第4章6話 シェノさんが突っ込んできますわ!
「みなさん、のんびりしてる場合ではないと思いますよ!」
コターツの中であくびをする俺たちにツッコミを入れたフユメ。
フロントガラスの向こう側に広がる景色は、すでに宇宙ではなかった。
そこに広がるのは、誕生日パーティーの風船のように空中を漂う、大小様々な浮島たち。
「この惑星、重力がめちゃくちゃだね。貴重な鉱石が大量にある予感」
外を眺めそうつぶやいたシェノの瞳には、お金のマークが。
もし帝國軍の無人戦闘機に追われていなければ、シェノは鉱石集めに夢中になっていたことだろう。
そう、今は帝國の無人戦闘機に追われている最中。
シェノは操縦桿を動かし、根っこのごとく垂れ下がる浮島の岩肌にグラットンを寄せた。
切り立った岩の塊が視界いっぱいに広がると、シェノは再び操縦桿を動かす。
浮島に衝突する直前、グラットンは浮島を回避し雲の中へ。
雲を抜け、さらに浮島と浮島の隙間を縫い、無人機の攻撃を回避するグラットン。
分厚い雲の向こうから突如として出現する岩肌をかすめるたび、冷や汗をかく俺たち。
激しい動きについていけない2機の無人戦闘機は、岩肌にぶつかり爆発炎上した。
これで残りの無人戦闘機は8機である。
「あいつら、しつこい」
舌打ちをしたシェノは、今度はグラットンを急降下させ、地面へと真っ逆さま。
迫る地面に俺たちの恐怖値は限界を迎えるも、シェノは知ったことではないようだ。
あと数秒で仲良く天国へ、というところで、シェノは操縦桿を引く。
グラットンは船首を上げ、地面に生えた草木を吹き飛ばし水平飛行へと戻った。
背後では1機の無人戦闘機が地面に激突、地面を焦がしている。
辺りを見渡すと、グラットンは山ほどの高さにまで育った大樹に囲まれていた。
密集した大樹、行く手を遮る通常の樹木よりも太い枝。
「ぶつかるぞ! 危ない!」
目の前にまで迫った枝に、俺は思わず目をつむる。
だが、グラットンから放たれたブラスターにより枝は折られ、俺たちは無事。
鬱蒼とした大樹が俺たちを包みこもうと、俺たちの行く手を遮ることはできない。
葉や小枝がフロントガラスや機体にぶつかり、擦り傷を負いながらも、グラットンは前へと進み続ける。
わずかな光に照らされ、右へ左へ、上へ下へ。佇む大樹たちを回避し、ときには折れた枝や燃えた葉をまとう。
そうして大樹の森を抜けると、一転して荒野が眼前に広がった。と同時に、グラットンは地面に強く引っ張られる。
「うおっと!」
とっさに重力装置とエンジンをフル稼働させたシェノ。
グラットンは荒野に船体を引きずりながら、なんとか体勢を立て直す。
無人戦闘機の1機は地面に引っ張られたまま、地上に機体をぶつけ四散した。
「この地域、重力が強いみたい。燃料のこと考えると、あんまり長居はしたくないかな」
ただ飛ぶだけでも燃料消費の激しい地域。加えて敵からの攻撃を遮るものもない。
シェノは地図を眺め、グラットンを左に旋回させた。
次にグラットンが向かうのは山岳地帯。
「なんだここ……」
荒野を脱しやってきた山岳地帯に、俺は開いた口がふさがらない。
虹のようなアーチ状の岩山。それが山岳地帯に幾つも並び、重なり合っていたのだ。
岩山に沿うように飛び、アーチを次々とくぐっていくグラットン。
まさに曲芸飛行である。
目まぐるしく移り変わる景色と、のたうち回る恐怖感。
副操縦席に座るフユメは、いよいよ体力と精神の限界に達してしまったらしい。
「うう……気持ちが悪いです……自分に治癒魔法が使えないのが恨めしい……」
口を手で覆い、うずくまるフユメ。だからといって止まることもできない。
追いかけっこを少しでも早く終わらせるため、シェノは操縦桿の引き金を引き、ブラスターを発射した。
青のレーザーは、前方に架かるアーチのひとつを破壊、アーチは崩れ岩の断片を降らせる。
降り注ぐ岩を低空飛行ですり抜けたグラットン。グラットンを追う無人戦闘機のうち、2機は岩の雨に打たれ墜落した。
大胆すぎるシェノの攻撃に肝を冷やした俺たちは、自分たちの無事を確認し一安心。
だが、安心できる時間はごくわずかであった。
