老人は、己の考えを披露した。
「3つの惑星の反銀河連合政策は、彼らの地理的、政治的理由を考えれば仕方のないものだ。彼らの政策は合理的判断であり、彼らと我々が合理の末に衝突するのは必然。衝突が避けられぬのであれば、彼らを救出する必要もあるまい」
「それはそうでしょう。しかし、敵は少ないに限る。今の我々は敵を帝國に絞りましょう。3つの惑星を相手するのは、帝國を打ち倒した後の方が良いではないですか」
「ううむ、そうであるな」
とっさのシグの反論に老人は納得。
老人がしばし考え込む間、緑の肌が特徴的な委員が手を挙げた。
「もうひとつ、質問を。デスプラネットの破壊は、魔術師の魔法によって実行すると。一方で、万が一を考え、同盟軍の三個艦隊がデスプラネットを総攻撃すると。この艦隊の出動は必要か?」
確かにそうだ、と思った委員は少なくないらしい。
魔術師がデスプラネットを破壊してくれるのなら、なぜ同盟軍が犠牲を払ってまで戦わなければならないのか。
これは誰でも考えることだろう。
ただ、魔術師である俺からすると、その考えに賛成することはできなかった。
軍人として、グロックは委員の質問に粛然と答える。
「魔術師のお力は、皆様もご存知の通りです」
昨日、俺はとある惑星で全力の噴火魔法を発動した。
その光景は銀河連合本部に生中継され、この場にいる全ての委員が、俺の魔法の威力を目にした。
地上を割り新たな火山を生み出した俺の力を、委員たちは信頼している。
だからこそ彼らは、デスプラネットの破壊を俺1人に任せようと考えたのだ。
残念ながら、俺はそこまで信頼されるほどの人間ではない。
「ただ、デスプラネットを確実に破壊できるほどの魔法を使えるかどうかは、魔術師自身にも分かってはいません。まさか、試し射ちに惑星を破壊するわけにはいきませんので」
包み隠さぬ正直なグロックの説明。
直後、1人の委員が目を見開き叫んだ。
「銀河連合の未来を、不確実なものに預けろと!?」
合理を好む『ステラー』の住人にとって、不確実は忌避すべきもの。
無論、俺もグロックもそのくらいのことは分かっているし、対策も考えている。
「それゆえの艦隊の出撃です」
単純な話だ。俺の魔法が不確実ならば、確実な同盟軍を出撃させれば良い。
しかし、まだ納得せぬのは老人。
「ならば最初から艦隊の出撃だけで良いではないかね?」
「おそらく、デスプラネットの護衛には帝國艦隊旗艦のヴィクトル級巡洋戦艦と、数多くの巡洋艦が参加するものと推察されます。火力の高い帝國軍の艦隊を相手にすれば、同盟軍が大きな損害を被るのは必定。これを回避するための魔術師です」
即座に放たれたグロックの反駁に、老人もいよいよ口を閉ざした。
霧のような沈黙に包まれる会議室。
誰も表情を動かさず、誰も心の内を明かさぬ、冷淡な雰囲気。
果たして作戦計画は承諾されるのか。
次回 第4章12話『こっちの魔術師様は忙しそうッスね』
ラグルエル「偉い人たちと話し合うか、お友達とお話しするか。どっちが楽かは、一目瞭然よね」