突如としてグラットンに衝撃が走り、操縦席に警報が鳴り響いたのだ。
「うわ、倉庫に穴あいた」
敵の攻撃が直撃したのだろうか、最悪の事態である。
俺はコターツを飛び出し、シェノたちに向かって叫んだ。
「修理は俺に任せろ!」
ほとんど頭を動かすことなく、衝動的に倉庫へと向かった俺。
倉庫の扉を開けると、確かに壁には穴があき、流れゆく岩山の景色に火花が飛び込んでいく。
これを直すには、土魔法で穴を塞ぐほかないだろう。
俺は両腕を突き出し土魔法を発動。五感の経験と想像、魔力により生み出された土が倉庫の穴を塞いでいく。
ところが、ここで不幸なことが起きた。グラットンが急旋回、俺は足を踏み外してしまったのだ。
盛大に転んだ俺は、その勢いのまま、塞ぎきっていない穴に吸い込まれていく。
気づけば俺はグラットンの外に飛び出していた。
遠ざかるグラットンを見つめ、宙を飛ぶ感覚に唖然。
背後に視線を移すと、こちらへ向かってくる無人戦闘機が。
次の瞬間、俺の体は無人戦闘機にぶつけられ、鮮血と切り離された胴体が視界に映ったのを最期に、俺は死んだ。
蘇るまでに長い時間はかからない。俺は再び操縦室で目を覚ます。
「本当に隙あらば死にますね!」
「俺だって死にたくて死んでるわけじゃないぞ!」
頬を膨らませたフユメに俺は言い返す。
一方でシェノは、ぶっきらぼうに口を開いた。
「あんたのおかげで無人機が2機減った。その調子で、無人機を全滅させてくれない?」
「死ねってか!? 俺に死ねってか!?」
「蘇るんだから良いじゃん」
「良くない!」
片や死ぬな、片や死ね。好き勝手なことを言うヤツらだ。
今は無人戦闘機の追っ手から逃れるのが最優先だろう。
アーチ状の岩山を幾つもくぐり抜け、2機の無人戦闘機から逃げ続けるグラットン。
果たしてこの追いかけっこはいつまで続くのか。
そう思っていると、山の向こう側にワームホールが出現、1隻の軍艦が飛び出してきた。
《救援に来ましたわ!》
無線から聞こえるアイシアの声と、グラットンを待ち構える乱雑な艦影。
ようやくヤーウッドのお出ましだ。
シェノはグラットンの針路をヤーウッドの格納庫に定め、エンジンを全開にさせる。
「このまま格納庫に突っ込む!」
《シェノさん!? 本気ですの!?》
「本気」
《まあ! シェノさんが突っ込んできますわ! 待ち遠しいですわ!》
歓喜したアイシアのいるヤーウッドは、もう目の前だ。
2機の無人戦闘機を撃墜しようと放たれたヤーウッドのレーザーとすれ違い、グラットンは格納庫に一直線である。
背後で4つの爆発が起きた時、グラットンとヤーウッドの距離は数百メートル。
わずか数秒で激突してしまうような距離だ。
「おいおいおいおい!」
ほとんど減速することなく格納庫に突撃するグラットン。
このままでは木っ端微塵、本当の死を覚悟し目をつむる俺とフユメ。
だがシェノは冷静さを保ち、スロットルを絞り、エアブレーキを展開させ、ホバリングモードを起動させた。
船首のスラスターからは青の光が吹き出し、グラットンは網にかかったように急減速する。
急減速はしても、止まることはできない。
格納庫に入り込んだグラットンは船体を格納庫の床に擦り付け、無理やりに減速。
グラットンは格納庫に大きな擦り傷を付け、牽引車を弾き飛ばし、壁にぶつかり、ようやく動きを止めた。
エンジンが切られ、鉄の転がる音を聞きながら、ニミーは両腕を上げて大喜び。
「おお~! たのしかったー!」
「久々に面白いフライトだったね」
この姉妹、どうかしているのではないか。
カーラックはコターツに潜ったまま、表情ひとつ変えずにうつむいている。
俺とフユメは副操縦席にもたれかかり、大きくため息をついた。
「こんなのは二度と御免だ」
「あ……ダメです……もう耐えられません……」
「おいフユメ! フユメー!!」
緊張感から解かれたフユメは、その場で気を失ってしまった。
ここまで追い詰められたフユメを見たのは、これがはじめてである。
次回 第4章7話『私が迂闊だったばかりに……!』
ラグルエル「アイシアちゃんとカーラックさんのご対面。話は平行線をたどっちゃうみたいだけど、ここで意外な発見があるみたいよ」




